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ビジネスリーダーの人生旅路:「楽しんだって、いい」哲学の背後にある赤澤岳人のキャリア

リーダーシップ

2021年12月21日

店舗やオフィスの壁をアートで飾る事業を展開している株式会社OVER ALLs。実は、同社が提供しているのはアートの向こうにある価値観や、「『楽しい国、日本』を実現したい」という想いです。そんな会社の代表を勤める赤澤岳人さんに、事業にかける想いの出どころを伺いました。自身のキャリアについて立ち止まって考えてみたいビジネスパーソン必見です! “行き当たりばったり”でも、“必死のパッチ”で生きる 35CoCreation合同会社CEO 桜庭 理奈(以下、桜庭):最近事務所を移転されて、チームも夢も拡大されていると思うのですが、赤澤さんご自身のこれまでの人生の旅路みたいなものを聞かせていただけますか? 赤澤 岳人さん(以下、赤澤):自戒の念も含めていうと、「今も昔も“行き当たりばったり”の人生。でも、常に今を一生懸命に“必死のパッチ”で生きている」ですかね。キャリアビジョンとか、将来設計とか緻密に計画を立ててもその通りにならないし、「そんなに考えたってしょうがなくない?」と思うタイプで。とはいえ、「計画通りにならない」、というのは決して悪い意味ではないです。例えば、銀行の融資のために練りに練った事業計画書を作っても、5年後に振り返ると「物足りない」と思うわけですよね(笑)。それは、昔の自分がとうてい及ばないほど、自分が成長しているからです。 今、目の前にあることに必死になっていれば頭ひとつ抜けられるし、後々自分に返ってきます。人生とはそんなものだと思います。 ビジネスのリベラルアーツを鍛えた引きこもり期 桜庭:その価値観はいつごろでてきたものなんでしょう?どこかでシフトなどはあったのでしょうか? 赤澤:先ほど「自戒の念も含めて」と前置きしたのは、もうちょっと考えた方がよかったかな?と思うこともあったからです。というのも、大学を卒業する時に、ロースクールに進む予定になっていたんですが、入学金を払い忘れていて…。特待生待遇だったもので、古着屋で働きながら1年待って、再度受験して入学しました。でも、元来勉強嫌いだったもので、向いてなかったんですね。ロースクールを卒業し、その後3年ほど“半引きこもり状態”になりました。 桜庭:ものすごい変化ですね。 赤澤:はい。ただ、その間に普通なら20年くらいかかる量のビジネスに関する番組、書籍、漫画、映画に貪るように消費したんです。この体験でビジネスのリベラルアーツが身についたと思っていて、今の自分の礎になっていると思います。その時は何になるかわからないことでも、極端なほど一生懸命であれば、後々肯定されることはあるんだなと。このことに気がついたのが最近なんです。特に会社を立ち上げてから、自分がいきあたりばったりでも、必死のパッチでやってきたことがダイレクトに自分に返ってきているなと感じています。 桜庭:どこか暗闇で苦しみ、もがき何かを掴もうとしてらしたようにも聞こえますが、赤澤さんが貪るように動いた背景には何か求めるものがあったのでしょうか? 赤澤:苦しさの裏には「今の自分は本当の自分ではない」との思いがどこかしらにあって、且つビジネスに意識が向いたということは、起業などで世の中に名を残したい、と思ったんでしょうね。しかし、現実はまったく違った状況にいて、まさに思いだけが大きい“頭でっかち”でした。だから、行動が伴っていないことに苦しみ、もがいていたんだと思います。 居場所があるとは、担う役割があるということ 桜庭:アルバイトを経て、29歳で企業人として働き始めたということですが、そこから起業までの道のりはどんなものだったのでしょう? 赤澤:引きこもり期間を経て、28歳で就活を始めました。ハローワークで職探しをしていたんですが、リーマンショックやらがあった不景気なご時世に、職歴がまったくない30歳手前の人間には、それは地獄の様な日々でしたよ。それでも1年ほど就活した頃、ご縁があって人材会社のパソナへ契約社員として入社することができました。この時、ようやく自分の“居場所”を得たと思いました。私にとって、居場所とは、報酬の有無に関わらず、仕事上の役割をもって社会と繋がり、社会から認識されることを意味しています。ちなみに、この定義は今でも変わっていません。 働く上でベースになるリベラルアーツは持っていたものの、スキルを全く持っていなかった私は、誰よりも遅くまで働き、誰よりも量をこなしてそれをひとつひとつ積み上げていきました。そうこうしているうちに正社員で働く若手の指導も受け持つようになったのですが、時給で働くアルバイトの自分と月給で働く若い社員の格差を目の当たりにして、仕方ないと思う反面、大変悔しい思いをしました。同時に、20代をフラフラ過ごしてきた者が居場所を見つけることが容易ではないことを痛感したんです。それに気づいてからは、自分のように20代に就職を選ばなかった後進のためにも圧倒的な実績を残さなければと思い、さらに昼夜問わず働きました。そして、新規事業を提案するイベントで20もの提案を出し、うちのひとつが事業として立ち上がるタイミングで正社員になりました。当時、やっと認められたという嬉しさはありましたが、「ここまでやってきたんだから」との思いもあり、「居場所ができた」と思えた入社時の方が感慨は深かったです。結局、元の人材紹介の部署へ戻る打診を受けたタイミングで退職し、共同創業者でもある山本勇気の誘いもあり、OVER ALLsを起業しました。 桜庭:赤澤さんの定義される“居場所”ってなんだか温かい感じがしますね。 