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【体験談】「演劇」が変えた、ウェストロック社の次世代リーダー:身体と感情で学ぶ、新しいリーダーシップの形

リーダーシップ人材開発組織開発

2025年2月4日

コーチングを通して次世代リーダー育成を支援する、35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)CEOの桜庭です。今回はコーチングプログラムの体験談をお届けします。 世界40か国で事業を展開する世界最大の包装資材メーカー、スマーフィット・ウェストロック社の日本法人であるウェストロック合同会社。同社は、マルチパックのパイオニアとして1969年に創業し、現在50人を超える社員がいます。しかし同社は、ある経営課題を抱えており、今回、35 CoCreationのコーチングプログラムを受講することを決定。2024年12月現在もプログラムが進行中です。 今回の記事ではプログラムを通じて、どのように課題を乗り越え、組織が成長してきているのか、同社日本事業を統括するゼネラルマネージャー園田悟さんと人事部長の橋本ルミさんに伺いました。 -そもそもコーチングプログラムを受けようと思われたきっかけについて教えてください 園田さん:2023年6月に入社して以来、社員一人ひとりが会社の成長に責任感を持って動いてくれないことに、強い危機感を感じていました。M&Aを繰り返してきた歴史を持つ当社では、トップダウンで方針が決まることが多く、社員の声が本国や上層部に届きにくい環境がありました。社員たちの間には、「言っても無駄」という諦めの空気が漂い、活気のない組織になっていました。 もう一つ、深刻な課題は英語力の不足でした。グローバルなビジネスを展開する当社にとって、世界中の人々と円滑にコミュニケーションが取れないことは、大きなハンディキャップでした。 このままでは、会社の成長を阻害しかねない。そうした危機感から、何かを変えなければと、必死に打開策を探していました。 そんな時、橋本さんがチームに加わってくれてより深いレベルでの変革を目指し、コーチングプログラムの導入を決めました。 橋本さん:私が入社したのは今年の3月ですが、園田さんの話を聞いてまもなく、人事担当として、社員一人ひとりの成長を支援したいという思いに駆られました。これまでの経験上、座学の研修だけでは、社員の行動はなかなか変わりません。社員一人ひとりの心に火をつけ、自ら成長できるような環境を作りたいと考え、「人の在り方」にアプローチするような、コーチングプログラムの導入を提案しました。 そこで元々ご縁のあった桜庭さんが思い浮かび、園田さんにご紹介したのがきっかけです。 -コーチングプログラム以外にも、様々なアプローチを検討されたとのことですが、最終的に35 CoCreationのプログラムを選ばれた理由は何だったのでしょうか? 園田さん:当初は、社員の英語力向上のための英会話レッスンや、1on1コーチングの導入も検討しました。しかし、それだけでは物足りないと感じていたのです。単に英語が話せるようになるだけでなく、グローバルなビジネスで求められる『考え方』や『コミュニケーション力』を根底から変えたい。そんな思いが強くなりました。 1on1コーチングも、上司と部下が一歩踏み込んでコミュニケーションすることで、一人ひとりの気づきにはつながるかもしれませんが、組織全体のカルチャーを大きく変えるには、もっと根本的なアプローチが必要だと考えました。 最終的に35 CoCreationにお願いしたのは、まさにその『根底』に深く入り込み、社員一人ひとりの『在り方』を変えてくれると感じたからです。社員が自分自身と向き合い、成長を実感できるような、そんなプログラムに惹かれました。 -人の在り方からアプローチするオントロジカルコーチングは、自分自身の内なる声に耳を傾け、心と体のつながりを深めることで、より人として成長するための手法です。これにより、単なる『指示や管理を行うだけのリーダー』から、チーム全体を共に成長させる『次世代のリーダー』へと進化できるのです。 園田さん:生産工場を持つ当社では、多岐にわたる専門分野を持つ社員が活躍しています。営業、サプライチェーン、物流、デザインなど、それぞれが持つ高い専門性を活かしつつ、組織全体の成長を牽引し、より良い未来を共創できるリーダーを育成したいと考えていました。 特に、若手社員には、単に指示を待つだけでなく、自ら考え、行動し、チームをまとめていくような、より主体的なリーダーシップを発揮してほしいと考えています。今回のプログラムは、まさにそのような私たちの思いに合致するものだと感じました。 そこで各部署から次世代リーダー候補となる5名を選抜し、プログラムを受講してもらうことにしました。 -今回のプログラムでは、演劇ワークショップというユニークな手法を取り入れたオントロジカルコーチングを体験していただきました。実際にコーチングを受けてみて、どんな気づきがありましたか? 橋本さん:参加者たちは、演劇ワークショップという予想外の展開に最初は戸惑いながらも、歌ったり、踊ったり、時には心の奥底から叫んだりと役に入り込み、思い思いに表現を楽しんでいました。 特に「この状況では、どう振舞えばいいだろうか?」「このセリフをどう伝えたら、相手に最も効果的に届くか?」「この表情で、役の心の動きをいかに表現できるか?」と自問自答しながら、様々な感情を表現しようとする姿が印象的でした。 自分とは異なる価値観や考え方を持つ人々の立場に立って心の動きを理解しようとする試みは、まさにリーダーシップ育成に不可欠な「共感力」を養う上で、非常に有効な経験だったと思います。「自分なのに自分じゃない」という不思議な感覚の中で、普段の自分では考えもつかないような行動や感情を体験できたのではないでしょうか。 また「一つのミュージカルを成功させたい」という強い一体感を持ち、集中して取り組んでいた姿が印象に残っています。互いを尊重し合い、協力し合いながら、普段とは異なる自分を引き出そうと試みているようでした。このような実践的な経験は、リーダーに大切な「コミュニケーション能力」や「自信」を養う上で、理論だけでは得られない貴重なトレーニングになったと思います。 園田さん:研修から戻ってきたメンバーを見て、私は率直に感動しました。皆、表情が輝き、目がキラキラしているのです。 難しいビジネス交渉でも、以前は、「こうしたい」「ああしたい」と自分の意見を一方的に押し出すような場面が多かったのですが、今では、相手との共感や理解を深めようとする姿勢が強く感じられます。ワークショップで学んだ表現方法を活かし、相手の心に響く言葉を選び、丁寧に説明しようとする姿に、彼らの成長を実感しました。 もちろん、これらのスキルを完全に身につけるためには、日々の業務の中で実践を重ねていく必要があります。しかし、今回の研修で得た経験と知識を礎に、彼らがさらなる高みを目指し、成長していくことを確信しています。 -リーダーの皆さんがコーチングを受けるようになってから、会社全体にどんな変化が見られましたか? 園田さん:プログラムを受講したメンバーは、社内全体にポジティブな影響を与えていると感じています。受講生たちには、全社会議でグループディスカッションのファシリテーターを任せるなど、積極的に活躍の場を与えていますが、彼らが堂々とリーダーシップを発揮する姿を見るたび、周囲の社員も刺激を受けているのが分かります。とてもいい循環が起こり始めていると感じていますね。 橋本さん:受講生からは「もっとやりたい」といった前向きな声が上がっていて、人事としても大きな手応えを感じています。 彼らの中に、新しい可能性が芽生えていることを実感しています。 日々忙しく働く中で、自分と向き合う時間を持つことは容易ではありません。しかし、このプログラムを通して、受講生たちは自分自身と向き合い、より自分らしい働き方を見つけることができたようです。仕事に対するモチベーションも上がり、どこかスッキリした表情の彼らを見ると、私たちも本当に嬉しいです。 園田さん:今後はこのプログラムを土台に、2期生、3期生と輪を広げていくことで、組織全体が一つの大きなチームとなり、互いを高め合いながら成長していく姿を想像しています。それによって次世代リーダーの育成だけでなく、会社のさらなる発展へとつながり、持続的な成長を実現すると確信しています。 ありがとうございました! 【会社概要】ウェストロック合同会社 スマーフィット・ウエストロックは、持続可能な紙とパッケージングのグローバルリーダーとして、40ヵ国で500以上のパッケージングコンバーティング事業と63の製紙工場を展開しています。日本法人であるウェストロック合同会社(2024年12月31日に合同会社に社名変更)は、創業1969年、日本のマルチパックのパイオニアとしてスタート。国内屈指の生産力を誇る「島田工場」は、マルチパック専用工場として1981年から稼働し、40年以上の実績があります。年間3億枚の供給能力を誇り、色彩や階調を忠実に再現できる「国内屈指のグラビア印刷機」を備えた生産設備があります。HP:https://www.westrock.com/company/japan 本記事は、35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)の「note」にも掲載しております。

