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【体験談】「演劇」が変えた、ウェストロック社の次世代リーダー:身体と感情で学ぶ、新しいリーダーシップの形

リーダーシップ人材開発組織開発

2025年2月4日

コーチングを通して次世代リーダー育成を支援する、35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)CEOの桜庭です。今回はコーチングプログラムの体験談をお届けします。 世界40か国で事業を展開する世界最大の包装資材メーカー、スマーフィット・ウェストロック社の日本法人であるウェストロック合同会社。同社は、マルチパックのパイオニアとして1969年に創業し、現在50人を超える社員がいます。しかし同社は、ある経営課題を抱えており、今回、35 CoCreationのコーチングプログラムを受講することを決定。2024年12月現在もプログラムが進行中です。 今回の記事ではプログラムを通じて、どのように課題を乗り越え、組織が成長してきているのか、同社日本事業を統括するゼネラルマネージャー園田悟さんと人事部長の橋本ルミさんに伺いました。 -そもそもコーチングプログラムを受けようと思われたきっかけについて教えてください 園田さん:2023年6月に入社して以来、社員一人ひとりが会社の成長に責任感を持って動いてくれないことに、強い危機感を感じていました。M&Aを繰り返してきた歴史を持つ当社では、トップダウンで方針が決まることが多く、社員の声が本国や上層部に届きにくい環境がありました。社員たちの間には、「言っても無駄」という諦めの空気が漂い、活気のない組織になっていました。 もう一つ、深刻な課題は英語力の不足でした。グローバルなビジネスを展開する当社にとって、世界中の人々と円滑にコミュニケーションが取れないことは、大きなハンディキャップでした。 このままでは、会社の成長を阻害しかねない。そうした危機感から、何かを変えなければと、必死に打開策を探していました。 そんな時、橋本さんがチームに加わってくれてより深いレベルでの変革を目指し、コーチングプログラムの導入を決めました。 橋本さん:私が入社したのは今年の3月ですが、園田さんの話を聞いてまもなく、人事担当として、社員一人ひとりの成長を支援したいという思いに駆られました。これまでの経験上、座学の研修だけでは、社員の行動はなかなか変わりません。社員一人ひとりの心に火をつけ、自ら成長できるような環境を作りたいと考え、「人の在り方」にアプローチするような、コーチングプログラムの導入を提案しました。 そこで元々ご縁のあった桜庭さんが思い浮かび、園田さんにご紹介したのがきっかけです。 -コーチングプログラム以外にも、様々なアプローチを検討されたとのことですが、最終的に35 CoCreationのプログラムを選ばれた理由は何だったのでしょうか? 園田さん:当初は、社員の英語力向上のための英会話レッスンや、1on1コーチングの導入も検討しました。しかし、それだけでは物足りないと感じていたのです。単に英語が話せるようになるだけでなく、グローバルなビジネスで求められる『考え方』や『コミュニケーション力』を根底から変えたい。そんな思いが強くなりました。 1on1コーチングも、上司と部下が一歩踏み込んでコミュニケーションすることで、一人ひとりの気づきにはつながるかもしれませんが、組織全体のカルチャーを大きく変えるには、もっと根本的なアプローチが必要だと考えました。 最終的に35 CoCreationにお願いしたのは、まさにその『根底』に深く入り込み、社員一人ひとりの『在り方』を変えてくれると感じたからです。社員が自分自身と向き合い、成長を実感できるような、そんなプログラムに惹かれました。 -人の在り方からアプローチするオントロジカルコーチングは、自分自身の内なる声に耳を傾け、心と体のつながりを深めることで、より人として成長するための手法です。これにより、単なる『指示や管理を行うだけのリーダー』から、チーム全体を共に成長させる『次世代のリーダー』へと進化できるのです。 園田さん:生産工場を持つ当社では、多岐にわたる専門分野を持つ社員が活躍しています。営業、サプライチェーン、物流、デザインなど、それぞれが持つ高い専門性を活かしつつ、組織全体の成長を牽引し、より良い未来を共創できるリーダーを育成したいと考えていました。 特に、若手社員には、単に指示を待つだけでなく、自ら考え、行動し、チームをまとめていくような、より主体的なリーダーシップを発揮してほしいと考えています。今回のプログラムは、まさにそのような私たちの思いに合致するものだと感じました。 そこで各部署から次世代リーダー候補となる5名を選抜し、プログラムを受講してもらうことにしました。 -今回のプログラムでは、演劇ワークショップというユニークな手法を取り入れたオントロジカルコーチングを体験していただきました。実際にコーチングを受けてみて、どんな気づきがありましたか? 橋本さん:参加者たちは、演劇ワークショップという予想外の展開に最初は戸惑いながらも、歌ったり、踊ったり、時には心の奥底から叫んだりと役に入り込み、思い思いに表現を楽しんでいました。 特に「この状況では、どう振舞えばいいだろうか?」「このセリフをどう伝えたら、相手に最も効果的に届くか?」「この表情で、役の心の動きをいかに表現できるか?」と自問自答しながら、様々な感情を表現しようとする姿が印象的でした。 自分とは異なる価値観や考え方を持つ人々の立場に立って心の動きを理解しようとする試みは、まさにリーダーシップ育成に不可欠な「共感力」を養う上で、非常に有効な経験だったと思います。「自分なのに自分じゃない」という不思議な感覚の中で、普段の自分では考えもつかないような行動や感情を体験できたのではないでしょうか。 また「一つのミュージカルを成功させたい」という強い一体感を持ち、集中して取り組んでいた姿が印象に残っています。互いを尊重し合い、協力し合いながら、普段とは異なる自分を引き出そうと試みているようでした。このような実践的な経験は、リーダーに大切な「コミュニケーション能力」や「自信」を養う上で、理論だけでは得られない貴重なトレーニングになったと思います。 園田さん:研修から戻ってきたメンバーを見て、私は率直に感動しました。皆、表情が輝き、目がキラキラしているのです。 難しいビジネス交渉でも、以前は、「こうしたい」「ああしたい」と自分の意見を一方的に押し出すような場面が多かったのですが、今では、相手との共感や理解を深めようとする姿勢が強く感じられます。ワークショップで学んだ表現方法を活かし、相手の心に響く言葉を選び、丁寧に説明しようとする姿に、彼らの成長を実感しました。 もちろん、これらのスキルを完全に身につけるためには、日々の業務の中で実践を重ねていく必要があります。しかし、今回の研修で得た経験と知識を礎に、彼らがさらなる高みを目指し、成長していくことを確信しています。 -リーダーの皆さんがコーチングを受けるようになってから、会社全体にどんな変化が見られましたか? 園田さん:プログラムを受講したメンバーは、社内全体にポジティブな影響を与えていると感じています。受講生たちには、全社会議でグループディスカッションのファシリテーターを任せるなど、積極的に活躍の場を与えていますが、彼らが堂々とリーダーシップを発揮する姿を見るたび、周囲の社員も刺激を受けているのが分かります。とてもいい循環が起こり始めていると感じていますね。 橋本さん:受講生からは「もっとやりたい」といった前向きな声が上がっていて、人事としても大きな手応えを感じています。 彼らの中に、新しい可能性が芽生えていることを実感しています。 日々忙しく働く中で、自分と向き合う時間を持つことは容易ではありません。しかし、このプログラムを通して、受講生たちは自分自身と向き合い、より自分らしい働き方を見つけることができたようです。仕事に対するモチベーションも上がり、どこかスッキリした表情の彼らを見ると、私たちも本当に嬉しいです。 園田さん:今後はこのプログラムを土台に、2期生、3期生と輪を広げていくことで、組織全体が一つの大きなチームとなり、互いを高め合いながら成長していく姿を想像しています。それによって次世代リーダーの育成だけでなく、会社のさらなる発展へとつながり、持続的な成長を実現すると確信しています。 ありがとうございました! 【会社概要】ウェストロック合同会社 スマーフィット・ウエストロックは、持続可能な紙とパッケージングのグローバルリーダーとして、40ヵ国で500以上のパッケージングコンバーティング事業と63の製紙工場を展開しています。日本法人であるウェストロック合同会社(2024年12月31日に合同会社に社名変更)は、創業1969年、日本のマルチパックのパイオニアとしてスタート。国内屈指の生産力を誇る「島田工場」は、マルチパック専用工場として1981年から稼働し、40年以上の実績があります。年間3億枚の供給能力を誇り、色彩や階調を忠実に再現できる「国内屈指のグラビア印刷機」を備えた生産設備があります。HP:https://www.westrock.com/company/japan 本記事は、35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)の「note」にも掲載しております。