赤澤:ハートフルというのとは違いますが、すべてのものは誰かの仕事で成り立っていて、その仕事で社会と繋がっていますよね。例えば、私がコーヒーを自販機で買って飲むまでの間には、たくさんの人の仕事があって、そのおかげで私がわざわざコーヒー農園から始める必要がないわけです。 古来より、社会で生きるためには、各々の得意を活かした役割を担う必要があったと思うんです。個々の役割の境界線が複雑化してきて見えにくくはなっていますが、それは現代社会でも変わらないでしょうね。先ほども言いましたが、報酬が発生する“労働”としての仕事ではなく、世の中に貢献する“役割”としての仕事を持つことが自分の居場所を持つことだと思います。仕事をしていない時は、それがなかったので暗闇の中にいるような気がしていたんでしょうね。 情報に踊らされず、「愛のために働く」 桜庭:年齢問わず居場所を見つけられずに不安に思っている人や、役割の意義を見いだせないと思っている人っていらっしゃると思うんですが、それについてはどう感じていますか? 赤澤:今の日本社会において、選り好みをしなければ、居場所が見つからないということはほとんどないはずです。社会との接点を持ちさえすれば、あとはどうにでもなるんですから。それでも選り好みをしてしまうのは、ネット上に溢れる情報に惑わされているのではと思いますね。8割悪意で固められた情報を鵜呑みにして「これは自分のすべきことではない」とならないよう、むしろ嫌だと思う仕事をしてみればいいですよ。そこから気づけることも多々あるはずです。私もスーツにネクタイでサラリーマンとして働くなんて死んでも嫌だと思っていましたが、飛び込んでみたら、そこにちゃんと自分の居場所はあったし、生きているとはこういうことかとも感じられましたから。 当時パソナのキャッチコピーが「愛するために働く」だったんですが、きちんと居場所を得ることで安定し、初めて隣にいる人を気遣い、愛することができるんだと、文字通り“実感”しました。ちなみに、その時隣にいた人が今は奥さんです。 桜庭:ちなみに、赤澤さんは、居場所がなくなる要因は何だと思われますか? 赤澤:企業が新卒一括採用を続けているからだと思います。全員右へ倣えの人材採用は、イノベーションだ、多様性だと言っていること真逆ですよね。皆とは違う道を自ら選び、道半ばで方向転換を図ろうとする者、例えば役者や芸人・バンドマンなどに、今の日本企業はあまりに閉鎖的です。自分自身も似た経験をして、後進のためになにがなんでも実績を残そうとしたし、いまもそんな部分にメスを入れなければと思っています。いい加減、高度経済成長の奇跡は忘れ、大量生産・大量消費を前提とした人の育成や組織構造はやめるべきです。 キーワードは「楽しんだって、いい」。アートで組織を前進させる 桜庭:赤澤さんの会社の「楽しんだって、いい」というフィロソフィーと、これまでお話いただいたこととの繋がり、それを踏まえて、これから日本企業の組織はどうなっていくべきだと思われますか? 赤澤:高度経済成長前のHonda、TOYOTAの話を読んだりすると、今の大量生産・消費とはかけ離れ、目をキラキラさせながら物作りをしていたことがわかるんですね。しかし、日本人は私も含めて、幼い時から楽しむと怒られる文化で育っています。中高では、髪を染めたり、ピアスを開けたりするたびに怒られる。「中高生らしくしなさい」と。「なんでおしゃれを楽しんじゃダメなの?」「らしくってなに?」って思いますよ。 アメリカに出張で訪れた時に驚いたことがあって。彼らのガレージの中にあったのは、車という生活必需品ではなく、ヨットやDIY道具といった趣味のものだったんですよね。その光景を見て、この国の人たちは本当に人生・生活を楽しんでるなと感じたんです。その楽しむ姿勢が日本にも必要だと思います。ただ、「楽しめ」「楽しもう」というと真面目に捉えてしまうので、「楽しんだって、いい」くらい軽やかなコンセプトでいいんじゃないかと。 その楽しむキーツールとなるのが、“アート”だと思っています。なぜかというと、アートというのは「正解不正解」が一切当てはまらないからです。モナリザをみて「これは正しいですか?」とは誰も聞かないですよね。「好き」でも、「怖い」でも、みた人がそういうならそれでいい、というのがアートなんです。 今、外資系コンサルティング会社と協業して力を入れている事業「Art X」に可能性や未来が見えているのは、何が正しいかではなく、何が好きで、どうしてそれが好きなのか?を明確にすることで、組織と個人の間で会社を前進させていく関係性を作り上げていくことができるからです。 はじめは正しい意見を言おうなど思わずに、「なんとなく」でもいいんです。普段の会議で「なんとなく」なんていうと怒られるでしょうが、それでいいんです。 そんなことを「楽しんだって、いい」と許容できる組織が増えて、まず会社が楽しくなれば、日本が楽しい国になる一歩になると思います。 桜庭:赤澤さん、本日は貴重なお話、ありがとうございました! 編集後記(桜庭) 人と違った生き方を選ぼう、と理想を掲げても、実際には、社会構造や周りからの期待や基準軸によって、諦めねばならなかった。そんな経験がなかったか。 赤澤さんとの対談は、そう問われているような時間でした。 赤澤さんの歩んでこられた人生の旅路の中で、世の中に示していくロールモデルとしての生き様や、時には気合や勇気によって突き動かされたエモーショナルな行動は、OVERALLというチームの存在そのもののDNAとして、脈々と息づいていました。私たち一人ひとりが、自分の人生のアーティストなんだ、とドキドキワクワクするとともに、体温が上がりました。