社員のエグゼクティブプレゼンスを高めるたった一つの方法

コーチングリーダーシップ人材開発

2024年12月16日

今回は、組織サーベイについての投稿第2弾です。組織や社員の課題を可視化する上で、サーベイは効果的なツールです。しかし、同じ評価項目であっても、その背景や文脈は人それぞれ異なり、時には深い理解や考察が必要です。 前回はサーベイに隠された社員の本音についてお話しましたが、本記事では、サーベイ結果の中でも特に改善に悩むことが多い「エグゼクティブプレゼンス」に焦点を当て、抽象度の高い評価結果から具体的な改善策につなげるための有効な方法を解説します。 エグゼクティブプレゼンスという「呪い」 コーチングにおいて、受講者から最も多く寄せられる課題の一つが、「エグゼクティブプレゼンスが低い」という悩みです。 人事評価で用いられることの多い360度サーベイで、エグゼクティブプレゼンスが低いと評価されると、多くの場合、「このままでは昇進は難しい」という判断を下されがちです。そのため、昇進を望む人たちは、エグゼクティブプレゼンスを高めるために必死になり、「自分はエグゼクティブプレゼンスがないからダメなんだ」と自信を失ってしまう人も少なくありません。 ではそもそも、『エグゼクティブプレゼンス』とは一体何なのでしょうか。「上に立つ人に求められる資質」「一流の存在感」とも訳されるこの言葉。一言で定義することは難しく、明確に答えられる人は、まずいないでしょう。捉えどころのない概念だからこそ、多くの人がエグゼクティブプレゼンスの呪縛に囚われているといえます。(私も実際、過去に自身のエグゼクティブプレゼンスが低いと評価された経験があり、形のない“ゴースト”に縛られ、苦しみました) 『エグゼクティブプレゼンス』という言葉に対する捉え方は、実に人それぞれ。 例えば、「発言量が少ない」だったり、「反対意見に対して自分の考えを明確に示せていない」だったり、エグゼクティブプレゼンスが低いとされる要因には様々な可能性があり得ます。 360度サーベイでは上司、同僚、部下、それぞれが異なる視点からこの言葉の意味を解釈しているため、まずはその多様な解釈を整理することがコーチングの最初のステップとなります。 涙のプレゼンターがグローバルリーダーに昇格するまで ここで一つ、エグゼクティブプレゼンスにちなんだ具体的な事例をご紹介します。 会社員のアキコさん(仮名)は、プレゼンなどで緊張すると涙が出てしまうという傾向がありました。プレッシャーを感じると呼吸が浅くなり、酸素不足で涙が出てしまう体質だったのです。英語でのプレゼンテーションでは、特にこの傾向が顕著でした。彼女は自分の考えを正確に伝えたいという強い気持ちから、極度の緊張状態に陥り、呼吸が浅くなることで涙が出てしまうのです。 しかし周囲からは、それが感情的な弱さだと認識され、すなわちリーダーになるべき立場としてはエグゼクティブプレゼンスが欠如していると捉えられていました。 彼女は、「ごめんなさい、これはちょっと体の反応なんです」と説明すればよかったのですが、周囲が勝手に「アキコさんはすごくつらいんだな」「プレッシャーに弱いんだ」と解釈し、そのフィードバックを繰り返すことで、アキコさん自身も「私はやっぱりプレッシャーに弱いから泣いちゃうのかもしれない」「やっぱりこういう場面でうまくできないから私はダメなのよね」と、次第にそう思い込んでしまったのです。 コーチングを通して、彼女は自分の意図と周囲の受け取り方の間に大きなギャップがあることに気づきました。何度かのセッションを通じて、体の反応を事前に察知しコントロールすることで、周囲の誤解を解けることに気づいた彼女は、呼吸法などのトレーニングを重ね、緊張を克服しました。その結果、アキコさんは、大規模なグローバルプロジェクトのリーダーとして活躍し、見事成功を収めることができました。 この事例からもわかるように、エグゼクティブプレゼンスは、様々な要素が複雑に絡み合ったものです。そのため、エグゼクティブプレゼンスを高めるためには、個々の状況を深く理解し、一人ひとりに合ったアプローチを選ぶことが求められます。 しかし、アンケート調査などでは、エグゼクティブプレゼンスのどの部分が問題となっているのか、具体的に特定するのが難しいことが多いです。例えば、「決断が遅い」「コミュニケーションが不十分」といった項目と、エグゼクティブプレゼンスの項目、どちらにも指摘があると、それらと関連付けられることがあります。 しかし実際にコーチングを通じてより深いレベルでの対話をしていくと、まったく別のところに、原因が判明することがあります。 特に、エグゼクティブプレゼンスのように、捉え方が人によって異なる抽象的な概念については、しっかり対話しながら、その人ならではの状況や背景を深く理解することが重要です。そうすることで、その人が抱える「見えない壁」を可視化し、具体的な解決策へと繋げていくことができるのです。 アキコさんのケースでは、自分の涙が生理的な反応であることを認められたことで、周囲の評価に振り回されることなく、自分自身を受け入れることができるようになりました。 その後の彼女が素晴らしかったのは、緊張で涙をこらえている自分と同じような人の存在に気づき、重要な会議の前に「まずちょっといいですか、みんなで深呼吸をしましょう」と提案したそうなんです。「今日すごく重要な局面で私も緊張してるので、皆さんも1回立ってストレッチして深呼吸しましょう」と。この行動は、グローバルなミーティングでも高く評価され、結果的に彼女を昇格させたのでした。 エグゼクティブプレゼンスを高めるたった一つの方法 アキコさんは、コーチングの中でこれまで心の奥底に隠していた傷や弱みを素直に打ち明け、自己と向き合いました。その結果、自己肯定感が大きく高まり、その心の余裕が周囲への行動に現れ、エグゼクティブプレゼンスの向上にも繋がりました。 アキコさんは、コーチングの経験を「癒された」と表現します。私たちは日常的に様々な評価に晒されていますし、特に仕事においては常にジャッジの対象。コーチングは、そんな日常から離れ、自分自身と向き合う貴重な時間です。アキコさんのように、コーチング後に「癒された」と感じるクライアントは多いものです。 それは、決して評価されない安全な空間で、これまで隠してきた心の傷や弱み、さらにはエゴや欲まで、ありのままの自分を受け入れてもらえるという、安心と信頼があるからこそです。 あくまでもサーベイは、より深い対話への入り口です。社員のエグゼクティブプレゼンスを高めるためには、信頼関係を築き、一人ひとりの心の奥底に寄り添うことが大切です。そうすることで初めて真の課題を捉え、解決策を見出すことができるのです。 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。今回は組織サーベイ編第二弾でした。コーチングの事例が少しでも皆さんのチームビルディングのお役に立つことができれば、嬉しいです。 今後も私のコーチングセッションの体験談やコーチングのテクニックをお伝えすることで、みなさんが組織のリーダーとして活躍するための参考になればと思っています。不定期にはなりますが、次回の投稿もぜひお楽しみに。