代表の桜庭が、アマゾンジャパンの人事350名が参加する1dayカンファレンスにて登壇しました

HR・人事知識リーダーシップ組織開発

2024年12月10日

日本初上陸“オントロジカル・コーチング”のアプローチに基づいた組織風土改善や、次世代のリーダーシップ開発、人材育成を手掛ける35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)合同会社(本社:東京都渋谷区)代表の桜庭理奈は、2024年11月6日(水)に アマゾンジャパン合同会社(本社:東京都品川区上大崎 3-1-1 目黒セントラルスクエア)オフィスにて開催された、人事メンバー約350名が参加する1dayカンファレンス「Japan PXTCon」にゲストスピーカーとして登壇しました。 アマゾンジャパンとのコラボレーション背景 アマゾンジャパンでは、今年度初めて人事向けの1dayカンファレンスを開催することになりました。日頃さまざまな場所で働く約350名の人事が一堂に会し、学び、つながることができる場を提供するためです。テーマは「Best at Amazon, Best in Japan」とし、人事のプロとして事業を支援する人事メンバーが、今後の仕事で活かせる学びや自身のキャリアを考える機会となりました。 桜庭は複数の外資系企業での人事経験と、起業後の現在までの経験や経営におけるコーチングの専門性を評価され、今回ゲストスピーカーとして招かれました。 当日はアマゾンジャパン人事のみなさんが多くご参加 本カンファレンスは、アマゾンジャパンの目黒セントラルスクエアにて行われました。当日は約100名が対面で参加し、さらにオンラインでは全国のアマゾンジャパン人事部門のメンバーへリアルタイムで配信されました。 企業内人事からコーチング会社を起業した経験を、赤裸々に吐露しました 桜庭は、本カンファレンスの『HR キャリアディスカバリー』セッションに登壇しました。今回は『大人のリナが子どものリナと再会する話』というテーマで、桜庭の幼少期から学生時代、その後複数の外資企業での人事経験を経て、35 CoCreationを創業するまでの道のりをお話しました。 単なる経歴や人事のノウハウの共有ではなく、桜庭が人生の各段階で何を大切にしてきたのか、どのような揺らぎがあったのかなどについて、約1時間にわたって赤裸々に共有しました。 参加者とのQ&Aセッション セッション後、参加者の皆さんから多くのご質問や個別のご連絡をいただきました。本レポートでは、カンファレンスでいただいた質問の一部を、実際の会話形式でお届けします。 Q:なぜ人事の仕事をやりたいと思っていたのかお聞かせください。 A(桜庭):ご質問ありがとうございます。キャリアの最初は「営業・企画」や「人事」で、今は「コーチ」とラベルを貼ると全然違う仕事をしているように見えることもあると思います。ただ、私なりには根っこは全部つながっているんです。 結局、組織も人の集まりなので、そこにいる一人ひとりに、自信を持って、輝いてもらいたいんです 。組織の中で 「自分には無理なんじゃないか」とか「自分に意見がない」など思って自信をなくしている人に、「私、イケてるかもしれない!」とかそういう感覚を呼び覚ますお手伝いをしたいというのが、根本にありますね。私自身も今回の講演でお話しした通り、自分らしさを組織で出すことが苦手だった経験もあります。 だから、小さくてもいいので、その人がその人なりに輝いていけるようにするために、私は仕事をしていきたいと思っています。 Q:コーチングを求めていないリーダーに対して、HRやコーチとしてどのように声かけができるでしょうか。 A(桜庭):ありがとうございます。このご質問は、結構いただきます。私が関わってきたリーダーの中でも「今は変わりたくない」とかなり自分の中で決めていらっしゃる方もいたので、そのような方に向けては、今の時点ですぐにコーチングを行うことが適切でない可能性もあります。 ただそれで終わりではなくて、私なら、その人が変わりたくない理由を知ろうとすると思います。変わりたくない背景には、変わらないことで手放したくない何かがきっとあると思うんです。それは何なのか、勝手に想像して終わりではなく、そこに好奇心を持ち、話をするのが結構重要なんじゃないかなと思っています。 Q:今まで一番対話に苦労したリーダーのご経験があったら伺いたいです。 A(桜庭):そうですね。一番難しいと感じたのは、 主語に自分が一切出てこない人ですね。「このリーダーは...」とか「あの会社がさ...」とか言っている人。そういう人とコーチングや話をする時は、一回その話をストップして「そのストーリーの中で、あなたという主人公はどこにいるんですか?」と問うことが大切だと思います。そこをちゃんとフィードバックした上で対話を進めないと、時間だけが過ぎてお互い生産的ではありません。 ーアマゾンジャパンのみなさま、ありがとうございました!

アルムナイ制度の利点と展望:離職と再雇用、そして組織の未来

組織開発

2021年12月22日

アルムナイ制度が注目を浴びる理由 終身雇用制度の崩壊、それは、企業側ではなく雇用者側の決断で転職といった離職が進むことも意味します。欧米のように転職(起業を含む)でキャリアアップを図ることも多くなったため、社内での長期的な人材育成が難しくなってきているのが実情でしょう。加えて各々の仕事に、より専門性が求められるようになっているため、リファラル採用など、必要な人材の「決め打ち採用」がミスマッチを防ぎコストパフォーマンスが良いとされ、その方法が模索されています。 そんな中において、すでに自社での実績があり、社のフィロソフィなどにも一定の共感を得ていることが確実な”アルムナイ(OB/OG)”は、もっともミスマッチが起きにくい人材プールだと言えます。 再雇用はまだまだ人づて・縁故 従業員5,000人以上の大企業の20%強が公式の再入社制度を持っています。パーソル総合研究所 コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査によると、再入社した人の75%以上は人づてや縁故で入社しているといいます。元上司からの仲介であれ、同僚からの仲介であれ、在職者からのアプローチで入社している実情があり、組織的に退職者と関わりを持ち続けることは、再雇用の促進には有効だといえるでしょう。 再雇用できる人、組織とは 会社とのベクトルの違いで退職した人は、再雇用の対象にはなりにくいです。人間関係への不満で退職した人も、既存社員が丸ごと変わるわけではありませんし、一種のトラウマみたいなものもあるでしょうから、そもそもアルムナイ的システムに組み込まれることを避けようとするかもしれません。 一方で、ミッション・バリューに共感はしつつも、自身のキャリアやスキルの面で物足りなさやずれを感じて転職した人、もしくは家庭の事情で致し方なく退職した人であれば、再入社の意向も高めです。「隣の芝は青く見えたけど、いざ行ってみると元の芝がよかった」というのはよくあること。こういった人を「会社を見限った裏切り者」と捉えるのではなく、会社を超えて出向させる制度があるように、転職=外部での修行(研修)期間でスキルを磨いた人と思える組織・風土であれば出戻りもしやすく・受け入れやすいのではないでしょうか。出産・介護など家庭の事情での退職については、いつ戻ってきてもいい制度があってもいいかもしれません。 その人が対象となるか判断するためには、退職時の本気の慰留と、退職理由など本音をしっかり聞き出すことが重要です。また、再入社のほとんどが人づてということは、逆に自分を知った人がいないと再入社が難しいと思われている可能性もあります。人物評価を含め、対象者の知り合い(元上司や同僚など)以外でも、企業側が気軽に声をかけられ、雇用側も相談できるといった、採用の判断や手助けができるシステム運用が求められるでしょう。 再入社の弊害を回避するには? 再入社の最大の弊害は、現場のメンバーが納得しない場合、関係がギクシャクして業務に支障をきたす恐れがあることです。ただ、上司や同僚が外部から突然やってくるというのは出戻りでなくてもあり得る話なので、出戻り者の以前の評価が(特に人物評価)良くない場合が多いのです。これに対処するには、なぜ今会社がその人を必要としているのか?を現場にしっかりと説明する必要があります。場合によっては、なぜその人が退職したのか、当時の思いはどんなものだったのかも説明する必要があるでしょう。 逆に、再入社した側も出戻りであることから、公平に評価してもらえないのでは?との不安もあります。実際に、公平に評価できないという管理職も一定数いますし、待遇・報酬は再入社後の方が低い傾向もあります。これは、再離職の要因にもつながりかねないので、スタート時点の待遇は致し方ないとしても、昇給などの評価基準を明確にするなどして、不安を取り除く必要があります。 再入社した人は、再び雇用してもらえた感謝と恩返ししたいとの気持ちで、仕事へのモチベーションがかなり高いですし、必要なスキルを携えて入社しているので、しっかりとフォローすれば、貴重な人材になるはずです。 アルムナイ構築のメリットは再雇用だけではない コスパの良い採用のための人材プールとして有益とされるアルムナイですが、いくつか構築メリットがあります。まずは再雇用、業務委託・発注先といった「協業」、ポジティブな評判の拡散、ネガティブな評判の抑制といった「ブランディング」、サービスや商品のファンといった「顧客」です。 どれか一つの目的ではなく、相互的に作用しますが、各企業の特色は出てくるようです。 キャリア採用に積極的に活用(すかいらーく) すかいらーくグループは、Come back社員として採用ページにて事例を紹介しています。グループの店舗数は多業態で多数あり、例えば配偶者の転勤などで退職した人が、転勤先の店舗で再雇用されるといった例もあります。またアルバイトから他企業を社員として経験して戻ってくるケースもあります。職場を離れても、客としてお店に通ったり、現役社員・アルバイトと友人関係として繋がりやすい環境もあるようです。 退職者をネットワーク化、協業の強化(リクルート、電通) リクルートでは、公な制度ではないものの、退職を「卒業」、元従業員(契約・パート社員を含め)を「元リク」とよび、通称「帰ってこいよ制度」をかなり前から取り入れています。人材輩出企業とも言われる同社、退職者のネットワークは仕事においても、プライベートにおいてもかなり大きいものです。退職者にも希望すれば社内報が送付され、Facebook上には「MR会(もとりくのかい)」といったグループもあります。ただ、MR会は会社が媒介しているわけではなく、有志のネットワーク。出戻り社員もいますが、どちらかというと卒業後も有益に仕事上で繋がれるネットワークの色が濃いのが特徴です。 電通も2020年に「終身信頼」を目指し、独自のアルムナイネットワークを構築、業務パートナーとして関係性を続けていくことを前提に早期退職者を募りました。 コアなファンでもある退職者(スープストックトーキョー) スープストックトーキョーでは、バーチャル社員証なるものを発行して、退職者でも現職者同様、割引サービスが受けられるなど、退職後も繋がりを持つシステムを構築しています。時には新商品の試食会を退職者対象に行うことも。これらのイベントは同窓会的な意味合いも持っていて、再雇用のケースはまだ少数ながらも、商品や会社へのエンゲージを退社してなお高いものにしています。 退職時と再入社時のコミュニケーションが肝! 一般的に言われるアルムナイのメリットは、採用のミスマッチを減らせることや、協業関係を構築できることですが、デメリットとしては、復帰する現場のメンバーが良く思わない、情報漏洩の危険性があることなどが挙げられます。また、再雇用を企業側から提示する場合は特に、その人が退職した時の面談などでネガティブな印象を与えていないか?が問題になってくるようです。調査によると、元の会社のサービスに対してはネガティブでなくても、会社に対してはネガティブに感じている割合がかなり高いのです。退職面談は人事部より上司が行った方が影響力が高く、「何を求めて辞めるのか」など退職理由に理解を示すとともに、「不満だったことは何か」「聞いておきたいこと、言っておきたいことはないか」など“心のうち”を丁寧に引き出すことで、ポジティブな印象を持って退職してもらえ、のちのアルムナイにも繋がっていきます。 逆に再雇用の時は、離れている間にどんな経験をして、どんな期待値で再入社してもらうのか?を明確にする必要があるでしょう。 退職することは「ネガティブ」なことではなく、お互いにとって「ポジティブ」なことであること、一度一緒に働いた者はその後も仲間であること、そして再雇用はその仲間と再び働けることという考えを浸透させるためには、普段から、キャリアのことを語り、仲間意識を高めるコミュニケーションが取れていることが大事ではないでしょうか。 特に新卒は「育ててもらった」恩義も感じていて、アルムナイの意識が高くなるといいます。また、学校の同窓会に積極的に出る人、学生時代からの交流を続けている人、社内の交流を積極的に行う人もアルムナイの意識が高いといいます。同期会や、現役を含めたOB/OG会、社内での呼応流会など、「母校」への愛よろしく「母社愛」を育める風土をいかに作るか。アルムナイは単なる名簿作成・運営ではなく、企業風土の醸成なのかもしれません。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