個の可能性を広げ、共感資本社会を築く非営利株式会社の挑戦

2021年12月21日

一人一人が自分の可能性を開いていけば、相乗効果で世界は変わっていく。そんなメッセージとともに、さまざまな“越境の場”を提供している株式会社eumo (ユーモ)。 共感資本社会の醸成・実現に向けた様々な取り組み活動を行う同社は、日本ではまだ事例の少ない『非営利株式会社』です。自らも「人生を楽しみ、世界を味わう」を実践している、eumo共同代表の岩波さんにお話を伺いました。 経験と経験、そして自分との統合 35CoCreation合同会社CEO 桜庭 理奈(以下、桜庭):物質的豊かさから、心の豊かさや Well-Being へと社会の価値観が変わってきていますね。生きることを楽しみ、味わえる社会のために動いている岩波さんですが、そこに行き着くまでのご自身の人生の旅路とはどういったものだったのでしょう。 岩波直樹さん(以下、岩波):親が転勤族だったため、幼稚園を2つ、小学校2つ、中学校3つと転校を繰り返していました。180°環境が変わるというのを何度も経験して、「いろいろな世界の見方があるな」というのを、身を持って知りました。ゼロリセットから交友関係を築く、つまり自分と周囲を統合させて自分のスペースをどう作るかという術を必然的に身につけてきました。今は、幼少期の体験と青年期の体験を統合している段階で、確実に仕事に繋がってきています。統合は、これからする経験も含めてずっと続いていくものだと思います。 価値観というのは自分の経験の積み重ねで形成されるものなので、原体験や自分のルーツを辿ることも重要ですよね。ネクストキャリアを考えている人はライフラインチャートを作ってみたり、それに加え、地元の文化なんかも学ぶといいでしょうね。 私自身の原体験でいうと、転校経験ももちろんですが、小学生の頃に旅行に行ったアジアの風景や実情が人生に影響を与えてくれていると感じています。当時、外国では同い年くらいの子供が物乞いをしていて、生まれた場所や環境で生き方や認識している世界がまったく異なるということに衝撃を受けました。自分の価値観では測れない世界があることを知ったことが、「変わり続ける世界を見続けることが生きる意味の一つ」だと思う様になったきっかけだと思います。 絶対価値を語る人に惹かれた銀行員時代 桜庭:事業をしたいという志は、いつごろ芽生えたのでしょう。 岩波:やっと定住生活にはいった高校時代と、自由に過ごした大学時代を経て、就職活動時期に「こうしなければいけない」という社会の常識に縛られていくことに違和感を感じ、自分で事業をしたいと思うようになりました。しかし、そのためにはお金の流れを知ったり、力をつけたりしなければと思い、まずは銀行へ就職しました。 新人は中小企業の担当が多く、さまざまな経営者と直接会って話す機会に恵まれました。もともと好奇心は旺盛なほうなので、業績や融資の話もするのですが、その人がどんな人で、なぜその事業を始めたのかなど、経営者自身のことを積極的に聞いていました。そんな中で、経営者には、売り上げや社員数をこれぐらいまであげたいといった現代社会的成功を目指す相対的価値を持つ人と、世の中にこんな価値があると面白いよね、いいよねということを共感してもらって、結果ビジネスになっている絶対的価値をもつ人の2タイプにざっくり分かれると気付いたんです。と同時に、私は、決して業績が良くなくても、生き生きしていた絶対的価値をもつ経営者に惹かれたのです。自分もこんな生き方がしたい、と。 ちょうどその頃は、行内でも合理性ばかりが求められて、自分の感覚でものを言うと、「お前の感覚なんて聞いてない」と言われることが多く、成績はあげているものの、「自分は一体何をやっているんだろう…」と、自分が何者であるかがわからなくなってきていました。それでも当時は、数字的な意味でビジネスを伸ばしていく中にもヒューマニティがあったギリギリの時代でしたし、今でも銀行時代の経験にはとても感謝していますが、このままいると相対価値に飲み込まれそうだと感じ、3年経験したら次の道を探そうと思っていました。 「社員を幸せにする」とは? 桜庭:アイデンティティクライシスが起きていたわけですね。合理性と人間性のどちらが大事か?となった時に、どういう決断をされたんですか。 岩波:3年したら何かやろうと思っていたので、社外の人、特にベンチャーや新しいことをしている人にどんどん会いに行きました。そんな出会いの中で、「楽しんで仕事をしている人を増やしたい」という考えを共にできる仲間に巡り会ったんです。 論語にも「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。」とあるように、好きで仕事をしている人も、楽しんでいる人には敵わないんです。それって真理だなと思っていて、働く人が生き生きと働けて自分という人間をもっと味わって生きられる世界を作りたいと思うようになりました。そして、2002年に株式会社ワークハピネス(当時はまだその前身の事業)の立ち上げに参画したのです。 優先事項は「社員を幸せにする」ことですが、当時は8割の人から「何それ?逆じゃない?業績が伸びて給料が上がって社員が幸せになるんじゃないの?」と言われまして。確かにそれも間違っていないし、そのルートもあるし、会社を伸ばす方法論として合理的な部分は必要なんだけれども、そこにワークハピネスがないとサスティナブルにはなり得ない状況になってきていたんです。 未熟ゆえに表現仕切れず、実際の価値にまで落とし込めないで失敗しがちですが、本来人間は自己表現要求があるものです。現に、経済の最大化が種々の問題を生み出しているという懸念が世界レベルでなされる様になったこともあり、2015年ごろからは「ワークハピネス」という社名を見て「良い社名ですね」という人の方が多くなってきました。ただ、20年以上ビジネスパーソンとして刷り込まれたことはなかなか抜けないんですよね…。 5メートルでいい。越境すれば世界が開ける! 桜庭:組織の個から、個のパーパスと組織のパーパス…もはや組織でもなくコミュニティかもしれませんが、それらを合わせていく時代の流れには気が付きつつも、慣れ親しんだ岸から、見たこともない大海原に出ていくのを躊躇してしまっている人はどうすればいいのでしょう? 岩波:確かに、個の存在が組織の中の一つではなく、個の表現&成長の場として組織があるという時代の流れです。企業で働きつつも小舟で出ていこうかなという人も増えています。そうした、「出てみようかな?」と思っている人には、「既成概念や固定観念に縛られて出られないのはもったいないから、仲間と一緒に、5メートルだけでもいいから出てみない?意外と危険でもなく、楽しいかもよ」と背中を押す“場”を提供しています。 ただ、人にはいろいろなフェーズがあるし、生き方の問題なので、陸の真ん中にいる人を無理矢理動かそうとはしません。共同代表を勤めるeumoで描いているのは“共感資本社会”です。あくまで“社会”であって“主義=イデオロギー”ではありません。主義だと二元論の対立を生みますが、大事なのは多様性です。資本主義的社会構造にも限界がきていて、お金の力だけではなく“共感”で人が動き始めています。自分が共感できることは何なのか?、それを知るには、越境していろいろな人と話し、自分とは違う生き方をしている人や、その生き方を知ることが大事です。  少し目を見開いてみれば、人生の軸や生きる基準はたくさんあることがわかります。それによって、自分の可能性の幅が広がっていくんです。 組織は人を成長させる「舞台」 桜庭:そういった人が増えたとき、会社や組織、コミュニティはどう存在していればいいでしょうか。 岩波:資本主義で評価されない、つまりはお金にならないことを人はしてこなかったし、企業でうまくやっていこうとすればするほど、常識や社会システムに縛られて視野が狭くなっていくんです。 人の成長って、見える世界の広がりであり、経験できる世界の広がりであり、それが人生の楽しみだと思うんです。これまでの中央集権的社会から、自律分散的社会になっていく中で、組織には「個が人生を楽しみ、自分の可能性を開花していくための舞台になり得る」ことが求められるし、最近のベンチャーにはそこを意識しているところが多いと思います。 世界の変わり様、在り様を、見続けていたい 桜庭:会社が成長の舞台と考えると、経営者自身も経営を楽しめそうですね。 岩波:そうですね。人とはひとりひとりがアーティストであり、究極のマイノリティなんですね。「自分という人間はどういう人間で、何がしたくて、この世界に何を表現したいのか」をきちんと確認し、時間を割くことで、世界の味わい方が違ってきます。自分も(他人も)マイノリティなんだと自覚することで他人にも優しくなれます。でも、自分の探求って、「見つかった!」「やっぱりまだ見つかってない」の繰り返しだと思うんです。これを仲間と一緒にできれば、相互的に成長していくはずです。 桜庭:真の自分の探求って、ネバーエンディングストーリーであり、ワクワクが続く源泉なんでしょうね。 岩波:人生100年時代、どこまで人生の幅、可能性の幅、経験の幅を広げられるかにワクワクしますよね。一人一人が可能性を広げていくことで世界は変わるし、5〜10年後には見たこともない世界になっている可能性もあって、それをどこまで見続けられるかっていうワクワクもあります。 私は偶発性「奇跡」を大事にしていて、それを体験することが人生の大きな意味とさえ思っているんですが、「奇跡」って合理化・計画性からは絶対に味わえない価値で、人が開いていることによって起こる「必然」なんです。 「対話」で心開き、「内省」で自分を見つめ、「越境」で多様性を知り、「具体的な行動」を経て体で学ぶ。身体知がないと真の理解はありませんから。一連のことを失敗してもいいからどんどん実践してもらえれば、自分の人生をもっと楽しめ、地球規模の生き様(在り様)にワクワクが止まらないと思います! 桜庭:岩波さん、本日は貴重なお話、ありがとうございました! 集後記(桜庭) 私たち一人ひとりが究極なマイノリティとして、独自性を模索していく旅は、時代として、今やっとスタート地点に立ったばかりですね。 岩波さんからは、少しでもいいから慣れ親しんだ岸から離れて、可能性の大海原へ5mでいいから泳ぎだしてみよう、という応援歌をいただきました。 時代の変遷を生きているからこそ、岩波さんがおっしゃる「次世代の社会の在り方は、自律分散的に皆が参加型で創っていくことができる」というお話に、私 自身ワクワクしてしまいます。