代表の桜庭が、アマゾンジャパンの人事350名が参加する1dayカンファレンスにて登壇しました

HR・人事知識リーダーシップ組織開発

2024年12月10日

日本初上陸“オントロジカル・コーチング”のアプローチに基づいた組織風土改善や、次世代のリーダーシップ開発、人材育成を手掛ける35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)合同会社(本社:東京都渋谷区)代表の桜庭理奈は、2024年11月6日(水)に アマゾンジャパン合同会社(本社:東京都品川区上大崎 3-1-1 目黒セントラルスクエア)オフィスにて開催された、人事メンバー約350名が参加する1dayカンファレンス「Japan PXTCon」にゲストスピーカーとして登壇しました。 アマゾンジャパンとのコラボレーション背景 アマゾンジャパンでは、今年度初めて人事向けの1dayカンファレンスを開催することになりました。日頃さまざまな場所で働く約350名の人事が一堂に会し、学び、つながることができる場を提供するためです。テーマは「Best at Amazon, Best in Japan」とし、人事のプロとして事業を支援する人事メンバーが、今後の仕事で活かせる学びや自身のキャリアを考える機会となりました。 桜庭は複数の外資系企業での人事経験と、起業後の現在までの経験や経営におけるコーチングの専門性を評価され、今回ゲストスピーカーとして招かれました。 当日はアマゾンジャパン人事のみなさんが多くご参加 本カンファレンスは、アマゾンジャパンの目黒セントラルスクエアにて行われました。当日は約100名が対面で参加し、さらにオンラインでは全国のアマゾンジャパン人事部門のメンバーへリアルタイムで配信されました。 企業内人事からコーチング会社を起業した経験を、赤裸々に吐露しました 桜庭は、本カンファレンスの『HR キャリアディスカバリー』セッションに登壇しました。今回は『大人のリナが子どものリナと再会する話』というテーマで、桜庭の幼少期から学生時代、その後複数の外資企業での人事経験を経て、35 CoCreationを創業するまでの道のりをお話しました。 単なる経歴や人事のノウハウの共有ではなく、桜庭が人生の各段階で何を大切にしてきたのか、どのような揺らぎがあったのかなどについて、約1時間にわたって赤裸々に共有しました。 参加者とのQ&Aセッション セッション後、参加者の皆さんから多くのご質問や個別のご連絡をいただきました。本レポートでは、カンファレンスでいただいた質問の一部を、実際の会話形式でお届けします。 Q:なぜ人事の仕事をやりたいと思っていたのかお聞かせください。 A(桜庭):ご質問ありがとうございます。キャリアの最初は「営業・企画」や「人事」で、今は「コーチ」とラベルを貼ると全然違う仕事をしているように見えることもあると思います。ただ、私なりには根っこは全部つながっているんです。 結局、組織も人の集まりなので、そこにいる一人ひとりに、自信を持って、輝いてもらいたいんです 。組織の中で 「自分には無理なんじゃないか」とか「自分に意見がない」など思って自信をなくしている人に、「私、イケてるかもしれない!」とかそういう感覚を呼び覚ますお手伝いをしたいというのが、根本にありますね。私自身も今回の講演でお話しした通り、自分らしさを組織で出すことが苦手だった経験もあります。 だから、小さくてもいいので、その人がその人なりに輝いていけるようにするために、私は仕事をしていきたいと思っています。 Q:コーチングを求めていないリーダーに対して、HRやコーチとしてどのように声かけができるでしょうか。 A(桜庭):ありがとうございます。このご質問は、結構いただきます。私が関わってきたリーダーの中でも「今は変わりたくない」とかなり自分の中で決めていらっしゃる方もいたので、そのような方に向けては、今の時点ですぐにコーチングを行うことが適切でない可能性もあります。 ただそれで終わりではなくて、私なら、その人が変わりたくない理由を知ろうとすると思います。変わりたくない背景には、変わらないことで手放したくない何かがきっとあると思うんです。それは何なのか、勝手に想像して終わりではなく、そこに好奇心を持ち、話をするのが結構重要なんじゃないかなと思っています。 Q:今まで一番対話に苦労したリーダーのご経験があったら伺いたいです。 A(桜庭):そうですね。一番難しいと感じたのは、 主語に自分が一切出てこない人ですね。「このリーダーは...」とか「あの会社がさ...」とか言っている人。そういう人とコーチングや話をする時は、一回その話をストップして「そのストーリーの中で、あなたという主人公はどこにいるんですか?」と問うことが大切だと思います。そこをちゃんとフィードバックした上で対話を進めないと、時間だけが過ぎてお互い生産的ではありません。 ーアマゾンジャパンのみなさま、ありがとうございました!

Noteコラム|なぜ仕事を抱え込んでしまうのか?“手放せない”リーダーの4つのタイプと処方箋

リーダーシップ人材開発

2024年9月2日

これまで多くのエグゼクティブコーチングを担当してきた中で、「自分が動かさないと何も進まない」「部下に任せるのが不安」「自分でやった方が早い」といった考えを持つリーダーを多く見てきました。しかし、こうした「仕事の抱え込み」は、リーダー自身の負担を増やすだけでなく、組織全体の成長を阻む要因にもなりかねません。 本記事では、そんな仕事を手放せないリーダーを4つのタイプに分類し、その背景にある心理と解決策を深掘りしていきます。Noteの記事をご覧ください。 https://note.com/35cocreation/n/n6004bddac8c2

JustCo主催イベント『Just Evolve 次の自分へ行け 』に桜庭理奈が登壇

コーチングリーダーシップ人材開発

2024年4月15日

次世代リーダーに求められるコーチングメソッドを紹介 2024年3月5日(火)JustCo新宿ミライナタワー(新宿)とBASE managed by JustCo(虎ノ門)の二拠点にて、コワーキングスペースJustCo主催イベント『Just Evolve 次の自分へ行け〜迷わず進め!新米リーダーを未来へナビゲート〜』に35 CoCreation合同会社 CEO 桜庭理奈が登壇しました。 業種も、役職も、ビジネスの規模も異なる様々な企業や個人が集まり、同じ空間を共有しながらそれぞれが成長を目指しJustCoを利用する方々の リーダーシップってなに? リーダーシップのために、なにをしたらいいの? よいチームや会社ってどんな組織なの? といったお悩みにこたえるため、桜庭から次世代リーダーの在り方やコーチングメソッドを紹介しました。 当日の桜庭の講演内容を抜粋しながら、イベントの内容を振り返ります。 組織文化づくりに必要なこと まず、林檎の木のように、組織には、カルチャー(空気感)、組織(木)、リーダー(土)、人材(根)の相関関係が存在し、これらがうまくシンクロすることが文化づくりで重要になります。 図1.組織、文化、人材、リーダーの相関関係 リーダーが実践する4種類のコミュニケーションアプローチ その上で、リーダーが実践するコミュニケーションのアプローチは以下の4種類があり、対話する相手に応じて使い分けていくことを意識することが重要です。 カウンセリング(過去志向・ASK型) メンタリング/アドバイス(過去志向・TELL型) コーチング(未来志向・ASK型) ティーチング(未来志向・TELL型) 図2.カウンセリング、メンタリング、コーチング、ティーチングの違い チームメンバーの育成を目指す際、目を向けるべきこと チームメンバーの育成を目指した対話を実践する際、チームメンバーの経験年数とリーダーによる権限移譲の相関関係に目を向ける必要があります。 実は過去志向のTELL型(教える)と未来志向のASK型(問いかける)コミュニケーションの間にはリーダーがぶつかる「魔の壁」が存在します。 教える相手の成長フェーズに合わせ、リーダー自身も変わる必要がありますが、これまでの型にはまり、「魔の壁」にぶつかることで未来志向のASK型(問いかけ)へとリーダーが成長できないケースが存在します。 そのような時は、自分が正解だとは思わず、常に「ひょっとして」という疑問を自分に投げかけ、俯瞰して状況を分析しつつ、謙虚な姿勢で答え探しをすることが大切です。 この「ひょっとして」という疑問を自分に対して投げかける習性を身につけることで効果的なコーチングの型を築きあげることができるのです。 図3.成長曲線の魔の壁:経験年数と権限委譲の相関関係 参加者の様子 講演の様子 会場:BASE managed by JustCo(虎ノ門) 講演の様子 会場:JustCo新宿ミライナタワー(新宿) 随所で講師の桜庭から参加者に対する質問やディスカッションが行われ、ワークショップのような双方向のコミュニケーションが見られる講演会となりました。 参加者がビジネス経験年数の少ない層からチームリーダー層まで幅広かったため、質問やコメントが多岐に渡り、参加者間での学びや共有が見られました。 始めから終わりまで参加者の高い熱量が感じられ、次回のセッションを求める声まで上がり、大盛況でイベントを終えました。 イベント概要 Just Evolve 次の自分へ行け〜迷わず進め!新米リーダーを未来へナビゲート〜 日時: 2024年3月5日(火) 場所: JustCo新宿ミライナタワー(新宿), BASE managed by JustCo(虎ノ門) 主催者:JustCo DK Japan株式会社 講師プロフィール 桜庭 理奈(さくらば りな)、35 CoCreation合同会社 CEO 元GEヘルスケア・ジャパン株式会社アジアパシフィック地域統括のHRビジネスパートナーとしてGEヘルスケア・ジャパンへ入社後、人事本部長、執行役員を歴任。 2020年に35CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)合同会社を設立し、多様な業態や成長ステージにある企業で人事部長不在の企業間で、シェアドCHROサービスを開発提供し、経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、アドバイザリー活動を伴走型で支援。経営者や人事担当者向けの執筆コラムも多数出版。 国際コーチング連盟認定PCCコーチ。一般社団法人日本オントロジカル・コーチング協会 代表理事。1on1コーチ、チーム・コーチ、ヘルス・ウェルネスコーチとして活躍中。愛知県出身 35 CoCreation合同会社について 35 Co Creation(サンゴ コ・クリエーション)合同会社は、「ヒトの心・身・信の3つの領域の真を統合することを通して、リーダーシップの進化を大胆に促進し、地球を次世代へ手渡していくリーダー人材を開発する」をミッションに掲げ、日本初上陸オントロジカル・コーチングのアプローチに基づいた組織開発、次世代のリーダーシップ開発、人材育成、組織風土改善を支援するコーチング事業を運営しています。 オントロジカル・コーチングは、自分自身の価値観・信条・倫理観、思考傾向など自身の在り方を理解することで行動習慣を本質的に変える、ヒト起点の改革を支援します。この改革を通じて、組織における価値創造、人材育成、組織改革を実現します。