中堅・ベテラン層のアイデンティティ・クライシスを乗り切らせるには?前編

リーダーシップ組織開発

2021年10月31日

働き方改革や旧型経営の破綻、パラレルキャリアの促進などにより、仕事をする上で組織に対する“個”の存在感が増してきています。その傾向がリモートワークが進んだコロナ禍で、“ある現象”を生み、経営者を悩ませているようです。 今回、編集部は当社CEOの桜庭理奈にインタビューを行いました。桜庭はこれまで数社の企業で人事戦略に携わり、現在、多数の大企業・中小企業へ人事の面からサポートを行っています。前編では、桜庭の生い立ちやキャリアの中で経験したアイデンティティ・クライシスを中心に綴っていきます。 35CoCreation合同会社 桜庭理奈 “声なき声”をあげ始めた30〜40代中間管理職 編集部(以下、編):桜庭さんは経営者の方と接する機会が多いですが、その中で最近気になるお話があるそうですね。 35CoCreation合同会社CEO 桜庭理奈(以下、桜庭):そうなんです。立て続けに何人かの経営者から「新しい制度やシステムを導入しようとしても30代〜40代中間管理職が反対して頓挫してしまう」というお話がありました。反対するのは決まって30代(だいたい後半)〜40代のメンバーやチームを持っている中間管理職の方々なんです。 これは、自分たちが違和感を抱く旧型のことをやりたくないということだったり、自分たちが引き継いできた負のレガシーを次代には継ぎたくないという“声なき声”の表れなんだと思います。 コロナ禍で進む、アイデンティティ・クライシス 編:経営者側も“よかれ”と考えて導入する制度やシステムですよね? 桜庭:だから問題なんですよね。先日、大手の外資系製薬系企業がこぞって全国の営業所を閉鎖するとの記事が出ました。コロナ禍でのリモートワークの加速化が大きな要因です。フィジカルな接触を持たない環境は、個々人の自律的働き方や生き方を応援する一面もある一方で、主体的に組織と関わるマインド、モチベーション、スキルなども求められます。 経営側は「自由になっていいよ」というつもりでも、個人側はいきなりそんな環境に放り込まれて、戸惑ったり、不安に感じたり、中には落胆する人もいるでしょう。いわゆるZ世代はいち早く順応できるかもしれませんが、それまで社会規範に従って生きてきた30代〜40代は困惑と同時に、「もっと自分らしく思うがままに生きてもよいのでは?」、「でもそれが本当にいいのだろうか?」、「そもそも自分らしさってなんだろう?」と悩み・揺れているのではないでしょうか。 彼らはいま、頭と心がちぐはぐな状態、つまりアイデンティティ・クライシスに陥っているのだと思います。だからこそ、経営側からこの揺らぎを理解していない制度を提案されて、拒否反応が出てしまっているのが、冒頭での話なのかなと。 幾度のアイデンティティ・クライシスを経て磨かれ続けたキャリアと個性 オンラインにてインタビューを行いました 編:確かに、若い世代の方が自分らしく好きなように生きていて、それをみて30代〜40代は羨望とも焦りとも思える感情を抱いているように感じます。自身でアイデンティティ・クライシスだと気付くのは難しい気もしますが、桜庭さんにもご経験があるのでしょうか? 桜庭:人生の節目節目に何度か経験しています。最初のアイデンティティ・クライシスは小学生の時で中学3年生まで続きました。両親は、「変わり者でいなさい。そうでないと意味がない」と言い、私にかなり奇抜な格好をさせていました。スカートを中学の制服で初めて履いたほどです。一方で学校をはじめとした周囲には「変わった子・はみだしもの」と評価され、いじめられることもあり、家と学校、両者の狭間で苦しい思いをしていました。クライシスというよりはアイデンティティを確立できない、といった感じでしょうか。 編:自我に目覚めていない、もしくはまだ定まっていない子どもならではの歯痒い体験ですね。大人になってからアイデンティティ・クライシスに陥った経験はありましたか? 桜庭:何度かありますね。初めて就職した会社では、ありものを着せられる居心地の悪さを感じながらの仕事でした。留学帰りの12月という中途半端な時期に就職活動をしたので、その時に残っていた求人から応募し仕事に就いたのですが、なかなかうまくいかなくて…。「自分のやりたいことはなんだろう?」と模索しつつ、一方で経験のなさからの引け目もあり、結局9ヶ月ほどで辞めてしまったんです。 次に入った外資は、面接で社名を間違えていても「面白いから入れちゃえば?」というくらい“個”を認めてくれる会社でした。職場で自己を見出しつつ、個としてできることと、組織で成し遂げることがあるのが良いんだと感じられて、そのバランスも身につけることができたと思います。しかし、リーマンショックという避けられない時代の波の中で、“組織の我”が強くなっていくのを目の当たりにして、「有事の時こそ個を大切にすべきなのに」と、再びアイデンティティ・クライシスに陥ってしまったんです。 半ば会社に幻滅しながら、次のキャリアを考えた時、この会社で担っていた人財トレーニングを通じて感じた“入り口から出口までを見続けることの大切さ”を思い、人事に振り切ることにしました。というのも、研修で接している時は素晴らしい人でも、部下や周囲からの評価はとんでもない人が結構いたんです。何が起こっているんだろう?と思いますよね。良くも悪くも人事は人の人生を左右する部分がありますから、人に寄り添う必要があることも人事に興味を持った理由のひとつです。 その後、希望通り人事のポジションに就くことができたのですが、またまたアイデンティティ・クライシスがやってくるんですよ。採用と育成人事の後に、組織を作っていく人事部長になったんですが、組織を作りながら個に向かい合うと、経営側の思惑を押し付けたくなる衝動に駆られてしまって。綺麗事ばかりではないなと、個として組織に関わっていた時と視点が変わりました。とはいえ、経営メンバーでありつつ、メンバーの近くにいたい、嫌われたくないと、組織と個の間を振り子のように揺れ動いていました。しかし、揺れ動いたからこそ、どちらに振り切ってもダメだとわかったし、個と組織を繋げる方法や、そのためのコミュニケーションの取り方がわかったと思います。 自分らしさを取り戻すとき 編:キャリアアップしさまざまな体験をされましたね。自分に正直に行動されていたように感じます。 桜庭:そうですね。ただ、この段階でもまだ「自分らしくいられているな」という感覚にはなれずにいましたね。ちなみに、その会社も外資で本社が国外にあったんですが、日本ならではの真理を見ていないものばかりで、ストレスが蓄積していました。どういった感覚や戦略でそのリージョンでビジネスを展開しているのか不明だったことや、多様性を謳うわりには、トップにアジア人を置いていないのも腑に落ちませんでした。そこで、次のステップとしてドイツ系の保険会社で人事にチャレンジしてみることにしました。 そこでは初の日本人社長と本社の橋渡しを2年ほど勤め、のちに戦略人事、後継者育成をミッションとしてシンガポールへ赴任しました。家族に転職してまで付いてきてもらったシンガポールでしたが、そこでは徐々に働く環境への疑問が湧いてきました。例えば、「なぜ9時から働いているの?」とか、「オフィスで働くのは誰のため?」とか。そこでは頑なに“リモートワークではなくWork From Home(在宅勤務)”と念を押されていたのですが、そこにも筋の通らないことへの気持ち悪さを感じました。国籍が混ざり合った職場環境でも、こうなのか、と違和感を感じました。 そこからは価値観の転換が一気に進んだ気がします。「本当に大切にすべき家族を愛しつつも、どこか関係が希薄になってしまっている」、「働くことで自分を確立しようとひた走ってきたけれど、それだけで人は幸せになれるのか」と、自分の中に価値観の回帰現象が起きて、自分を育ててもらった日本へ帰ることを決意したんです。どこかに置いてきていた“愛情深い”という自分らしさを取り戻せた経験でした。 日本に帰ってからは、偶然にも2社目に働いていた会社に再び入ることになりました。組織の我が強くなり、虚しさすら覚えて辞めたかつての会社でしたが、いざ戻ってみると、組織と個の関わりがまったく逆転していました。個を大切にしながら組織としてのミッションをいかに成し遂げるかに真剣に向き合っていたんです。もう、感動しましたね。業績はどん底でしたが、それが「生き残る」という共通の目的で団結する原動力になっていました。 編集後記(編集部) 以前登壇されたイベントを拝聴し、「丁寧に言葉を紡ぐ方」との印象が桜庭さんにはありました。今回も、ご自身のキャリアについて赤裸々ながら、言葉のもつ力を感じられるようお話されていたと感じます。アイデンティティ・クライシスを幾度となく経験されていたことは意外でしたが、一見、抗い難い流れに乗っているようで、実際はご自身の心に正直に、自分なりの軸を確立していかれたのだなと思いました。機会があれば、心の葛藤の仔細を伺ってみたいです! アイデンティティクライシス後編では、コロナ禍で進むアイデンティティ・クライシスとその原因&脱出方法についてお伝えします。