テレワーク時代の働き方と「つながらない権利」について考える

HR・人事知識

2021年12月21日

フランス発、つながらない権利 「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日に、仕事のメールや電話に対応することを拒否する“権利”のことをいいます。発祥の地のフランスでは、すでに労働法にも織り込まれています。日本ではつながらない権利の法制化はされていませんが、勤務時間外に業務に関する対応をすることは当然時間外労働となります。 コロナ禍で日本でもテレワーク(在宅勤務)の導入が進みましたが、時間外労働を行うことによる公私の境界は曖昧に。厚生労働省が提示したテレワーク推進のガイドラインは、長時間労働を防ぐ対策として、同様な内容が提案されています。 テレワークが推進される今、注目される「つながらない権利」について、以下、少し仔細に考えてみましょう。 通勤でもテレワークでも課題は長時間労働 コロナ禍以前、働き方改革推進の一つとして注目されていたテレワーク。2015年に鳴門教育大学大学院准教授の坂本有芳氏が発表した論文では、「​​ICT(情報通信技術)ツールの利用度の高さや在宅就業頻度は、仕事と家庭生活の葛藤(コンフリクト)を増やす方向にある」と伝えています。 ここでいうICTはインフラ技術のことでなく、個人が選択可能なハードウェア(スマホ、タブレットなど)、ソフトウェア(メッセージやスケジューラーなどのアプリ、ネット電話などのネットサービスなど)のことです。調査からは「育児との両立」ができたと回答した女性をはじめ、女性に関しては、昼間の利用が多くみられる一方で、特に男性については、在宅勤務と言っても「持ち帰り残業」や休日出勤代わりの実施が多く、結果的に長時間労働から抜け出せていないことが分かります。 日本では以前からサービス残業が恒常化するなど、長時間労働を是としてきた文化がベースにありました。しかし、働き方改革、ワークライフバランスが叫ばれるようになり、その意識は着実に“変えるべきもの”となってききました。 テレワークで勤務時間が長めに コロナ禍爆発的に広がったテレワークでは、場所や時間を有効に活用できるようになってきたとはいえ、働き過ぎという問題に対しては根本的な改善があまりみられていないようです。日本労働組合総連合会による2020年の調査によると、テレワークによって、「公私が曖昧」になることがあった人が70%強、「労働時間が長くなる」「勤務時間外に仕事に関する連絡をする」ことがあった人が50%を超えるとの結果に。意識が向かうべき方向と実情は、真逆に進んでいるようです。 年代別に見ると、10代〜20代では「プライベートの充実に繋がった」、「趣味に費やす時間が増えた」割合は35%近くに上りましたが、40代、50代では20%以下を下回っています。若年層は、テレワークにより自分の時間を確保できるようになり、ワークライフバランスを保てるようになったと感じている人が見られる一方で、サービス残業に慣れた40代以降は、コロナ禍のテレワークであっても、プライベートにはなかなか時間を割けていないことが分かります。 若年層ほど「サボっていると思われるストレス」を抱えている もともと残業を厭わない働き方をしていた40代〜50代より、働き出した20代〜30代のほうが、働く時間とプライベートの棲み分けを意識している人は多いようです。 一方で気になるデータも。株式会社ヌーラボによる「テレワークと“サボり”の関係性に関するアンケート調査」によると、20代〜30代のほうがテレワークによって「サボってしまう」傾向があると同時に、他人から「サボっていると思われているかもしれない」ストレスも感じているというのです。 さらに、年代の高い人ほど「(他者が)サボっているのでは?と思ってしまう」というのは、本当の意味で働きやすい環境とは言い難いですよね。20代はテレワークを終了してオフィス勤務を希望する人の割合が、他の世代と比べて高く、こうした要因も関係しているといえるでしょう。 テレワークを継続するのであれば、若い世代の「サボっていると思われストレス」を軽減する必要があります。しかし、そのストレス解消の方法として、まるで勤務状況のパトロールのように、今何をしているかをこまめに詮索しては本末転倒です。 出典:株式会社ヌーラボ テレワークと“サボり”の関係性に関するアンケート調査 2020年 無意識にプレッシャーを与えている?メールは即レスが基本? テレワーク・出社問わず勤務外時間に仕事をする場合、遅い時間に電話をかける(受ける)のは躊躇する人がほとんどではないでしょうか。しかし、メールならどうでしょう。メールを送る側の場合は翌日に相手が見てくれればいいと考え、送信した経験がある人は少なくないはずです。調査によると、24時間以内にメールへの返事がくれば遅いとは感じない人が多いようです。 では、勤務時間外に企業から業務連絡が来た場合はどうでしょうか。電話・メール問わず、90%以上の人が「対応する」そうです。送られた側は返信しなければとプレッシャーに感じてしまっているのですね。厚生労働省のガイドラインにあるように、メール(および電話)の送信に時間制限を設けるとか、システムへのアクセス時間を制限することで、仕事の対応ができない状況にするなどの対応が必要でしょう。 出典:レバレジーズ株式会社 勤務時間外の業務連絡に関する意識調査2018年 みんなでデジタルデトックス たとえ拒否する権利があったとしても、権利を使えるかどうかは、その人の性格や状況によります。連絡がくれば対応してしまう人が9割を超える状況では、「やめましょう」と喚起するだけでは不十分でしょう。 勤務時間外労働は少しの時間超過でも、心身ともに影響を与えるという調査結果がドイツの研究機関から出されています。夕方6時以降の業務外対応でうつ病などの発症が多かったとの報告もあり、働く時間も重要なようです。前項で触れたような「さぼり」に関するストレスもあります。やはり「つながらない権利」を誰もが使えるよう、きちんと制度として担保するべきです。 たとえば、フジテレビアナウンス部は午後10時以降のメールを禁止しています。もちろん、早朝の番組を担当している人など例外はあるようです。 労働法に「つながらない権利」を織り込んでいるフランスも、時間帯などは各企業が決めることになっているように、「つながらない」期間は各々の企業の状況によって決めるものです。 大事なのは、決めたからにはマネージャーやリーダーが率先して守ること。今や小学生でも一人1端末の時代。いつでもつながれる安心感もありますが、つながらないことの大切さをきちんと教えていく必要があります。同時に、メリハリをつけて働くためにも、業務ツールやデジタル機器そのものから意識的に距離を置き、精神的・肉体的な疲労をリフレッシュする「デジタルデトックス」の習慣も持ちたいものです。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