ビジネスリーダーの人生旅路:「楽しんだって、いい」哲学の背後にある赤澤岳人のキャリア

リーダーシップ

2021年12月21日

店舗やオフィスの壁をアートで飾る事業を展開している株式会社OVER ALLs。実は、同社が提供しているのはアートの向こうにある価値観や、「『楽しい国、日本』を実現したい」という想いです。そんな会社の代表を勤める赤澤岳人さんに、事業にかける想いの出どころを伺いました。自身のキャリアについて立ち止まって考えてみたいビジネスパーソン必見です! “行き当たりばったり”でも、“必死のパッチ”で生きる 35CoCreation合同会社CEO 桜庭 理奈(以下、桜庭):最近事務所を移転されて、チームも夢も拡大されていると思うのですが、赤澤さんご自身のこれまでの人生の旅路みたいなものを聞かせていただけますか? 赤澤 岳人さん(以下、赤澤):自戒の念も含めていうと、「今も昔も“行き当たりばったり”の人生。でも、常に今を一生懸命に“必死のパッチ”で生きている」ですかね。キャリアビジョンとか、将来設計とか緻密に計画を立ててもその通りにならないし、「そんなに考えたってしょうがなくない?」と思うタイプで。とはいえ、「計画通りにならない」、というのは決して悪い意味ではないです。例えば、銀行の融資のために練りに練った事業計画書を作っても、5年後に振り返ると「物足りない」と思うわけですよね(笑)。それは、昔の自分がとうてい及ばないほど、自分が成長しているからです。 今、目の前にあることに必死になっていれば頭ひとつ抜けられるし、後々自分に返ってきます。人生とはそんなものだと思います。 ビジネスのリベラルアーツを鍛えた引きこもり期 桜庭:その価値観はいつごろでてきたものなんでしょう?どこかでシフトなどはあったのでしょうか? 赤澤:先ほど「自戒の念も含めて」と前置きしたのは、もうちょっと考えた方がよかったかな?と思うこともあったからです。というのも、大学を卒業する時に、ロースクールに進む予定になっていたんですが、入学金を払い忘れていて…。特待生待遇だったもので、古着屋で働きながら1年待って、再度受験して入学しました。でも、元来勉強嫌いだったもので、向いてなかったんですね。ロースクールを卒業し、その後3年ほど“半引きこもり状態”になりました。 桜庭:ものすごい変化ですね。 赤澤:はい。ただ、その間に普通なら20年くらいかかる量のビジネスに関する番組、書籍、漫画、映画に貪るように消費したんです。この体験でビジネスのリベラルアーツが身についたと思っていて、今の自分の礎になっていると思います。その時は何になるかわからないことでも、極端なほど一生懸命であれば、後々肯定されることはあるんだなと。このことに気がついたのが最近なんです。特に会社を立ち上げてから、自分がいきあたりばったりでも、必死のパッチでやってきたことがダイレクトに自分に返ってきているなと感じています。 桜庭:どこか暗闇で苦しみ、もがき何かを掴もうとしてらしたようにも聞こえますが、赤澤さんが貪るように動いた背景には何か求めるものがあったのでしょうか? 赤澤:苦しさの裏には「今の自分は本当の自分ではない」との思いがどこかしらにあって、且つビジネスに意識が向いたということは、起業などで世の中に名を残したい、と思ったんでしょうね。しかし、現実はまったく違った状況にいて、まさに思いだけが大きい“頭でっかち”でした。だから、行動が伴っていないことに苦しみ、もがいていたんだと思います。 居場所があるとは、担う役割があるということ 桜庭:アルバイトを経て、29歳で企業人として働き始めたということですが、そこから起業までの道のりはどんなものだったのでしょう? 赤澤:引きこもり期間を経て、28歳で就活を始めました。ハローワークで職探しをしていたんですが、リーマンショックやらがあった不景気なご時世に、職歴がまったくない30歳手前の人間には、それは地獄の様な日々でしたよ。それでも1年ほど就活した頃、ご縁があって人材会社のパソナへ契約社員として入社することができました。この時、ようやく自分の“居場所”を得たと思いました。私にとって、居場所とは、報酬の有無に関わらず、仕事上の役割をもって社会と繋がり、社会から認識されることを意味しています。ちなみに、この定義は今でも変わっていません。 働く上でベースになるリベラルアーツは持っていたものの、スキルを全く持っていなかった私は、誰よりも遅くまで働き、誰よりも量をこなしてそれをひとつひとつ積み上げていきました。そうこうしているうちに正社員で働く若手の指導も受け持つようになったのですが、時給で働くアルバイトの自分と月給で働く若い社員の格差を目の当たりにして、仕方ないと思う反面、大変悔しい思いをしました。同時に、20代をフラフラ過ごしてきた者が居場所を見つけることが容易ではないことを痛感したんです。それに気づいてからは、自分のように20代に就職を選ばなかった後進のためにも圧倒的な実績を残さなければと思い、さらに昼夜問わず働きました。そして、新規事業を提案するイベントで20もの提案を出し、うちのひとつが事業として立ち上がるタイミングで正社員になりました。当時、やっと認められたという嬉しさはありましたが、「ここまでやってきたんだから」との思いもあり、「居場所ができた」と思えた入社時の方が感慨は深かったです。結局、元の人材紹介の部署へ戻る打診を受けたタイミングで退職し、共同創業者でもある山本勇気の誘いもあり、OVER ALLsを起業しました。 桜庭:赤澤さんの定義される“居場所”ってなんだか温かい感じがしますね。 赤澤:ハートフルというのとは違いますが、すべてのものは誰かの仕事で成り立っていて、その仕事で社会と繋がっていますよね。例えば、私がコーヒーを自販機で買って飲むまでの間には、たくさんの人の仕事があって、そのおかげで私がわざわざコーヒー農園から始める必要がないわけです。 古来より、社会で生きるためには、各々の得意を活かした役割を担う必要があったと思うんです。個々の役割の境界線が複雑化してきて見えにくくはなっていますが、それは現代社会でも変わらないでしょうね。先ほども言いましたが、報酬が発生する“労働”としての仕事ではなく、世の中に貢献する“役割”としての仕事を持つことが自分の居場所を持つことだと思います。仕事をしていない時は、それがなかったので暗闇の中にいるような気がしていたんでしょうね。 情報に踊らされず、「愛のために働く」 桜庭:年齢問わず居場所を見つけられずに不安に思っている人や、役割の意義を見いだせないと思っている人っていらっしゃると思うんですが、それについてはどう感じていますか? 赤澤:今の日本社会において、選り好みをしなければ、居場所が見つからないということはほとんどないはずです。社会との接点を持ちさえすれば、あとはどうにでもなるんですから。それでも選り好みをしてしまうのは、ネット上に溢れる情報に惑わされているのではと思いますね。8割悪意で固められた情報を鵜呑みにして「これは自分のすべきことではない」とならないよう、むしろ嫌だと思う仕事をしてみればいいですよ。そこから気づけることも多々あるはずです。私もスーツにネクタイでサラリーマンとして働くなんて死んでも嫌だと思っていましたが、飛び込んでみたら、そこにちゃんと自分の居場所はあったし、生きているとはこういうことかとも感じられましたから。 当時パソナのキャッチコピーが「愛するために働く」だったんですが、きちんと居場所を得ることで安定し、初めて隣にいる人を気遣い、愛することができるんだと、文字通り“実感”しました。ちなみに、その時隣にいた人が今は奥さんです。 桜庭:ちなみに、赤澤さんは、居場所がなくなる要因は何だと思われますか? 赤澤:企業が新卒一括採用を続けているからだと思います。全員右へ倣えの人材採用は、イノベーションだ、多様性だと言っていること真逆ですよね。皆とは違う道を自ら選び、道半ばで方向転換を図ろうとする者、例えば役者や芸人・バンドマンなどに、今の日本企業はあまりに閉鎖的です。自分自身も似た経験をして、後進のためになにがなんでも実績を残そうとしたし、いまもそんな部分にメスを入れなければと思っています。いい加減、高度経済成長の奇跡は忘れ、大量生産・大量消費を前提とした人の育成や組織構造はやめるべきです。 キーワードは「楽しんだって、いい」。アートで組織を前進させる 桜庭:赤澤さんの会社の「楽しんだって、いい」というフィロソフィーと、これまでお話いただいたこととの繋がり、それを踏まえて、これから日本企業の組織はどうなっていくべきだと思われますか? 赤澤:高度経済成長前のHonda、TOYOTAの話を読んだりすると、今の大量生産・消費とはかけ離れ、目をキラキラさせながら物作りをしていたことがわかるんですね。しかし、日本人は私も含めて、幼い時から楽しむと怒られる文化で育っています。中高では、髪を染めたり、ピアスを開けたりするたびに怒られる。「中高生らしくしなさい」と。「なんでおしゃれを楽しんじゃダメなの?」「らしくってなに?」って思いますよ。 アメリカに出張で訪れた時に驚いたことがあって。彼らのガレージの中にあったのは、車という生活必需品ではなく、ヨットやDIY道具といった趣味のものだったんですよね。その光景を見て、この国の人たちは本当に人生・生活を楽しんでるなと感じたんです。その楽しむ姿勢が日本にも必要だと思います。ただ、「楽しめ」「楽しもう」というと真面目に捉えてしまうので、「楽しんだって、いい」くらい軽やかなコンセプトでいいんじゃないかと。 その楽しむキーツールとなるのが、“アート”だと思っています。なぜかというと、アートというのは「正解不正解」が一切当てはまらないからです。モナリザをみて「これは正しいですか?」とは誰も聞かないですよね。「好き」でも、「怖い」でも、みた人がそういうならそれでいい、というのがアートなんです。 今、外資系コンサルティング会社と協業して力を入れている事業「Art X」に可能性や未来が見えているのは、何が正しいかではなく、何が好きで、どうしてそれが好きなのか?を明確にすることで、組織と個人の間で会社を前進させていく関係性を作り上げていくことができるからです。 はじめは正しい意見を言おうなど思わずに、「なんとなく」でもいいんです。普段の会議で「なんとなく」なんていうと怒られるでしょうが、それでいいんです。 そんなことを「楽しんだって、いい」と許容できる組織が増えて、まず会社が楽しくなれば、日本が楽しい国になる一歩になると思います。 桜庭:赤澤さん、本日は貴重なお話、ありがとうございました! 編集後記(桜庭) 人と違った生き方を選ぼう、と理想を掲げても、実際には、社会構造や周りからの期待や基準軸によって、諦めねばならなかった。そんな経験がなかったか。 赤澤さんとの対談は、そう問われているような時間でした。 赤澤さんの歩んでこられた人生の旅路の中で、世の中に示していくロールモデルとしての生き様や、時には気合や勇気によって突き動かされたエモーショナルな行動は、OVERALLというチームの存在そのもののDNAとして、脈々と息づいていました。私たち一人ひとりが、自分の人生のアーティストなんだ、とドキドキワクワクするとともに、体温が上がりました。