アンコンシャスバイアスを理解して、真のダイバーシティを目指す!

組織開発

2021年9月22日

メンバーと話していても、いまいち何を考えているのかわからない。会議や打ち合わせをしていても、意見がまとまらなかったり、パッとした意見が出てこなかったり…。理由は諸々あるでしょうが、その一つは、もしかするとあなたが持つ“アンコンシャスバイアス”かもしれません。 アンコンシャスバイアスって? アンコンシャスバイアスとは、文字通り「無自覚(アンコンシャス)な偏見(バイアス)」のこと。 育ってきた環境や、経験してきたことなどに照らし合わせて、何かや誰かについて「きっとこうだ」と無意識のうちに判断してしまうのがアンコンシャスバイアスです。これは脳の働きの一種とも言われており、それがゆえに誰しも持っているのが普通とされています。しかし、そのバイアスが強くかかった状態で発言やなんらかの行動をしてしまうと思わぬ形で相手を傷つけてしまう恐れがあります。良好な人間関係を築く上での支障にもなるため、注意が必要です。 あふれかえるアンコンシャスバイアス アンコンシャスバイアスには下記の表のようにさまざまなタイプがあります。 ■人や組織に影響する様々なアンコンシャス・バイアス<対人バイアスの代表例> ステレオタイプ(Stereotype)人の属性や一部の特性をもとに先入観や固定観念で決めつけてしまう例:「あの人は〇〇だから□□だ」正常性バイアス(Normalcy bias)問題が起きても「私は悪くない」と自分に都合のいいように思い込んでしまう例:「私は大丈夫」「私の判断に間違いはない」確証バイアス(Confirmation bias)自分の考えに一致する情報ばかりを探してしまう例:「やっぱりあの人は悪い人だ」「私の判断に間違いはない」権威バイアス(Authority bias)権威のある人の言うことは、間違いないと思い込む例:「あの人が言うなら間違いない」集団同調性バイアス(Majority synching bias)周りと同じように行動してしまう例:「私の意見も同じです」「みんなが〇〇と言っているから」 ■キャリアに影響するアンコンシャス・バイアス<キャリアバイアスの代表例> ハロー効果(Halo Effect) 特定の利点や欠点に目が行き、全体の印象がそれに引きずられてしまう例:「あの人は〇〇があるからOK」「〇〇が無い人は何をやってもダメ」ステレオタイプ脅威(Stereotype threat)自分の「属性」に対する否定的な固定観念が呪縛となる例:「私は女性なので」「ぼくは次男ですから」サンクコスト効果(Sunk cost effect)費やした時間や労力を考えてしまい、やめていいこともやめられなくなる例:「せっかくこれまでやってきたんだし」「いまさらここで変えられない」バラ色の回願(Rosy retrospection)過去を美化してしまい、今を否定してしまう例:「前の方が良かった」「あの頃に戻りたい」インポスター症候群(Imposter syndrome)能力があるにもかかわらず、自分を過小評価してしまう例:「私にはまだムリ」「私には力不足」 出典:『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』(守屋智敬著)巻末付録 わかりやすいのはステレオタイプでしょう。 年齢、性別、人種、学歴、役職といった、その人“属性”で、その人の能力や発言を判断していることはありませんか? 例えば、成長めざましい企業の代表が某国立大学の出身であると、「やっぱり、◯◯大学は違うね」と思ったり、取引先からこちらが勝手に“ローキャリア”という先入観を持っている学歴の人を担当にされたら「重視されていない」と感じたり、逆に若くても役職の高い人だったら「仕事のできる人を当ててくれた」と思ったり。女性社員が細やかな気遣いをしてくれたら「さすが女性」と言ったり、逆に男性が同じことをすると「男性のわりに気がきくな」と言ったり…。挙げていくとキリがありませんが、全て一方的な決めつけ、つまりアンコンシャスバイアスの上に成り立った発言になっています。 ただ、ステレオタイプはわかりやすいだけあって、自分でもすぐ自覚できるものです。セクハラ、パワハラなど「ハラスメント」のガイドラインも気づくきっかけとなっているでしょう。権威バイアスなどもわかりやすいかもしれません。 しかし、周りと同じように行動する集団同調性バイアスや、費やした時間や労力を考えて判断を鈍らせるサンクコスト効果、過去を美化するバラ色の回顧、ましてや自分を過小評価するインポスター症候群などは、それ自体がバイアスであるということすら、思い至らない場合が多いのではないでしょうか。 その行動、ほんとにバイアスがかかっていませんか? アンコンシャスバイアスは無意識なので、普段の何気ない行動に現れます。なかには「よかれ」と思ってとった行動もあります。 例えば、適任だと思っていても小さいお子さんのいる女性には「大変だろう」と出張をお願いしないとか、キャリアに役立つと思っても、「若い子はプライベートを重視するから」と新人に休日にかかる仕事をさせないとか、新しいシステムの導入にあたって「覚えられないだろう」と、年配社員にアシスタントをつけたりとか…。 いずれも「気を遣った」ことで、当人の成長やキャリアを妨げることになり、気を遣われたほうが不満に感じ、気を遣った方は「よかれと思ったのに」とモヤモヤし、結果、関係がギスギスしてしまうという、双方にとって幸せでない状態になってしまいます。先回りしてその機会を奪う必要はありません。 ここで必要なのは、アンコンシャスバイアスの効いた“気遣い”ではなく“対話”なのです。 ダイバーシティとアンコンシャスバイアスの関係 アンコンシャスバイアスは、人間関係や組織、ひいては事業の成長にも影響を与えます。ダイバーシティ(多様性)が事業の成長には不可欠であることは、すでに議論の余地はないかと思いますが、多様性とは、人や制度を揃えればよいという訳ではありません。異なるバックグラウンド、価値観、考え方を理解し、許容してこそ成り立つものです。 では、その相互理解や許容の段階でアンコンシャスバイアスがかかってしまっていたら? 会議などで意見がまとまらないのは、「異なる意見が重要」と思っていても、先にあげたバイアスの「確証バイアス」が働いているからかもしれないし、イノベーティブな意見が出ないのも、「集団同調性バイアス」や「サンクコスト効果」の表れかもしれません。 また人財の有効活用にも、なんらかのアンコンシャスバイアスが働いて、最適化できていない可能性だってあります。 アンコンシャスバイアスはコントロールできる 先にお伝えした通り、アンコンシャスバイアスは脳の働きの一部なのであり、誰しもが持っているものです。実際に、日本労働組合連合が5万人から回答を得たアンケートでは、実に95%以上の人が、何らかのアンコンシャスバイアスを認知している結果となっています。 また、アンコンシャスバイアスが組織改革、特にダイバーシティの実現の鍵となっていることを認識している企業も増えており、その改善に向けての取り組みが行われつつあります。 取り組みの中で多いのは、管理職への研修・ワークショップです。リーダー職からトレーニングを行う理由は、部下が遠慮なく「それってバイアスかかっていませんか?」といった違和感を口に出せる空気感や場をつくること、ひいてはバイアスのないカルチャーを作っていくためです。会社にもたらす影響や期待値が大きい管理職だからこそ、彼らへのアプローチが必要なのです。 アンコンシャスバイアスにかかる研修を提供するチェンジウェーブによると、「バイアスレベルを測定」「自分の偏見を自覚」「コントロールする手法を学ぶ」を繰り返すと、アンコンシャスバイアスを無意識から意識下へ置くことができるようになり、それを習慣化することで、アンコンシャスバイアスをコントロールできるようになるといいます。 まずは自らのアンコンシャスバイアスを知ることから 無意識の領域にあるものを意識下に置くことはかなり困難です。アンコンシャスバイアスを自覚することも、もちろん同様です。 しかし、アンコンシャスバイアスは、定量化できるテストを使って測定することが可能です。ハーバード大の研究から生まれたThe Implicit Association Test (IAT) がポピュラーで、それを応用したテストもいくつかあります。 例を見てみましょう。 「親が単身赴任中」というと、父親を想像する(母親を想像しない)  体力的にハードな仕事を女性に頼むのは可哀そうだと思う  お茶出し、受付対応、事務職、保育士というと、女性を思い浮かべる  DV(ドメスティック・バイオレンス)と聞くと男性が暴力をはたらいていると想像する(女性を想像しない) ※日本労働組合総連合会実施のアンケートより 男女かかわりなく、意欲&能力のあるものを育成・登用すべきであるから、女性だけに特別な育成施策を行うのは良くないと思う。 子どもを持つ女性に残業無し・時短勤務などの配慮をすることは、子どもを持たない女性にとって不公平な話である。 会議などで意見を強く主張する女性は、自己顕示欲が強そうだ。 上のポジションにチャレンジする意思を明確に持たない女性まで育成するのは、コストがもったいないと思う。 ※サイコム・ブレインズ、アンコンシャス・バイアスチェックリストより ちょっとみただけでもハッとする項目があるのではないでしょうか?まずは「自分自身の偏見を知る」ことから始めてみてはいかがでしょうか。 他者と対話することで本当の理解につながる 自らの中にあるアンコンシャスバイアスについて知ることができたら、次は実際にそれを他者と対話してみましょう。研修を活用するのもいいですね。対話の場を持つことでさまざまなアンコンシャスバイアスの事例に触れることができ、それがバイアスのないカルチャーや空気感を作ることにつながります。真のダイバーシティ組織を目指す上で、アンコンシャスバイアスの理解はもはや必要不可欠になっているのです。   桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