新しいリーダーシップの転換:リーダーの役割とマインドを見つめ直す

リーダーシップ

2021年12月3日

風の時代、ニューノーマル時代において、新しいリーダー像のOSの入れ替えの必要性が叫ばれています。これからの時代のリーダーに求められるスキルや人材育成のスタイルとは…? 今回は、30年にわたるグローバル企業での人事経験を活かし、人材育成・組織開発のコンサルティングや研修、コーチングを行う株式会社フューチャー・ミー代表取締役社長 赤津恵美子さんにお話を伺いました。 10年前から抱いていたライフとワークのバランス 35CoCreation合同会社CEO 桜庭 理奈(以下、桜庭):まずはご起業おめでとうございます。会社員時代にお会いした時、赤津さんは非常に高い熱量でお仕事をされていたので、起業されたのは正直意外でした。きっかけはなんだったのでしょう? 株式会社 フューチャー・ミー 赤津恵美子さん(以下、赤津):ありがとうございます。おかげさまで1年ほど経ちました。独立はいろいろなタイミングが重なった結果です。まずは会社のM&Aに伴い、大規模な組織変更があったことです。 それまでは、日本の人材開発・組織開発部門の統括として、グローバルで活躍できるTOPタレントを輩出することや、社員のエンゲージメントの更なる向上、ダイバーシティの推進などのミッションについて、やりがいを感じながら担当してきました。しかし、巨大企業の買収によって人事の本社組織がガラリと変わり、多くの人が異動となりました。そこで、「自分はこれから何をしたいのか」と考え、見えてきたのが「働く人を元気にしたい」、特に「管理職の方々を元気にしたい」との思いでした。そしてそれは一社に限ったことではないな、と。 また、私自身のアメリカ赴任の経験から、場所にも時間にも、定年のような期限にも制約がなく、ワークもライフも充実した生活を送れる“独立”という形態には以前から憧れがあり、10年ほど前から、友人たちに独立したいと話していました。年齢的にも50半ばと、人生100年時代において人生の次のステージを考えるタイミングだったこともあり、決断しました。 桜庭:制約なく働くことが独立のモチベーションとなったのですね! 赤津:はい。時間の制約については、母親業とマネージャー業の両立で10年くらいは断続的に悩んでいたと思います。例えば、保育園のお迎えのために19時には会社を出るのですが、忙しい会社だったので、メンバーはたいてい遅くまで働いていて、一番にオフィスを出るのが申し訳ない気持ちでした。子どもを寝かしつけると自分も寝落ちしていたりするので、朝4時に起きて仕事をするスタイルに変えました。本当に切羽詰まった時は目覚ましがなくとも2時頃に起きたりしていましたが(笑)。 そんな生活を送っていて、家でも仕事はできるし、自分にあった時間帯に仕事をするのは効率がいいし、気分もいいことがわかってきました。性格的に独りが苦でないとか、自宅に落ち着いて仕事ができるスペースがあるとか、リモートワークの“向き不向き”はあると思いますが、こういうワーク&ライフがいいな、と思うようになったのです。 また、今はワーケーションなども進んできて、場所の制約も緩和されています。夫が米国に駐在しているので、まとまった時間あちらで過ごしたり、友人とワーケーションしたりして、見聞を広げ、ライフも楽しみながら、新たな気持ちで仕事に取り組むのも大事だなと思っています。 自分のバリュー&夢を語れるか?上司の存在意義は? 桜庭:赤津さんご自身の意識の転換はどういったことからだったのでしょう? 赤津:子育てと仕事の両立で、仕事の効率化をせざるを得ない状況になったり、夫や自分の赴任で海外に住んで、あちらの合理的な生活を体験したりといった“物理的”なきっかけがまずありますね。 あと、物理的なきっかけに関連しますが、成果を出すことは大前提として、「自分がどのように役に立てるのか?」を常に意識する環境にいたことも大きいと思います。これは、24歳で最初の転職をして、外資系の会社(ゼネラル・エレクトリック=GE)に入社した時、英語が未熟で肩身が狭かったのですが、「どうしたらこの職場に貢献できるのか?」を必死で考えましたし(結局、英語の上達は避けて通れないので、語学学校に通って克服しましたが…)、米国に赴任した時も「ネイティヴでない私がどうしたら役立てるか?」と周囲にアドバイスをもらいながら乗り越えてきました。 自分がやりたいことに飛び込んでみると、最初は夢が叶って嬉しいのですが、次第に自分の至らなさに気づき、否応なく変わらないといけない状況になります(笑)。でも、それを乗り越えた時の達成感は何とも言えず爽快です。私の場合は、物理的な環境に身をおくことが転換のきっかけになったと思います。 GEの元CEOである故ジャック・ウェルチが残した『Control your destiny or someone else will.(自分の運命は自分でコントロールすべきだ。さもないと、誰かにコントロールされてしまう。)』は、困難に当たった時に今でも思い出す言葉です。放っておいてもそれはなくなるわけではなく、遅かれ早かれ変わらざるを得なくなる。そうであるならば、自ら変わると決めた方が早くスタートできますし、選択肢も多くなる、ということなのですね。 桜庭:起業してもしなくても、時代の節目で「私は何の役に立てるか」は多くの人が感じていることでしょうね。 赤津:そうですね。「会社」を離れて個人の看板で仕事を始めたので、自分はどのように役に立てるのだろう、それを求める方にどうしたら出会えるのだろう、どう伝えればよいのだろう、とよく考えます。 日本の大企業でもリストラを行うところが増えてきました。会社で働き続けていく場合も、「私はこうしてこの会社に貢献する」、「会社は私のここに価値を感じている」ということが明確に言える必要があると思いますし、常に変わりゆく価値を創出するために、どう学び直し、身につけていくのかということについても計画的なアプローチが必要だと思います。 そのためには、よく言われることですが、“Must(やるべきこと)”と“Can(やれること)”と“Will(やりたいこと)”をバランスよく持つことが重要だと思います。MustとCanは大事ですが、それだけだとエネルギーが枯渇してしまいます。「うまくできるけど楽しめない」という状態です。「これが終わってから…」とMustやCanを優先してWillを我慢していると、そのうち何をしたかったか忘れてしまい、やりたいことが無い、エネルギーの低い状況になってしまいます。 そのため、どんな年代の方も、日常の中で定期的にWill、Can、Mustのバランスを見直す機会を持つこと重要だと思います。最近1on1が多くの会社に普及し、上司との対話が脚光を浴びていますが、部下を元気づけたり相談に乗ったりする立場のマネージャー自身に元気がないことも多いのです。