新しいリーダーシップの転換:リーダーの役割とマインドを見つめ直す

リーダーシップ

2021年12月3日

風の時代、ニューノーマル時代において、新しいリーダー像のOSの入れ替えの必要性が叫ばれています。これからの時代のリーダーに求められるスキルや人材育成のスタイルとは…? 今回は、30年にわたるグローバル企業での人事経験を活かし、人材育成・組織開発のコンサルティングや研修、コーチングを行う株式会社フューチャー・ミー代表取締役社長 赤津恵美子さんにお話を伺いました。 10年前から抱いていたライフとワークのバランス 35CoCreation合同会社CEO 桜庭 理奈(以下、桜庭):まずはご起業おめでとうございます。会社員時代にお会いした時、赤津さんは非常に高い熱量でお仕事をされていたので、起業されたのは正直意外でした。きっかけはなんだったのでしょう? 株式会社 フューチャー・ミー 赤津恵美子さん(以下、赤津):ありがとうございます。おかげさまで1年ほど経ちました。独立はいろいろなタイミングが重なった結果です。まずは会社のM&Aに伴い、大規模な組織変更があったことです。 それまでは、日本の人材開発・組織開発部門の統括として、グローバルで活躍できるTOPタレントを輩出することや、社員のエンゲージメントの更なる向上、ダイバーシティの推進などのミッションについて、やりがいを感じながら担当してきました。しかし、巨大企業の買収によって人事の本社組織がガラリと変わり、多くの人が異動となりました。そこで、「自分はこれから何をしたいのか」と考え、見えてきたのが「働く人を元気にしたい」、特に「管理職の方々を元気にしたい」との思いでした。そしてそれは一社に限ったことではないな、と。 また、私自身のアメリカ赴任の経験から、場所にも時間にも、定年のような期限にも制約がなく、ワークもライフも充実した生活を送れる“独立”という形態には以前から憧れがあり、10年ほど前から、友人たちに独立したいと話していました。年齢的にも50半ばと、人生100年時代において人生の次のステージを考えるタイミングだったこともあり、決断しました。 桜庭:制約なく働くことが独立のモチベーションとなったのですね! 赤津:はい。時間の制約については、母親業とマネージャー業の両立で10年くらいは断続的に悩んでいたと思います。例えば、保育園のお迎えのために19時には会社を出るのですが、忙しい会社だったので、メンバーはたいてい遅くまで働いていて、一番にオフィスを出るのが申し訳ない気持ちでした。子どもを寝かしつけると自分も寝落ちしていたりするので、朝4時に起きて仕事をするスタイルに変えました。本当に切羽詰まった時は目覚ましがなくとも2時頃に起きたりしていましたが(笑)。 そんな生活を送っていて、家でも仕事はできるし、自分にあった時間帯に仕事をするのは効率がいいし、気分もいいことがわかってきました。性格的に独りが苦でないとか、自宅に落ち着いて仕事ができるスペースがあるとか、リモートワークの“向き不向き”はあると思いますが、こういうワーク&ライフがいいな、と思うようになったのです。 また、今はワーケーションなども進んできて、場所の制約も緩和されています。夫が米国に駐在しているので、まとまった時間あちらで過ごしたり、友人とワーケーションしたりして、見聞を広げ、ライフも楽しみながら、新たな気持ちで仕事に取り組むのも大事だなと思っています。 自分のバリュー&夢を語れるか?上司の存在意義は? 桜庭:赤津さんご自身の意識の転換はどういったことからだったのでしょう? 赤津:子育てと仕事の両立で、仕事の効率化をせざるを得ない状況になったり、夫や自分の赴任で海外に住んで、あちらの合理的な生活を体験したりといった“物理的”なきっかけがまずありますね。 あと、物理的なきっかけに関連しますが、成果を出すことは大前提として、「自分がどのように役に立てるのか?」を常に意識する環境にいたことも大きいと思います。これは、24歳で最初の転職をして、外資系の会社(ゼネラル・エレクトリック=GE)に入社した時、英語が未熟で肩身が狭かったのですが、「どうしたらこの職場に貢献できるのか?」を必死で考えましたし(結局、英語の上達は避けて通れないので、語学学校に通って克服しましたが…)、米国に赴任した時も「ネイティヴでない私がどうしたら役立てるか?」と周囲にアドバイスをもらいながら乗り越えてきました。 自分がやりたいことに飛び込んでみると、最初は夢が叶って嬉しいのですが、次第に自分の至らなさに気づき、否応なく変わらないといけない状況になります(笑)。でも、それを乗り越えた時の達成感は何とも言えず爽快です。私の場合は、物理的な環境に身をおくことが転換のきっかけになったと思います。 GEの元CEOである故ジャック・ウェルチが残した『Control your destiny or someone else will.(自分の運命は自分でコントロールすべきだ。さもないと、誰かにコントロールされてしまう。)』は、困難に当たった時に今でも思い出す言葉です。放っておいてもそれはなくなるわけではなく、遅かれ早かれ変わらざるを得なくなる。そうであるならば、自ら変わると決めた方が早くスタートできますし、選択肢も多くなる、ということなのですね。 桜庭:起業してもしなくても、時代の節目で「私は何の役に立てるか」は多くの人が感じていることでしょうね。 赤津:そうですね。「会社」を離れて個人の看板で仕事を始めたので、自分はどのように役に立てるのだろう、それを求める方にどうしたら出会えるのだろう、どう伝えればよいのだろう、とよく考えます。 日本の大企業でもリストラを行うところが増えてきました。会社で働き続けていく場合も、「私はこうしてこの会社に貢献する」、「会社は私のここに価値を感じている」ということが明確に言える必要があると思いますし、常に変わりゆく価値を創出するために、どう学び直し、身につけていくのかということについても計画的なアプローチが必要だと思います。 そのためには、よく言われることですが、“Must(やるべきこと)”と“Can(やれること)”と“Will(やりたいこと)”をバランスよく持つことが重要だと思います。MustとCanは大事ですが、それだけだとエネルギーが枯渇してしまいます。「うまくできるけど楽しめない」という状態です。「これが終わってから…」とMustやCanを優先してWillを我慢していると、そのうち何をしたかったか忘れてしまい、やりたいことが無い、エネルギーの低い状況になってしまいます。 そのため、どんな年代の方も、日常の中で定期的にWill、Can、Mustのバランスを見直す機会を持つこと重要だと思います。最近1on1が多くの会社に普及し、上司との対話が脚光を浴びていますが、部下を元気づけたり相談に乗ったりする立場のマネージャー自身に元気がないことも多いのです。