人事評価制度見直しの前に考えるべき3つの重要な質問

組織開発

2021年8月17日

本記事は、KEIEISHA TERRACE連載:戦略HRBPから見た、人・組織・事業・経営の現在&これから 第4回 「焼け石に水」な制度改変に終止符を打つ-体感型の人事評価制度を作るには、より転載を行っております。* 年の瀬の時期は、企業によっては期が変わるタイミングでもありますね。それと同時に、評価制度、評価項目、評価システムの見直しに取り組んでいる企業もあると思います。最近特に「形骸化してしまっている評価制度を改訂したいのだが、何を軸に見直しをしていいか迷ってしまう」というご相談をいただきます。その中でよく耳にする声として、以下のような代表的なものがあります。 従来の経営からトップダウンでのカスケード型(上から下へ連なって展開する型)の目標設定が時代に合っているのか分からない 今まで各部門に裁量を任せすぎていて、今更全社で一丸となって統率の手綱を引くような印象を与えることで、チームの士気を下げるような制度は作りたくない 部門の統廃合で、一人ひとりが自己完結する裁量を持たせたのは良いが、個人商店化してしまってチーム感を失った組織に課題を感じる。チームとの連携をもっと促進するような評価項目をどのように盛り込んだらよいか 数値目標だけに焦点を当てすぎた目標設定と評価で良いのか。何を達成するかも大切だが、同じくらいどのように達成するかの行動も評価しなくて良いのか 評価制度のどこを変えたいか、の前に、評価制度で何を成し遂げたいのか意図を明確にする 先述の相談内容を耳にして、私が最初にお伺いするのは2つの問いかけです。 評価制度をどのように変えるかどうかの話の前に、そもそもなぜ見直しをするのかの経営の意図は何か そこに寄り添った制度を実装すると、どのようなチームメンバーの行動が変容することを期待するのか、という明確なビジョンを持っているか 評価制度を何らかの形で変更したいという共通認識があるのであれば、つまりそれは、何らかの理由でその制度が機能不全を起こしていることを、皆さんが多かれ少なかれ違和感を持って感じているからではないでしょうか。まずは、その違和感について、きちんと話し合っていますか。多くの場合形骸化しやすい評価制度の特徴として、経営のメッセージや事業成長指針の方向性と分断されている、別個の評価のためだけの仕組みが出来上がっていることが挙げられます。結果として、組織やチームの中に目的意識を持って日々の仕事に向き合うという意識や視点が生まれず、ましてや自分事として主体的にエネルギーを投入して取り組む気力も起こらない。 つまるところ、「評価制度=形だけ・口だけの誰かが決めた言葉を羅列する年の行事」と認知されている。悲しいけれど、生々しい声をチームメンバーから聴くことになります。そのような生々しい声を聴くことを続けないためには、評価制度のあちらこちらのピースを部分的に改良する前に、経営を担うリーダーや人事を担うマネジャーやHRプロフェッショナルの皆さんには、以下の問いかけを自分たちに向けてしてみていただきたいのです、 私たちは、社会に対してどのような善を成し遂げる企業でありたいのか。その企業ミッション(存在意義)を明文化しているか。 そのミッションを組織の背骨と据えた時、経営を担うリーダーは、どの目的地を目指して旅路を歩めばよいかを繰り返しメッセージとしてチームに伝えているか。 また、目的地にただ辿り着けば良いだけではなく、旅路を歩む上で共通の約束事(行動指針、バリュー、コンプライアンス、インテグリティ、ガイドライン)を明文化することで、企業のフィロソフィー(哲学)を体現するチームメンバーの成長を促しているか。 上記の問いかけをしながら経営陣や人事を担うメンバーで対話を納得するまで深く議論することが、まず最初の第一歩です。この3つに皆が自信を持って共通言語化できたのであれば、次のステップに進みましょう。 それは、3つの「適」の視点から、制度というそれだけでは無機質な仕組みを、血の通った組織のDNAとして、実装することです。 「適材」-いかに素晴らしい制度でも、生かすも殺すもマネジャー/リーダーの資質次第である ミッション、ビジョン、ゴール、フィロソフィーが明文化されたのであれば、それを日々の対話の中で実装させられるかどうかは、ピープルマネジャー(チームを持つマネジャー)の力量にかかっています。制度設計と同じくらいか、それ以上に大切な投資は、血の通ったDNAを強力なプロモーターとして推進してくれるチームリーダーやマネジャーの人材育成です。また、そのようなチームを預かる要職ポジションには、先のフィロソフィーを体現しているロールモデルである人材の戦略的な育成、選出、配置を行うことです。時にはこの要職に適していない人材もいますが、それはその人材がこのポジションに適していなかっただけで、他に適した人材がいれば、バトンタッチも視野に入れて人材配置を行います。 「適所」-「人」と「成長」に焦点をあてた対話を通してポジションへのフィット感を評価する 人事評価の目的は、年初に決めたタスクが予定通りできているかを確認、管理することだと思っていませんか。プロジェクトのタスク管理であれば、ガントチャートを使って、チーム間で更新して共有すれば済むはずです。人事評価は、あくまでも「人」と「成長」に焦点を当てた目的意識を持った対話を促進する一つのツールです。自分が見えていないブラインドスポット(盲点)を、周りやマネジャーからの根拠のあるアセスメント(評価)を受け取ることによって、自分の認知の幅を広げていくことで、成長する手助けをしてくれるツールです。そのような対話の中で、自分自身のその職責や職務、ポジションへのフィット感についても見直す良い機会となります。人事評価という一つのきっかけによって、自分を多角的に認知することで、今後成長する方向性やキャリアの方向性について棚卸しする機会にも恵まれます。 「適時」-評価は1年に一回すればよい儀式ではない。フィードバックには賞味期限がある 人事評価はあくまでも、「成長」に焦点をあてた目的意識を持った対話を促進するツールだ、というお話をしました。そのためには根拠のあるアセスメント(評価)やフィードバックが、成長には必須ということでした。ただし、フィードバックの賞味期限は思っている以上に短いものなのです。エビングハウスの忘却曲線によると、人間の脳は20分後には42%を忘却し、1時間後には56%を忘却し、1日後には74%を忘却し、1か月後には79%を忘却すると言われています。よもすれば、明日には7割近くを忘れてしまっているということですね。人事制度を血の通ったものにするには欠かせない対話、その対話に欠かせないフィードバックは、気づいてからすぐに相手に伝えなければ、賞味期限はすぐ切れてしまいます。 ましてや、半年、1年に1回の評価面談や振り返りまで、その期間すべてのフィードバックをどれだけ溜め込んで相手に伝えても、とっくに賞味期限の切れた実感のわかない指摘を延々と伝えられる受け取り側の、納得感のなさとフレストレーションは小さくないでしょう。また、伝える側も実感が失われてしまった言葉に説得力を持たせるために苦慮しながら伝えるのも、辛いことでしょう。人事制度のローンチ時には、是非フィードバックの賞味期限を意識した対話の大切さについても周知、教育をしていくと効果的です。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。 *転載元記事: 「焼け石に水」な制度改変に終止符を打つ-体感型の人事評価制度を作るには| KEIEISHA TERRACE