きっとご自身のWillやPassionに目を向ける機会がなく、しばらくきてしまったのですね…。 現代は“感情”の時代。人材開発の鍵は“マインド” 桜庭:そういったことも含めて、これからチームを率いていくリーダーとしては、どんなOSへのアップグレードが求められるのでしょう? 赤津:知識やスキル面でのブラッシュアップはもちろん必要なのですが、コロナの影響もあり、コミュニケーションや人間関係に課題を感じているリーダーは多いです。 最近は、従業員意識調査や360度多面評価などでリーダーの評価が可視化され、「こんなに頑張っているのにこんな(低い)評価なのか…と自信を失った」、「自分と性格やノリが違う人には苦手意識があって、ついコミュニケーションが減ってしまう」、という話を聞きます。多様な意見を取り入れて、ぶつかりながらも協働することで課題解決や価値創造できる!とわかってはいても、なかなか現実には難しいですよね。 そこで、いま行っているのは、自己理解、他者理解、他者との関係づくりのワークショップです。これが結構人気でして(笑)。まずは自己理解を深めることから始めます。メンバーが受け身で覇気がないと思っていても、掘り下げていくと、「そもそも自分が多忙で溌溂としていない」、「多面評価の結果が悪くて自信をなくしている」、などと思い当たったりします。そこで、「そもそも自分はどんなことを大事にしていて、何がやる気の素なのか」、「どんな強みやリソースをもっているのか」といったことをツールも使いながら深く考えていきます。 次に、他者についても同様に、大事にしている事や、やる気の素、強みなど、対話を通して理解していきます。最後に、そうした多様な価値観を持つ人たちとどのように接すればよいのかを考えることで、「私が気にしすぎていたんだ」とか「こういう行動をすればよい相乗効果をだせそう」とか、すぐに職場で使える気づきをたくさん得て、元気になって帰られます。 また、「部下の質問に全て答えなくてはいけない」と思われている管理職の方も多いのですが、全てに答えがあるわけではないですし、一人で出す必要もありません。一緒に考える、得意でないことは他の人に補完してもらう、といった発想の転換も必要ですし、知識や人脈を広げて、活用できるリソースを増やすことも大事です。 勇気をもってリーダーのスタイルを変えていく! 桜庭:マインド面も含めた人材開発を行っていくことが重要なんですね。それを実現するプログラムとはどういったものなんでしょうか? 赤津:デジタルの進化で個人の発言や創造のインパクトが大きくなっています。TwitterやYouTubeなどソーシャルメディアの影響力はスゴイですよね。また、顧客ニーズも昔は最大公約数的な対応が一般的でしたが、今はデジタルツールで個別の状況がリアルタイムで見えるので、それに合った対応が不可欠です。したがって、社員がひとりひとりのお客様のニーズを的確に把握し、自分で考えて動くことが必要になってきています。ですから、社員の創造力を解き放ち、自律的に動けるように、しかも、自分勝手ではなく、部門や会社として全体の整合性が取れるように、というマネジメントが求められています。 自律型人材を増やすために、リーダー/マネージャーは「リード」「管理」「支援」「育成」の4つの役割を行う必要があると考えています。また、マインド面では、先ほども述べましたが、「自他の強みを生かすこと」、「社員が動ける、動きたくなる、Will, Can, Mustのバランスがとれた環境を作ること」、「任せて育てること」、「コーチングしながら成長を促進すること」の4つを意識して行うことが重要だと考えています。 以前は一般的だった上意下達の管理型から、自律性を引き出す支援型へ、マネジメントスタイルの転換が求められています。コーチングなんてされたことも、学んだこともないけれど、1on1やキャリア面談、評価面談で実践せざるを得ない状況なんです…という方が増えています。さらにそのスタイル転換のスピードも問われています。 いまの若手は「ここでは物足りない。成長のチャンスがない。」と思うとすぐ転職してしまいます。危機感が強く、自分の価値が高められるような仕事を求めているのですね。人間関係がよいというのは大事なことですが、人を惹きつけ続けるには、継続的に成長できる組織であることが重要なのです。 そんな新たなマネジメントを効果的かつ効率的に身につけるにはどうすればよいのでしょうか。それは、きちんと設計されたプログラムで、コーチや仲間と共に学ぶ場へ、踏み出すことだと思います。 フューチャー・ミーのプログラムでは、まず、先ほどのマネージャーの4つの役割と4つの基本方針にもとづき、基礎知識を学びます。知るべき事だけを効果的に、しかも応用がききやすいようにツールや豊富な事例と共に提供します。 次に、それを日々実践していただきます。今週はどんな目標を立て、そのために何を行い、どんな結果だったか、その反省に基づき、来週は何をするのか、といったPDCAを週報に書いて振り返ります。 最後に、やってみて疑問に思ったことはいつでもメールで質問できますし、定期的に個別コーチングを受けていただきます。個別コーチングは、大きな気づきと変化を実感できると、このような声をいただいています。「本質的な課題が見えて、実行の背中を押され、確実に前進した。組織運営に自信が持てた」「話すうちに課題が整理・言語化された。目的に向かって一緒に歩いていく安心感があった」「本質的な部分をえぐられた感じがしたが、自分に合った接し方をしてもらえ、成長した実感がある」 リーダー/マネージャーにも成長を感じていただき、部下にもそのような機会を与えられる、そんな循環が広がっていったら、日本の職場もやる気のある人が6%※という汚名を返上し、活気とイノベーションに溢れる場になるのではないかと思います。そんなムーブメントに少しでも貢献できれば非常に嬉しく思います。 ※Gallup社による調査 桜庭:活気とイノベーションに溢れる場…まさにそうですね!赤津さん、今日はありがとうございました! 編集後記(桜庭) ポストコロナの新時代におけるリーダー職のかじ取りについて読者に向けた「応援歌」を、と考えていたところ、これ以上ないくらい適任では!?とお顔が浮かんだのが赤津さんでした。 お話を伺う中で、パーソナルな弱みを感じた時のお話や、視点の転換や、学び、心やマインドの育みにいたるまで、丁寧にお話をくださいました。特にCanやMustだけに縛られ働くだけでは「エネルギーが枯渇する」というお話は、自分自身の就業人生を振り返っても大きくうなずくところでした。日本のこれからの時代に「支援型リーダーシップ」が当たり前となるように、赤津さんの挑戦に心から共鳴し、応援いたします。