きっとご自身のWillやPassionに目を向ける機会がなく、しばらくきてしまったのですね…。 現代は“感情”の時代。人材開発の鍵は“マインド” 桜庭:そういったことも含めて、これからチームを率いていくリーダーとしては、どんなOSへのアップグレードが求められるのでしょう? 赤津:知識やスキル面でのブラッシュアップはもちろん必要なのですが、コロナの影響もあり、コミュニケーションや人間関係に課題を感じているリーダーは多いです。 最近は、従業員意識調査や360度多面評価などでリーダーの評価が可視化され、「こんなに頑張っているのにこんな(低い)評価なのか…と自信を失った」、「自分と性格やノリが違う人には苦手意識があって、ついコミュニケーションが減ってしまう」、という話を聞きます。多様な意見を取り入れて、ぶつかりながらも協働することで課題解決や価値創造できる!とわかってはいても、なかなか現実には難しいですよね。 そこで、いま行っているのは、自己理解、他者理解、他者との関係づくりのワークショップです。これが結構人気でして(笑)。まずは自己理解を深めることから始めます。メンバーが受け身で覇気がないと思っていても、掘り下げていくと、「そもそも自分が多忙で溌溂としていない」、「多面評価の結果が悪くて自信をなくしている」、などと思い当たったりします。そこで、「そもそも自分はどんなことを大事にしていて、何がやる気の素なのか」、「どんな強みやリソースをもっているのか」といったことをツールも使いながら深く考えていきます。 次に、他者についても同様に、大事にしている事や、やる気の素、強みなど、対話を通して理解していきます。最後に、そうした多様な価値観を持つ人たちとどのように接すればよいのかを考えることで、「私が気にしすぎていたんだ」とか「こういう行動をすればよい相乗効果をだせそう」とか、すぐに職場で使える気づきをたくさん得て、元気になって帰られます。 また、「部下の質問に全て答えなくてはいけない」と思われている管理職の方も多いのですが、全てに答えがあるわけではないですし、一人で出す必要もありません。一緒に考える、得意でないことは他の人に補完してもらう、といった発想の転換も必要ですし、知識や人脈を広げて、活用できるリソースを増やすことも大事です。 勇気をもってリーダーのスタイルを変えていく! 桜庭:マインド面も含めた人材開発を行っていくことが重要なんですね。それを実現するプログラムとはどういったものなんでしょうか? 赤津:デジタルの進化で個人の発言や創造のインパクトが大きくなっています。TwitterやYouTubeなどソーシャルメディアの影響力はスゴイですよね。また、顧客ニーズも昔は最大公約数的な対応が一般的でしたが、今はデジタルツールで個別の状況がリアルタイムで見えるので、それに合った対応が不可欠です。したがって、社員がひとりひとりのお客様のニーズを的確に把握し、自分で考えて動くことが必要になってきています。ですから、社員の創造力を解き放ち、自律的に動けるように、しかも、自分勝手ではなく、部門や会社として全体の整合性が取れるように、というマネジメントが求められています。 自律型人材を増やすために、リーダー/マネージャーは「リード」「管理」「支援」「育成」の4つの役割を行う必要があると考えています。また、マインド面では、先ほども述べましたが、「自他の強みを生かすこと」、「社員が動ける、動きたくなる、Will, Can, Mustのバランスがとれた環境を作ること」、「任せて育てること」、「コーチングしながら成長を促進すること」の4つを意識して行うことが重要だと考えています。 以前は一般的だった上意下達の管理型から、自律性を引き出す支援型へ、マネジメントスタイルの転換が求められています。コーチングなんてされたことも、学んだこともないけれど、1on1やキャリア面談、評価面談で実践せざるを得ない状況なんです…という方が増えています。さらにそのスタイル転換のスピードも問われています。 いまの若手は「ここでは物足りない。成長のチャンスがない。」と思うとすぐ転職してしまいます。危機感が強く、自分の価値が高められるような仕事を求めているのですね。人間関係がよいというのは大事なことですが、人を惹きつけ続けるには、継続的に成長できる組織であることが重要なのです。 そんな新たなマネジメントを効果的かつ効率的に身につけるにはどうすればよいのでしょうか。それは、きちんと設計されたプログラムで、コーチや仲間と共に学ぶ場へ、踏み出すことだと思います。 フューチャー・ミーのプログラムでは、まず、先ほどのマネージャーの4つの役割と4つの基本方針にもとづき、基礎知識を学びます。知るべき事だけを効果的に、しかも応用がききやすいようにツールや豊富な事例と共に提供します。 次に、それを日々実践していただきます。今週はどんな目標を立て、そのために何を行い、どんな結果だったか、その反省に基づき、来週は何をするのか、といったPDCAを週報に書いて振り返ります。 最後に、やってみて疑問に思ったことはいつでもメールで質問できますし、定期的に個別コーチングを受けていただきます。個別コーチングは、大きな気づきと変化を実感できると、このような声をいただいています。「本質的な課題が見えて、実行の背中を押され、確実に前進した。組織運営に自信が持てた」「話すうちに課題が整理・言語化された。目的に向かって一緒に歩いていく安心感があった」「本質的な部分をえぐられた感じがしたが、自分に合った接し方をしてもらえ、成長した実感がある」 リーダー/マネージャーにも成長を感じていただき、部下にもそのような機会を与えられる、そんな循環が広がっていったら、日本の職場もやる気のある人が6%※という汚名を返上し、活気とイノベーションに溢れる場になるのではないかと思います。そんなムーブメントに少しでも貢献できれば非常に嬉しく思います。 ※Gallup社による調査 桜庭:活気とイノベーションに溢れる場…まさにそうですね!赤津さん、今日はありがとうございました! 編集後記(桜庭) ポストコロナの新時代におけるリーダー職のかじ取りについて読者に向けた「応援歌」を、と考えていたところ、これ以上ないくらい適任では!?とお顔が浮かんだのが赤津さんでした。 お話を伺う中で、パーソナルな弱みを感じた時のお話や、視点の転換や、学び、心やマインドの育みにいたるまで、丁寧にお話をくださいました。特にCanやMustだけに縛られ働くだけでは「エネルギーが枯渇する」というお話は、自分自身の就業人生を振り返っても大きくうなずくところでした。日本のこれからの時代に「支援型リーダーシップ」が当たり前となるように、赤津さんの挑戦に心から共鳴し、応援いたします。