自走するチーム、サーバントリーダーシップとは

組織開発

2021年7月20日

職場での責任が増し、リーダーシップを発揮してメンバーを引っ張っていかなくては!と思って頑張っていても、「何か空回りしている」「メンバーの覇気がない」などと感じたことはありませんか? もしかすると、それは引っ張っていくのではなく、支えていくリーダーシップ、“サーバントリーダーシップ”が求められている兆しかもしれません。 まずはおさらい“サーバントリーダーシップ”って? 数年前からしきりに聞かれるようになった“サーバントリーダーシップ”。 サーバントとは直訳すると「使用人」「奉仕」といった意味です。実際にサーバントリーダーには奉仕の精神が必要だといわれていますが、具体的にはどういったリーダーシップなのでしょうか? サーバントリーダーシップは1970年にアメリカのロバート・K・グリーンリーフが提唱したリーダー論で、「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考えに基づいています。 ただ、グリーンリーフによるサーバントリーダー論は、理論から導かれたものではなく、長年のマネジメント研究から直感的に導かれたものだそうで、彼以降も後進によって理論化されていきました。 その一人、ラリー・スピアーズによって、サーバントリーダーの以下のような10の属性が提唱されています。 傾聴(Listening)相手が望んでいることを聞き、どうすれば役に立てるかを考える。共感(Empathy)相手の立場に立って相手の気持ちを理解する。癒し(Healing)相手の心を無傷の状態にして、本来の力を取り戻させる。気づき(Awareness)鋭敏な知覚により、物事をありのままに見る。納得(Persuasion)権限に依らず、服従を強要しない。相手に納得を促すことができる。概念化(Conceptualization)大きな夢やビジョナリーなコンセプトを持ち、それを相手に伝えることができる。先見力、予見力(Foresight)現在と過去の出来事を照らし合わせ、そこから将来を予想できる。執事役(Stewardship)自分の利益よりも相手の利益を考えて行動できる。人々の成長に関わる(The growth of people)仲間の成長を促すことに深くコミットしている。コミュニティづくり(Building community)愛情で満ちていて、人々が大きく成長できるコミュニティを創り出す。 それぞれの内容に関しては、NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会が提示していますので、参照してみてください。また同協会では、サーバントリーダーが大切にする5つのバリューも以下のように提示しています。 個人を尊重する 導く サーブする 人の持てる力を引き出す 個人の成長へとつなげる 10の属性と、5つのバリューで、サーバントリーダーに求められるものが何となくお分かりいただけたでしょうか? では、実際にはどのようにサーバントリーダーシップは発揮されているのか、実例を見ていきましょう。 「社長だからと偉ぶれない時代」サイバーエージェント・藤田晋氏 サイバーエージェント社長の藤田晋氏は、サーバントリーダーシップを実行している一人です。サーバントリーダーシップに関して、さまざまな取材に応えたり、講演に登壇したりしています。 ある番組で藤田氏は、「SNSやインターネットの影響で、役職の権威によって下をついてこさせることが難しい時代になった」と答えています。一昔前は、社長といえば部下がひれ伏すような“お偉いさん”という感じだったのが、ネットなどの発言で考えていることが分かってしまって、そんなに大したものではないとバレるようになってしまった、と。 課長、部長といった役職が特権階級で、社長からの情報がそこで止まっていたのが、藤田氏自身、今ではSNS上で、新入社員とも会話をしているそうです。 その上で、藤田氏はサーバントリーダーシップを取っていて、「社員が働きやすい環境」や「成長しやすい環境」、「モチベーションが上がるような仕掛けとか仕組み」を心がけているそう。「リーダーシップを一言でいうと?」という問いに対しても「貢献」と答えていました。 その理念に基づいているのか、サイバーエージェントの社内制度には、リフレッシュ休暇やマッサージ室から、予防接種、部活動まで充実した「働きやすい環境」を整える福利厚生(もちろん、テレワーク環境の設備も!)をはじめとして、「成長しやすい環境」としての、次世代を担う人材発掘・育成を目的とした施策、若手社員がオーナーシップを持ち会社の未来を考えるプロジェクト、内定者でも挑戦できる新規事業創出プロジェクトなど、「モチベーションがあがる仕掛け」として、各種アワードなどが用意されています。 特にIT業界は設備投資より人財に投資する側面が強いこともあるでしょうが、制度のひとつひとつが、「その人の能力を最大限に引き出すには」にフォーカスされているように思われます。 人の成長=会社の成長。社長はじめリーダーはその成長を支えるサーバントなのです。 目指すは「究極のフラット」星野リゾート・星野佳路氏 コロナ禍で旅行業界が大打撃を受けている中、2021年から22年にかけて計9軒の新規開業を行うという星野リゾート。その代表・星野佳路氏も実践しているサーバントリーダーシップについて各所で話されています。 星野リゾートの前身「星野旅館」を継いだ際、「働き手がいない」という問題に直面し、「リゾートの運営の達人になる」というビジョンを立て、それを改名と将来像を明確に語ることで、スタッフに共感してもらうようにしたそう。しかし、共感度が高いスタッフほど現実とのギャップを感じ会社から離れていってしまう現実を味わったといいます。 そこで大切にしたのが、リゾートとしての施設の魅力を引き出すのと同じくらい、社員の魅力を引き出すこと。 基本的な考えは「習いたいと思う時に習いたいものを習わせる」だそうで、本人のキャリア目標や、成長していきたい気持ちをサポートすることを重視し、経営側で勝手に決めない、自分の将来を自分でコントロールできることを大事にしているそうです。 入社してもらうのに苦労した時期があったからこそ、入社したスタッフには長くいてほしいとの思いが強くあり、スタッフ一人ひとりの価値観と、その変化に合わせて支援をしていきたいという思いで接しているのだとか。 また、社員のモチベーションを保つためにコミュニケーションを大事にしていて、「議論のテーブルでは、誰でも対等な関係で話せる会社」を目指し実践しているそう。役職の重みで発言の力が増すのではなく、話の中身だけでものを考えられる、議論中は誰が社長で誰が部下なのか分からないような「究極なフラット」が理想です。 公式サイトの採用ページのメッセージにはニーチェの言葉が引用されていて「高い所へは他人にはこばれてはならない。人の背中や頭に乗ってはならない」と記されています。 自分の行きたい場所へ行くには、自分の足と頭をつかって行きつかなければならない。上司など他人の言うがままではいけない、そのための支援は惜しまないといったメッセージなのでしょう。 組織の規模に関わらず実践できることとは? サイバーエージェントも星野リゾートも、今や大きな企業ですが、サーバントリーダーシップは、組織の規模に関係なく有効なものです。 両者に共通するのは、役職に関わらず「コミュニケーション」を大事にしていることです。藤田氏は新入社員ともSNSで話すといいますし、星野氏も誰でも対等に話せる環境を重視しています。 これは、サーバントリーダーシップ10の属性の「傾聴」に当てはまるでしょう。単に“聴く”だけでなく、その中で相手が望むこと、それを実現するために役立てることを汲み取っていくのです。 また、未来を読み、ビジョンを明確にして示せること、メンバーの成長にとことん関わることも、共通項としてあげられると思います。 ただ、注意しなければならないのは「メンバーの言うがまま」するのではないということです。 星野氏が「ビジョンを現実に合わせてはいけない」と話すように、サーバントリーダーシップとは対話でビジョンを描くことはあっても、その採決をメンバーに一任しているわけではありせん。 時代に合わせたリーダーシップで部下の行動も変わる! 新型コロナウイルスの世界的な流行など、時代はまさに予測不能、VUCAです。急激に変化するビジネスの世界では組織の多様性が求められ、リーダーの意識改革も欠かせません。部下のパーソナリティや能力に合わせたマネジメントが求められるのです。 サーバントリーダーの育成を学校のビジョンとして掲げている青山学院大学の塩谷直也教授は、「人が変わるのに努力はいらない。誰かが本当に自分を認めてくれた時に、人は変わる」と言っています。リーダーが部下の話に耳を傾け、能力や価値観を受け止めることで、部下の心に火を灯していく。リーダーのこうした行動が多様性に富んだ強いチームや組織を作っていくのはないでしょうか。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