ダイバーシティ推進と企業の財務成功:なぜ多様性がビジネスに不可欠なのか

人材開発

2021年11月12日

本記事は、KEIEISHA TERRACE連載:戦略HRBPから見た、人・組織・事業・経営の現在&これから第6回企業における「ダイバーシティ」のリアル:多様性を増やせばいいってもんじゃない、より転載を行っております。* 今日は、あるチーム内で実際に起こったダイアローグの引用から始めます。 Aさん「いよいようちのチームもコスト削減の施策を何らかの形で考えなければならない局面に差し掛かりました」 Bさん「会社は新しいことにチャレンジすると言いながら、うちのチームの業務負担は増えるばかりだし、前の仕事も引き続きやりながら、新しい仕事がその上に乗っかってくるだけ。経費削減で、ましてやチームの人数を縮小するなんて、考えられるわけありませんよ」 Cさん「確かに前から取り組んできたものを、すべて踏襲し維持しながら、単純に業務だけ増やせば、負担が増えるのは容易に想像がつきますね。では、もしこれを、チームが最大価値を生み出せることだけにフォーカスすることを考えるきっかけと捉えるのであれば、何が起こるでしょうか。続けるべきものもある中で、捨てるべきもの、辞めるべきもの、変えるべきものはないでしょうか」 Aさん「なるほど、そうですね。こういう機会がないと、実際には今までのやり方を変えて何かをさらに生み出そうというモチベーションや、私たちチームの本質的な存在意義の見直しなど、なかなか着手できませんよね」 Bさん「お二人が言っていることは頭では理解できますが、人の心はそう簡単に切り替えられるでしょうか。この有事を好機と捉えて、ポジティブなメッセージだけで引導するとすれば、チームメンバーの中には反発する人も出てくると思います。だからこそ、ロジカルに頭に訴えかけるメッセージだけではなく、彼らの心に訴えかけるメッセージや伝え方も大切だと思います」 Cさん「そこは確かに私の視点では欠けている部分ですね。そうするとこの3人のリーダーの間では、我々チームの存在意義と価値貢献について本質的な議論や見直しをするのには、良いタイミングと捉えつつ、痛みを伴う変革をチームメンバーにも理解してもらった上で実際のアクションに着手できるように、彼らへの感謝の念を忘れずにメッセージに盛り込むというのは、いかがでしょうか」 Bさん「それは良い案ですね。賛成です」 Aさん「私も同感です」 真の「ダイバーシティ」は少数派カテゴリーの人数比率を増やすことが目的ではない 今日は昨今の企業や経営を語る上では、耳にしないことがないキーワード「ダイバーシティ」の真意に迫ります。かつて日本企業では、年功序列や終身雇用を中心に、画一的な働き方や男性を中心とした就労人口比を特徴としていました。その後女性の社会進出や男女共同参画などの国際的な流れが後押しし、まずは女性の活躍という視点から、「より多様な人材の活用」が「ダイバーシティ」の主なテーマであったのです。 2004年に経済同友会が人事戦略として「ダイバーシティ」の大切さを提議したことを皮切りに、現代に至っては、「ダイバーシティ」のテーマは、いかに多様な人材を活かし、能力が最大限発揮できる機会を提供してイノベーションを起こす経営を実行するか、に移行しています。 これは、ひとえに日本における労働人口の減少や、私たちの働くことへの価値観の変化や多様化、顧客ニーズの多様化と国を超えたボーダーレスな国際化など、時代や社会の市況が大きく転換していることと相関しています。平たく言えば全員参加型社会の実現を目指して、企業を含めて社会全体で「ダイバーシティ」に注目が集まっているのも、なるほど、頷けます。 ただし、「ダイバーシティ」の重要性について声高に言われるものの、他方で「ダイバーシティ」の取り組み自体は、まだまだ多様性のカテゴリーのうち、比較的該当者が少数であるカテゴリーの組織における占有比率を上げることが目的となってしまっている企業の取り組みも、多く見られます。例として、女性管理職の比率を202〇年までに△%まで引き上げる、であったり、障碍者の法的雇用率を守るために障碍者枠で〇人採用する、といった取り組みです。 取り組み自体は、一つひとつ大切なものではありますが、それらはあくまでも方法論:HOW論であり、なぜ組織に多様性を増やすことが必要であるのか:WHY論や、それによって何を成し遂げようとしているのかの経営ミッションや事業ビジョン:WHAT論が、すっかり抜け落ちているのに、HOW論が目的にすり替わっているケースもあります。 もし経営者の皆さんや皆さんの組織で、「ダイバーシティ」の推進を検討されている、または、推進をすでに行っているが、どうも企業文化として根付かない、または、多くの社員にとっては他人事のように捉えられており、一部の志が高いメンバーだけが声高に「ダイバーシティ」の重要性を訴えかけ、しまいには、周りの関心や協力が得られずに、勢いよくスタートを切った取り組みも、次第に尻すぼみになってしまうことはないでしょうか。 「ダイバーシティ」の普及にいち早く経営課題として取り組んだカルビー社では、経営リーダートップ自らが「ダイバーシティ」指標を到達することが、経営目標に直結しているかを、繰り返しリーダー・メッセージでも伝えていますし、各事業部のリーダーたちには、到達目標へのコミットメントを宣言してもらうなど、先のWHYとWHATがありきで、HOWである女性活躍の場を設けることや、働き方改革等に着手している様子が窺えます。 「ダイバーシティ」を強力に推進&実装できている企業は財務結果も優れているという結論 それでは「ダイバーシティ」について、企業が全社を揚げて取り組むWHYとは何か。米国コンサルティング会社である、マッキンゼー・アンド・カンパニーは「ダイバーシティ」に関するレポートを例年発表しています。 そこには業界横断的に選ばれた約360社を対象にした調査結果を元に作成されており、特にその中で着目すべきは、「ダイバーシティ」と企業の財務業績との相関関係です。以下の8点について、明白な関係性を明らかにしています: 人種・民族的多様性において、上位25%以内に入る企業は、当該業界の中央値よりも30%以上財務パフォーマンスが高い傾向にある 性別の多様性において上位25%以内に入る企業は、当該業界の中央値よりも15%以上財務パフォーマンスが高い傾向にある 性別、人種・民族の多様性で下位25%以内に入る企業は、平均的な企業と比べ、財務リターンが当該業界の中央値を超える可能性が低い 人種・民族的多様性と財務パフォーマンスは比例関係にあり、多様性が10%高まるにつれて、営業利益は0.8%向上した すでに一定の取り組みがなされている性別の多様性より、人種・民族的多様性を高める方が、財務パフォーマンスにより大きな影響を与える 上級経営幹部の性別の多様性は、高い財務パフォーマンスに繋がっており、多様性が10%向上するにつれて営業利益は3-5%向上した 性別の多様性と人種・民族的多様性の双方において上位25%に入った企業は、存在しなった 同国同業者が違う財務パフォーマンスを示していることは、「ダイバーシティ」がマーケットシェアを高める差別的要素となっていることを意味している 冒頭のあるリーダーチームの意思決定に至るまでの、対話のやり取りをもう一度眺めてみましょう。3人のリーダーチームが、多様性のある考え方を持ち寄らなければ、顧客志向や従業員満足度、意思決定の制度などの向上を見込むことは、難しいのではないでしょうか。先のデータポイントの相関性からは、「多様なリーダーシップを取り入れた企業は、より財務的にも成功する」好循環を生むと読みかえることもできます。 終わりなき「ダイバーシティ」の達成:経営者と人事の苦悩 他方で、「ダイバーシティ」の達成の困難さについて語る、企業の経営者や人事を司る者の悩みは尽きないと想像します。それはなぜでしょうか。私たちが生きるこの時代で、様々な国境や業界、企業など「境目」が取っ払われて多様な人材が越境し交流することで、イノベーションや成長を模索していくことが、成功への糸口だと確信している経営者がいる一方で、いまいち各社の「ダイバーシティ」の取り組みが一過性のもので継続していかないことや、組織の多様性を最大限に活かす企業文化を醸成するところまで到達していないことも、課題として感じているはずです。 「ダイバーシティ」を高めることのWHYやWHATから始まり、様々な施策であるHOWに着手するとともに、昨今「ダイバーシティ」とペアで語られる「インクルージョン」にどうもヒントが隠されているようです。次号では、継続して「ダイバーシティ」の関連トピックとして、「インクルージョン」にスポットライトを当てます。それではまた。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。 *転載元記事: 企業における「ダイバーシティ」のリアル:多様性を増やせばいいってもんじゃない| KEIEISHA TERRACE