中堅・ベテラン層のアイデンティティ・クライシスを乗り切らせるには?後編

リーダーシップ

2021年10月31日

働き方改革や旧型経営の破綻、パラレルキャリアの促進などにより、仕事をする上で組織に対する“個”の存在感が増してきています。当社CEO桜庭理奈へのインタビュー、アイデンティティ・クライシス前編は、桜庭の生い立ちやキャリアの中で経験したアイデンティティを中心に綴ってきました。後編では、アイデンティティ・クライシスを抱える社員の個性を認めるために必要なことや、自律的な個と組織をつなげていくために管理職や意識しておきたいことについて語っています。 35CoCreation合同会社 桜庭理奈 多様性の時代、社員にも経営者自身にも自律が必要 35CoCreation合同会社CEO 桜庭理奈(以下、桜庭):これまでのキャリアとアイデンティティ・クライシスの経験から私が確信したことは、組織に帰属していた人ほど、会社の判断が自分の考えと違った時に、ショックを受け、ネガティブな方向へ働いてしまうということです。頭と心がちぐはぐな状況に陥りやすく、判断が明確な打開策になりにくくなってしまう。誰が悪いわけでもなく、個と組織の正義だけでなく、個と個の正義もぶつかってしまいます。 編集部(以下、編):前編の冒頭で触れた30〜40代の反対行動も、その現れなのでしょうか? 桜庭:メンバーに、自律(自分で決断し、自分で行動する)してもらわなければ、そのような対立が出てきてしまいますよね。経営者も、目の前の課題だと思い込んでいることを解決するだけでは根本的な解決にはならなくて、もっと上流の「なぜそれをやりたいのか?」を自身に問いかけ、それを言語化し、多様な考えを持つ“個”へいかに伝えるのか?伝え方の戦略・戦術が必要だと気づくべきです。 編:迷っているメンバーに対し、「自律していいんだ」ということを伝えていくということでしょうか? 桜庭:経営者には2タイプあります。一つは自律を促すタイプ、もう一つは依存を推奨するタイプです。しかし、後者は人生を人に委ねることですし、今の時代では部下は生きにくくなるでしょうね。逆に、自分らしさや生きがいを理解して、個とコミュニケーションをとり、組織と個を繋げていこうとする経営者は前者のタイプです。ただ、コミュニケーションを間違えると前述のアイデンティティ・クライシスから派生した対立を生みます。 まずは、組織という有機体は多様性で成り立っているという前提に立つことが重要で、自分もその中の“個”のひとつなんだと自覚した上で、経営者も自分らしさを出していけばいいと思います。これは、一種のスキルですね。私自身もキャリアの中で挫折やら、失望やら、失敗やらを経験しましたが、そういった「自分は何者なのか」と深く追及するような経験が、このスキルを身につける大きなきっかけになっていると思います。業績をあげている多くの経営者が自分追及に試行錯誤して苦しまれた経験をお持ちなのも頷けます。 ただ、残念ながら、実際には個と組織をつなげる素晴らしいアイデアを持ちつつ、「でも〜」と何かしら理由をつけて、実行に移せていない経営者がほとんどです。「30〜40代の中間管理職に反対されて頓挫する」というのも、実はこの「でも〜」の一つなんだと思います。 そして「でも〜」といいつつ、多くのことを諦めているんですね。アイデアはあるんですから、諦めるのはもったいないです。まずは、その「でも~」が何なのかを他人と共有することから始めましょう。失敗を恐れず実行すればいいんです! それでもなお「でも〜」という経営者は多いでしょう。そんな時は個と組織を繋ぐため、経営者や役員と伴走する、私のような人事のスペシャリストを置くことも有用かと思います。しかし日本ではその人数が圧倒的に足りていないのが実情なんですが。 編:それが桜庭さんが独立された理由でもあるのでしょうか? 桜庭:経営者には相談者が必要ですし、少ない存在を大手に独占されたら、残り9割の中小企業はどうしたらいいのか?と思い至ったところで、私の人生のミッションが変わったのはあります。私自身をシェアしていただくことで自分も幸せだし、社会的インパクトもあるなと。それが独立前にパラレルキャリアとして、コンサルを始めたきっかけでした。 自分なりの真・善・美をみつめる オンラインにてインタビューを行いました 編:パラレルキャリアやプロジェクトベースの仕事が多くなって、ますます個の能力が問われている感じがします。 桜庭:自分で関わる仕事やチームを選べるようになってきてますよね。誰にも強制されないし、チームという安心感はあるしで、幸せなことだと思うんですが、同時に、自分にできることと、相手が求めることの齟齬が生じることもあって、そこを生じさせないための対話が必要です。そしてその対話に不可欠なのが、自律した個としての責任、何に対してイエス・ノーをいうのかという“軸”です。自分なりの「真・善・美」といえるもので、これがあれば、人生に対し主体性を持て、幸福感が高まり、結果的に創造性も生産性も高まるのではないでしょうか。 ただ、個にベクトルが向くので、不安にはなるでしょうから、「私の武器(軸)はこれです!」と言えるようになるまで、組織としても、経営者としても伴走は必要です。特に、マニュアルを作って「誰でもできる仕事」へと効率化とスタンダード化を正としてしっかりこなしてきた30代後半〜40代の人々にとって、「自分だからできる仕事」へのパラダイムシフトは、OSを載せ替えるくらい大きな変化なので、しっかりとしたフォローが大切なのです。 編:確かに、急に「自分で考えてやって!」と言われても不安しかないですよね…。 桜庭:そうですね、判断軸すなわち、自分なりの真・善・美はアップデートされてしかるべきですし、それを形成せずに自律して!と突き放されるのは酷かもしれません。そこは「これまでとは違う幸せもある」ことを体感できる丁寧なコミュニケーションや実験の場が必要でしょうね。 今まさしく、リスクを取らずに自律する視座を体感してもらうため弊社でも取り組んでいるのが「越境コーチング」です。部門や会社を飛び越え、利害関係のない人たちが同等な立場でコーチングし合います。多様な価値観に触れ、自分とは違う視座を得るのですが、そこでみな気づくのが「答えのないのが答え」だということなんです。 コーチング開始3〜4ヶ月は、「正解はなんですか?私たち合っていますか?うまくできていますか?」と聞く方が大勢います。それに対し何が正解かの答えを与えるのではなく、「なんで合っているかどうかが気になるのか?その違和感はどこから来ているか?」とさらに自分の深層を見てもらうようにすると、”答えのないのが答え”に皆行き着きます。「あんなに誰のための正解かわからない正解を求めていたのが恥ずかしい」というくらい。 コロナ禍なんて普通ではありませんから、“絶対的答え”なんてあるわけもないんです。しかし、それを求めるプロセスを経ることで”自分だけの答え”、自分らしさや生きがいといえるものに辿り着くのかもしれません。 経営者のみなさんは、全てをお膳立てする必要はありませんが、少なくとも“自分だけの答え”を見つけてアイデンティティ・クライシスを抜け切る道筋はチームメンバーへは示したいものです。そのためには、経営者自身も自律し、自らの幸せに向き合って、進んでいきたい道を皆と共有できるくらいに明確にする必要があるのかもしれませんね。経営者にもコーチングは必要で、特に自身をコーチングするセルフコーチングのスキルは、今後の経営者にマストなスキルになっていくと思います。 編集後記(編集部) 真・善・美。久しく忘れていた言葉ですが、“真”、“善”、“美”のそれぞれの意味と、各々の繋がりを考えた時、起こっていることと、その先への道が見える気がしました。これまで正しさを貫いてきた人々が、他者に対することを含めた意思や行為の基となる価値観、それを超えた感性を見つめ、従っていく時代がきたのだと実感。コロナ禍のおこもり時間も、自分深層探訪に使えるといいですね。