「働きがい」のある会社ってどんな会社?働きやすさとやりがいの秘訣

組織開発

2021年6月30日

「働きがい」のある会社ってどんな会社? 「働きがい」と聞いて頭に浮かぶことはどういったことでしょうか? 「社会や会社に役に立っている」「自分の望む生活を手に入れられている」など、人それぞれにイメージは違っているでしょう。 また、「働きがいのある会社」と聞いて、思い当たる会社はどこですか? 自分の会社は浮かんだでしょうか。 エントリーのあった会社をさまざまな観点で評価し「働きがいのある会社ランキング」を毎年発表しているGPTW(Great Place to Work)は、働きがいのある会社を、「働きやすさ+やりがいの両方が備わっている組織」と定義しています。 また国際経済労働研究所では、社会心理学の観点から「働きがい」をワーク・モチベーション(仕事に対する動機づけ)と定義し、働く環境が整備されたからといって働きがいが向上するとは限らないといっています。 つまり「働きがい」には、外環境も内からでる動機付けも必要であるということのようです。 なぜ「働きやすさ」も「やりがい」も必要か? この「働きやすさ」や「やりがい」についてよくわかる理論が、ハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論)です。 アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグが提唱した説で、仕事に対する満足と不満足を引き起こす要因に関する理論です。 この理論によれば、仕事に対する満足度は、ある要因が満たされると上がり、不足すると下がるということではなく、満足する要因と、不満足になる要因は別物なのだそうです。 不満足となる要因は「衛生因子」といわれ、その名の通り、予防的な役割を持つものの、労働への動機付けにとって積極的な効果はなく「経営と管理」「監督技術」「給与」「対人関係」「作業条件」 など職務環境が要因です。外在的報酬(外発的モチベーション)ともいわれ、GPTWがいうところの「働きやすさ」にあたります。 一方で、満足する要因は「動機付け因子」といわれ、直接的に人間を労働に動機付ける役割を果たし、「達成」「承認」「仕事自体」「責任」「成長」などの職務内容が要因です。内在的報酬 (内発的モチベーション)ともいわれ、こちらは「やりがい」にあたります。 下の図をみてください。 例えば、「達成」は満足に40%も寄与しますが、10%の不満足しか招きません。達成感を得られなかったとしても、不満足にはならないということです。 逆に、「会社の方針と管理」は35%以上の不満足を招きますが、10%ほども満足の動機付けにはなりません。つまり、会社の方針を共有した場合、不満足は解消されますが、仕事のやる気にまでは繋がらないということです。 そして、この内発的・外発的モチベーションには価値観も影響してきます。 内発的モチベーション寄りの価値観の人は、仕事そのものに関心が強く、自由裁量や責任を求めます。一方で、外発的モチベーション寄りの価値観の人は、給与など仕事以外に関心が強く、仕事はあくまで生活や趣味といった他のもののための手段であり、できる限り単純で楽な仕事を求めます。 内的・外的どちらも、欠けると離職に繋がりますが、どちらを重要視するかは、部下の価値観によってくるので、イキイキ働いてもらうには、彼らの価値観を知っておく必要があります。 不満足解消のため「働きやすさ」を整える 「働きやすさ」である不満足の要因は、マズローの欲求5段階説の「生理的欲求」「安全・安定欲求」、そして「社会的欲求」の一部を満たすものだと言われています。 具体的には、前項の図にあるように「会社の方針・管理」「監督」「監督者(上司)との関係」「労働条件」「給与」「同僚との関係」「個人生活」などがあります。 「働きやすさ」を整えるには、例えば 「会社の方針」を明確に示し共有するために、経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)をつくり浸透させる 綺麗でリフレッシュもできる、「会社に行きたくなる」オフィス環境を作る 給与を同業他社と比較して適正なものにする 個人生活を圧迫しないよう、労働時間と業務量を適正にする 休暇を取りやすくする 言いたいことを言える風通しの良い社内雰囲気を醸成する 360度評価など、社内の人間関係を良くする制度を導入するなどなど。 制度や数字といった、比較的目に見えてわかりやすい施策で整えることが可能です。ただ、これらは不満足の解消になるだけなので、やりすぎる必要はありません。たとえ会社が社員に対して至れり尽くせりだったとしても、やる気には繋がらないのです。 満足感増幅のため「やりがい」を整える 一方、「やりがい」である動機付けの要因は、マズローの欲求5段階説でいうと「社会的欲求」の一部と、「承認欲求」「自己実現の欲求」を満たすものです。 前出の図で見ると、「達成」「承認」「仕事そのもの」「責任」「昇進」「成長」といった要因になります。これらは得てして目に見えないものですが、可視化できるよう施策を打つことはできます。 例えば 明確で測定可能な目標を設定する 「〜アワード」など表彰される機会をつくる 成果に対して、昇給だけでなく、昇進という形で権限を拡大する 裁量の幅や規模を拡大する 本人の意向に沿った研修プログラムなどに参加させるなどです。 最近、「頑張って資料作っても、褒めてくれるのは飼ってる猫ぐらいで…」と悲哀漂うCMが印象的だった、某社が展開するサービスは、社内での個々人の貢献を可視化して、互いに褒めあおうというもの。”褒める”ことをシステム化かつ日常化するのも、承認欲求を満たして「やりがい」を高める施策のひとつとして有効かもしれません。 テレワークでも“やりがい”を引き出す、持続させる方法とは? GPTWが発表した2021年度版「働きがいのある会社ランキング」において、小規模(25〜99人)部門で1位に輝いたフラッグシップオーケストラは、コロナ対応が高く評価されての受賞となりました。 その施策の中身とは、「オンライン朝礼」。在宅勤務で互いに顔をあわせることが減ったため、全社員を対象にオンライン朝礼を実施。立候補制したメンバーから近況などの共有をしたり、役員の一言があったりする場となったそうです。立候補制とはいえ、皆さん一様に積極的で活気溢れる朝礼となり、また、役員とメンバーとのコミュニケーション頻度が上がり、社員全員が同じ目標に向かっているといいます。 リモートワークだと、自分の仕事も他人の仕事も見えなくなってしまいがちですが、それを共有することで、お互いの状況、貢献などを確認できます。また、経営層との目線合わせができることで、安心感にもつながるでしょう。まさに「やりがい」と「働きやすさ」を備えた施策です。 テレワークでもちょっとした工夫で「働きがい」を担保できる好例ではないでしょうか。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