中堅・ベテラン層のアイデンティティ・クライシスを乗り切らせるには?前編

リーダーシップ組織開発

2021年10月31日

働き方改革や旧型経営の破綻、パラレルキャリアの促進などにより、仕事をする上で組織に対する“個”の存在感が増してきています。その傾向がリモートワークが進んだコロナ禍で、“ある現象”を生み、経営者を悩ませているようです。 今回、編集部は当社CEOの桜庭理奈にインタビューを行いました。桜庭はこれまで数社の企業で人事戦略に携わり、現在、多数の大企業・中小企業へ人事の面からサポートを行っています。前編では、桜庭の生い立ちやキャリアの中で経験したアイデンティティ・クライシスを中心に綴っていきます。 35CoCreation合同会社 桜庭理奈 “声なき声”をあげ始めた30〜40代中間管理職 編集部(以下、編):桜庭さんは経営者の方と接する機会が多いですが、その中で最近気になるお話があるそうですね。 35CoCreation合同会社CEO 桜庭理奈(以下、桜庭):そうなんです。立て続けに何人かの経営者から「新しい制度やシステムを導入しようとしても30代〜40代中間管理職が反対して頓挫してしまう」というお話がありました。反対するのは決まって30代(だいたい後半)〜40代のメンバーやチームを持っている中間管理職の方々なんです。 これは、自分たちが違和感を抱く旧型のことをやりたくないということだったり、自分たちが引き継いできた負のレガシーを次代には継ぎたくないという“声なき声”の表れなんだと思います。 コロナ禍で進む、アイデンティティ・クライシス 編:経営者側も“よかれ”と考えて導入する制度やシステムですよね? 桜庭:だから問題なんですよね。先日、大手の外資系製薬系企業がこぞって全国の営業所を閉鎖するとの記事が出ました。コロナ禍でのリモートワークの加速化が大きな要因です。フィジカルな接触を持たない環境は、個々人の自律的働き方や生き方を応援する一面もある一方で、主体的に組織と関わるマインド、モチベーション、スキルなども求められます。 経営側は「自由になっていいよ」というつもりでも、個人側はいきなりそんな環境に放り込まれて、戸惑ったり、不安に感じたり、中には落胆する人もいるでしょう。いわゆるZ世代はいち早く順応できるかもしれませんが、それまで社会規範に従って生きてきた30代〜40代は困惑と同時に、「もっと自分らしく思うがままに生きてもよいのでは?」、「でもそれが本当にいいのだろうか?」、「そもそも自分らしさってなんだろう?」と悩み・揺れているのではないでしょうか。 彼らはいま、頭と心がちぐはぐな状態、つまりアイデンティティ・クライシスに陥っているのだと思います。だからこそ、経営側からこの揺らぎを理解していない制度を提案されて、拒否反応が出てしまっているのが、冒頭での話なのかなと。 幾度のアイデンティティ・クライシスを経て磨かれ続けたキャリアと個性 オンラインにてインタビューを行いました 編:確かに、若い世代の方が自分らしく好きなように生きていて、それをみて30代〜40代は羨望とも焦りとも思える感情を抱いているように感じます。自身でアイデンティティ・クライシスだと気付くのは難しい気もしますが、桜庭さんにもご経験があるのでしょうか? 桜庭:人生の節目節目に何度か経験しています。最初のアイデンティティ・クライシスは小学生の時で中学3年生まで続きました。両親は、「変わり者でいなさい。そうでないと意味がない」と言い、私にかなり奇抜な格好をさせていました。スカートを中学の制服で初めて履いたほどです。一方で学校をはじめとした周囲には「変わった子・はみだしもの」と評価され、いじめられることもあり、家と学校、両者の狭間で苦しい思いをしていました。クライシスというよりはアイデンティティを確立できない、といった感じでしょうか。 編:自我に目覚めていない、もしくはまだ定まっていない子どもならではの歯痒い体験ですね。大人になってからアイデンティティ・クライシスに陥った経験はありましたか? 桜庭:何度かありますね。初めて就職した会社では、ありものを着せられる居心地の悪さを感じながらの仕事でした。留学帰りの12月という中途半端な時期に就職活動をしたので、その時に残っていた求人から応募し仕事に就いたのですが、なかなかうまくいかなくて…。「自分のやりたいことはなんだろう?」と模索しつつ、一方で経験のなさからの引け目もあり、結局9ヶ月ほどで辞めてしまったんです。 次に入った外資は、面接で社名を間違えていても「面白いから入れちゃえば?」というくらい“個”を認めてくれる会社でした。職場で自己を見出しつつ、個としてできることと、組織で成し遂げることがあるのが良いんだと感じられて、そのバランスも身につけることができたと思います。しかし、リーマンショックという避けられない時代の波の中で、“組織の我”が強くなっていくのを目の当たりにして、「有事の時こそ個を大切にすべきなのに」と、再びアイデンティティ・クライシスに陥ってしまったんです。 半ば会社に幻滅しながら、次のキャリアを考えた時、この会社で担っていた人財トレーニングを通じて感じた“入り口から出口までを見続けることの大切さ”を思い、人事に振り切ることにしました。というのも、研修で接している時は素晴らしい人でも、部下や周囲からの評価はとんでもない人が結構いたんです。何が起こっているんだろう?と思いますよね。良くも悪くも人事は人の人生を左右する部分がありますから、人に寄り添う必要があることも人事に興味を持った理由のひとつです。 その後、希望通り人事のポジションに就くことができたのですが、またまたアイデンティティ・クライシスがやってくるんですよ。採用と育成人事の後に、組織を作っていく人事部長になったんですが、組織を作りながら個に向かい合うと、経営側の思惑を押し付けたくなる衝動に駆られてしまって。綺麗事ばかりではないなと、個として組織に関わっていた時と視点が変わりました。とはいえ、経営メンバーでありつつ、メンバーの近くにいたい、嫌われたくないと、組織と個の間を振り子のように揺れ動いていました。しかし、揺れ動いたからこそ、どちらに振り切ってもダメだとわかったし、個と組織を繋げる方法や、そのためのコミュニケーションの取り方がわかったと思います。 自分らしさを取り戻すとき 編:キャリアアップしさまざまな体験をされましたね。自分に正直に行動されていたように感じます。 桜庭:そうですね。ただ、この段階でもまだ「自分らしくいられているな」という感覚にはなれずにいましたね。ちなみに、その会社も外資で本社が国外にあったんですが、日本ならではの真理を見ていないものばかりで、ストレスが蓄積していました。どういった感覚や戦略でそのリージョンでビジネスを展開しているのか不明だったことや、多様性を謳うわりには、トップにアジア人を置いていないのも腑に落ちませんでした。そこで、次のステップとしてドイツ系の保険会社で人事にチャレンジしてみることにしました。 そこでは初の日本人社長と本社の橋渡しを2年ほど勤め、のちに戦略人事、後継者育成をミッションとしてシンガポールへ赴任しました。家族に転職してまで付いてきてもらったシンガポールでしたが、そこでは徐々に働く環境への疑問が湧いてきました。例えば、「なぜ9時から働いているの?」とか、「オフィスで働くのは誰のため?」とか。そこでは頑なに“リモートワークではなくWork From Home(在宅勤務)”と念を押されていたのですが、そこにも筋の通らないことへの気持ち悪さを感じました。国籍が混ざり合った職場環境でも、こうなのか、と違和感を感じました。 そこからは価値観の転換が一気に進んだ気がします。「本当に大切にすべき家族を愛しつつも、どこか関係が希薄になってしまっている」、「働くことで自分を確立しようとひた走ってきたけれど、それだけで人は幸せになれるのか」と、自分の中に価値観の回帰現象が起きて、自分を育ててもらった日本へ帰ることを決意したんです。どこかに置いてきていた“愛情深い”という自分らしさを取り戻せた経験でした。 日本に帰ってからは、偶然にも2社目に働いていた会社に再び入ることになりました。組織の我が強くなり、虚しさすら覚えて辞めたかつての会社でしたが、いざ戻ってみると、組織と個の関わりがまったく逆転していました。個を大切にしながら組織としてのミッションをいかに成し遂げるかに真剣に向き合っていたんです。もう、感動しましたね。業績はどん底でしたが、それが「生き残る」という共通の目的で団結する原動力になっていました。 編集後記(編集部) 以前登壇されたイベントを拝聴し、「丁寧に言葉を紡ぐ方」との印象が桜庭さんにはありました。今回も、ご自身のキャリアについて赤裸々ながら、言葉のもつ力を感じられるようお話されていたと感じます。アイデンティティ・クライシスを幾度となく経験されていたことは意外でしたが、一見、抗い難い流れに乗っているようで、実際はご自身の心に正直に、自分なりの軸を確立していかれたのだなと思いました。機会があれば、心の葛藤の仔細を伺ってみたいです! アイデンティティクライシス後編では、コロナ禍で進むアイデンティティ・クライシスとその原因&脱出方法についてお伝えします。