HRの変革が事業を伸ばす! 本質を問う力とグローバル人事の挑戦

組織開発

2021年4月26日

事業の成長に貢献するHRとは――。 ビジネスにおいてHRが果たす役割に期待が高まっています。さまざまなHR手法が取り入れられるようになりましたが、日本電気株式会社(NEC)でグローバル人事部長を務める工藤 司さんが投げかけるのは、手法論以前に「本質を問うこと」の大切さです。 事業成長に真に貢献できるHRになるには、どのような思考法や行動が求められるのでしょうか。グローバルなチャレンジを続ける工藤さんに聞きました。 バウンダリレスオーガニゼーション(境界なき組織)をめざすNECのHR変革 35CoCreation合同会社CEO桜庭 理奈(以下、桜庭):今日のお話を楽しみにしていました。私を前職のGEヘルスケアに採用してくださったのが、当時、同社の人事部長だった工藤さんでしたね。その後、工藤さんはコニカミノルタを経て、2019年にNECに加わりましたが、グローバル人事部長としてどのようなことから着手されたのでしょうか? NECグローバル人事部長工藤 司さん(以下、工藤):まずは事業と組織の課題・機会がどこにあるのか見つけるために、世界中の拠点を訪問し、社員の話を聞くことから始めました。経営陣から若い層まで、入社2ヶ月で世界中の社員200人は会ったと思います。 すると、どのリージョンでも、同じことを言われたんです。「日本の本社はブラックボックス。何をやっているかわからない」と。その上、「本社は、ある日突然『新しい施策です』とガチガチに仕上げたものを投げてくる」。各国のNECに勤める人も、各々の分野のプロフェッショナルです。当然、こう思いますよね。「自分たちも十分に経験があるのに、なぜ議論にいれてくれないのだろう」と。 桜庭:なるほど、よくわかります。 工藤:海外ビジネスに携わっている3万人の社員のうち、日本の本社にいるのはたったの600人です。日本から海外に駐在する人も300人に過ぎません。それなのに、全体の3%にすぎない日本人だけで作った施策をリージョンに展開し、「この施策はうちでは使えないよ」と言われる。その繰り返しだったわけです。 桜庭:それを変えていこうとしているのですね。 工藤:はい。先ほどの世界中の社員の声は一見すると苦情のように聞こえますが、突き詰めて考えると、海外ビジネスに携わる社員3万人の力がフル活用されていないということです。彼らの力をグローバル全体で結集すればビジネスはもっと成長するはずです。 だからこそ目指すのは国や法人の枠を超えて世界全体を一つの組織と見なして行動する横断的なチーム「バウンダリレスオーガニゼーション」。まずは人事部の組織改革から始めました。 地域ごとの人事を担う「リージョン」、事業部と連携し成長を最大化する「ビジネスパートナーチーム」、HR各専門領域の施策(例:組織・人材開発プログラムなど)を全世界横断でリードする「COE(Center of Excellence)」の3つのチームに再編成しています。この3つのチームで連携してグローバルな人事戦略を作り上げました。 本社機能は日本になくても構いません。COEでは、組織人材開発のリーダーとしてイギリスでオーストラリア人を採用。HRシステムのリーダーもイギリス、報酬のリーダーはオランダにいます。 桜庭:すばらしいですね。ポジションに合う人を探しにいく、本当の意味での「適材適所」では。 工藤:そうですね。社内ではあえて「適『所』適『材』」と言っています。ビジネスに必要なポジション(「所」)をまず考え、もっとも適した人「材」はだれかを考えるのです。これまでの日本企業は、いる人材に合う組織を作ろうとしてきましたが、その逆。この考え方を自分のグローバルHRチームに当てはめた時に、私が期待したCOEの役割を果たせる人材は日本にはいなかったので海外で採用したという経緯です。日本が本社なのだから本社機能であるCOEは日本になければいけないという既成概念を変える必要があります。 事業成長へ導く変革に不可欠なのは「本質を問う力」 桜庭:力強く取り組んでいる様子がうかがえますが、社員のマインドセットを変え、HR変革を進めるのは簡単なことではありません。どのように社内の理解を広めていったのでしょう? 工藤:例えばダイバーシティに取り組むのは、世の中の流れだからではありません。事業の成長につながるからです。ビジネスモデルや外部環境の変化を踏まえ、社員の声やデータをもとに、変革が必要な理由をストーリーとして伝えていきました。すると理解者は増えていきます。 桜庭:「Why」を伝えていくのですね。 工藤:HRのメンバーにも、Whyをしっかりと議論するよう伝えています。「How」、つまりオペレーションの話はその後です。組織変更にしても、「ビジネスの目的を達成できる組織とは?」といった議論を省略しては、本質からずれた意味のない施策になってしまいます。 桜庭:とても共感します。工藤さんはこれまでのキャリアで、本質を問う力を身に着けてこられたのだと思います。 工藤:振り返ってみると、自分がこれまで出会った尊敬するグローバルリーダーは誰もがこう言うんです。「クドウ、その人事施策でビジネスは成長するのか?」と。非常にシンプルですが深い問いです。様々なHR手法を取り入れる以前に、自らに問い続けることが大切ですね。 本質を問う力の鍛え方 ビジネス戦略と人事施策のつながりを可視化 桜庭:それはよい問いですね。企業である以上、ビジネスの成長は外せません。 工藤:HRに求められる能力は、今、変わってきていると思います。従来の日本企業は、雇用の流動性が低く年功序列型。HRに期待されたのは、安定的な制度運用でした。ゼロベースから発想する経験をしていない人が多いと思います。それなのに、最近になって突然HRもビジネスパートナーとしてビジネスへ貢献せよと急に求められる。酷ですよね。 桜庭:なるほど。企業の成長においてHRが担う役割が大きくなっている今、HRはレベルアップしなければなりませんね。工藤さんのような本質を問う力は、どのようにすれば鍛えられると思いますか? 工藤:私のチームで行ったのは、ビジネス戦略と人事施策を可視化するトレーニングです。それぞれの担当事業について、ビジネス戦略を箇条書きで紙に書き出してもらいます。その上で、戦略の実現にどのような組織・人材上の課題があるか、その解決にはどんな人事施策が有効かを書いていきます。 ところが、出来上がったものを事業部長に見せに行かせると、たいてい合っていないのですよ。そこで、戦略や課題を部長からあらためて聞くわけです。これを繰り返すと、ビジネスリーダーが組織を見る視点を自分のものにできます。同時に、リーダーに新しい見方を提供できることも体感するでしょう。 桜庭:大事な視点ですね。HRは組織や制度という箱を作るだけでなく、そこに魂を込めなければビジネスに貢献できませんから。 工藤:最近では日本のHRビジネスパートナー全員を対象として「HRBP Re-skilling Camp」という6ヶ月間の研修プログラムも全社で新たに導入しました。HRに大きな変革が求められる大転換期に「変わらないとダメだ」と号令をかけるだけではなく、HRBPとして身に付けるべき新たな知識・スキルの習得やコンピテンシーの向上を会社としても強力に支援し始めています。 また、本質を問うべきという点に話を戻すと、これは日本企業のHRだけの話ではなく外資系企業のHRも同じです。特に米国系企業は本社が強くトップダウンの傾向にあるため、日本で働くHRの人たちは本社が作った仕組みの上で本質を突き詰めて考える機会が少ないかもしれません。本社施策を受け入れるだけではなく、日本市場のビジネス成長に有効か、グローバル全体としてどうあるべきかを本社と議論する姿勢が必要だと思いますね。日本は、グローバルに活躍できるHR人材が世界的に見ても圧倒的に少ないです。これは言葉の問題だけではないです。本質を問う訓練を続けていくと、アジア・パシフィックや米国本社のポジションを取れるようになると思います。 自分自身が境界を超え、事業成長に貢献するHRへ 桜庭:今、重要な気づきをいただいたと思います。事業成長に貢献できるHRになるには、まず自分自身が少しチャレンジして、現在地から境界を超えていくのが大事なのではないでしょうか。ただ、超えてみたくても超えられない人もいると思います。そういう人にはどんな言葉をかけますか? 工藤:なんでしょうね……。失うものはないと思いますよ。失敗を失敗と思わず、重要な気づきを得る機会だったと思えば。あとは、自分の理想とそのためになすべきことを冷静に見つめ直し、行動すること。夢や目標はワクワクするものですが、現実を冷静に見るとゴールが遠すぎて諦めたい気持ちになるかもしれません。一足飛びに夢や目標にたどり着ける人なんてほとんどいないんですから、まずは自分にできることからやってみることです、どんなに小さい一歩であっても。その一歩一歩の積み重ねが成長であり、途中で新しいことを見つけるかもしれない。自分の境界から一歩踏み出すことで、成功しても失敗しても必ずその人の成長の糧になると思います。 桜庭:工藤さんはグローバルな環境で働いてきましたが、日本人がグローバル人事として活躍する上では、言葉の壁もあります。 工藤:そうですね。でも、会議で一度でも発言すると決めて、続けていくと、次第に気持ちがほぐれてくると思います。私自身もそうでした。境界を超えるには、コンフォートゾーンを抜け出し、新しい環境に身を置く努力をし続けることではないかなと思います。 桜庭:素敵ですね。一歩踏み出す勇気だと思います。工藤さんがNECのHR変革に取り組まれてもうすぐ2年です。今、そしてこれからをどのようにご覧になっていますか。 工藤:社内からはおおむねポジティブに捉えられていると思います。特に海外はそうです。NECの真のグローバルカンパニーに向けた挑戦はこれから3年かかるのか、5年かかるのか、もっとかかるかもしれません。HRとして絶対に外さないのは、事業の成長に貢献するという軸。成長に至るアプローチ自体は、事業環境の変化に合わせて変えながら、挑戦し続けたいと思っています。 桜庭:素晴らしいチャレンジですね。「Why」を突き詰めた上で走り出すと、何年かかっても軸がぶれないのだと思いました。本日はありがとうございました。 編集後記(桜庭) 私が出会ったHRプロフェッショナルの中でも、群を抜いてビジネスインパクトを最大限に出すことに真摯に向き合い、結果を出すことにフォーカスしている方が、工藤さんです。それでいて非常に謙虚で、常にエンパシー(共感)や人間がエモーショナルな存在であることを忘れないバランス感覚に、改めて感銘を受けました。常に変化する環境の中で、人の集合体である大きな組織をリーダーとして牽引していく姿と、一人ひとりの人に向き合う姿と、ディスカッションの粒度の幅がとても広い方だな、と感じました。コロナ禍という不確定要素が多い市況下において、大変勇気をいただきました。