中堅・ベテラン層のアイデンティティ・クライシスを乗り切らせるには?後編

リーダーシップ

2021年10月31日

働き方改革や旧型経営の破綻、パラレルキャリアの促進などにより、仕事をする上で組織に対する“個”の存在感が増してきています。当社CEO桜庭理奈へのインタビュー、アイデンティティ・クライシス前編は、桜庭の生い立ちやキャリアの中で経験したアイデンティティを中心に綴ってきました。後編では、アイデンティティ・クライシスを抱える社員の個性を認めるために必要なことや、自律的な個と組織をつなげていくために管理職や意識しておきたいことについて語っています。 35CoCreation合同会社 桜庭理奈 多様性の時代、社員にも経営者自身にも自律が必要 35CoCreation合同会社CEO 桜庭理奈(以下、桜庭):これまでのキャリアとアイデンティティ・クライシスの経験から私が確信したことは、組織に帰属していた人ほど、会社の判断が自分の考えと違った時に、ショックを受け、ネガティブな方向へ働いてしまうということです。頭と心がちぐはぐな状況に陥りやすく、判断が明確な打開策になりにくくなってしまう。誰が悪いわけでもなく、個と組織の正義だけでなく、個と個の正義もぶつかってしまいます。 編集部(以下、編):前編の冒頭で触れた30〜40代の反対行動も、その現れなのでしょうか? 桜庭:メンバーに、自律(自分で決断し、自分で行動する)してもらわなければ、そのような対立が出てきてしまいますよね。経営者も、目の前の課題だと思い込んでいることを解決するだけでは根本的な解決にはならなくて、もっと上流の「なぜそれをやりたいのか?」を自身に問いかけ、それを言語化し、多様な考えを持つ“個”へいかに伝えるのか?伝え方の戦略・戦術が必要だと気づくべきです。 編:迷っているメンバーに対し、「自律していいんだ」ということを伝えていくということでしょうか? 桜庭:経営者には2タイプあります。一つは自律を促すタイプ、もう一つは依存を推奨するタイプです。しかし、後者は人生を人に委ねることですし、今の時代では部下は生きにくくなるでしょうね。逆に、自分らしさや生きがいを理解して、個とコミュニケーションをとり、組織と個を繋げていこうとする経営者は前者のタイプです。ただ、コミュニケーションを間違えると前述のアイデンティティ・クライシスから派生した対立を生みます。 まずは、組織という有機体は多様性で成り立っているという前提に立つことが重要で、自分もその中の“個”のひとつなんだと自覚した上で、経営者も自分らしさを出していけばいいと思います。これは、一種のスキルですね。私自身もキャリアの中で挫折やら、失望やら、失敗やらを経験しましたが、そういった「自分は何者なのか」と深く追及するような経験が、このスキルを身につける大きなきっかけになっていると思います。業績をあげている多くの経営者が自分追及に試行錯誤して苦しまれた経験をお持ちなのも頷けます。 ただ、残念ながら、実際には個と組織をつなげる素晴らしいアイデアを持ちつつ、「でも〜」と何かしら理由をつけて、実行に移せていない経営者がほとんどです。「30〜40代の中間管理職に反対されて頓挫する」というのも、実はこの「でも〜」の一つなんだと思います。 そして「でも〜」といいつつ、多くのことを諦めているんですね。アイデアはあるんですから、諦めるのはもったいないです。まずは、その「でも~」が何なのかを他人と共有することから始めましょう。失敗を恐れず実行すればいいんです! それでもなお「でも〜」という経営者は多いでしょう。そんな時は個と組織を繋ぐため、経営者や役員と伴走する、私のような人事のスペシャリストを置くことも有用かと思います。しかし日本ではその人数が圧倒的に足りていないのが実情なんですが。 編:それが桜庭さんが独立された理由でもあるのでしょうか? 桜庭:経営者には相談者が必要ですし、少ない存在を大手に独占されたら、残り9割の中小企業はどうしたらいいのか?と思い至ったところで、私の人生のミッションが変わったのはあります。私自身をシェアしていただくことで自分も幸せだし、社会的インパクトもあるなと。それが独立前にパラレルキャリアとして、コンサルを始めたきっかけでした。 自分なりの真・善・美をみつめる オンラインにてインタビューを行いました 編:パラレルキャリアやプロジェクトベースの仕事が多くなって、ますます個の能力が問われている感じがします。 桜庭:自分で関わる仕事やチームを選べるようになってきてますよね。誰にも強制されないし、チームという安心感はあるしで、幸せなことだと思うんですが、同時に、自分にできることと、相手が求めることの齟齬が生じることもあって、そこを生じさせないための対話が必要です。そしてその対話に不可欠なのが、自律した個としての責任、何に対してイエス・ノーをいうのかという“軸”です。自分なりの「真・善・美」といえるもので、これがあれば、人生に対し主体性を持て、幸福感が高まり、結果的に創造性も生産性も高まるのではないでしょうか。 ただ、個にベクトルが向くので、不安にはなるでしょうから、「私の武器(軸)はこれです!」と言えるようになるまで、組織としても、経営者としても伴走は必要です。特に、マニュアルを作って「誰でもできる仕事」へと効率化とスタンダード化を正としてしっかりこなしてきた30代後半〜40代の人々にとって、「自分だからできる仕事」へのパラダイムシフトは、OSを載せ替えるくらい大きな変化なので、しっかりとしたフォローが大切なのです。 編:確かに、急に「自分で考えてやって!」と言われても不安しかないですよね…。 桜庭:そうですね、判断軸すなわち、自分なりの真・善・美はアップデートされてしかるべきですし、それを形成せずに自律して!と突き放されるのは酷かもしれません。そこは「これまでとは違う幸せもある」ことを体感できる丁寧なコミュニケーションや実験の場が必要でしょうね。 今まさしく、リスクを取らずに自律する視座を体感してもらうため弊社でも取り組んでいるのが「越境コーチング」です。部門や会社を飛び越え、利害関係のない人たちが同等な立場でコーチングし合います。多様な価値観に触れ、自分とは違う視座を得るのですが、そこでみな気づくのが「答えのないのが答え」だということなんです。 コーチング開始3〜4ヶ月は、「正解はなんですか?私たち合っていますか?うまくできていますか?」と聞く方が大勢います。それに対し何が正解かの答えを与えるのではなく、「なんで合っているかどうかが気になるのか?その違和感はどこから来ているか?」とさらに自分の深層を見てもらうようにすると、”答えのないのが答え”に皆行き着きます。「あんなに誰のための正解かわからない正解を求めていたのが恥ずかしい」というくらい。 コロナ禍なんて普通ではありませんから、“絶対的答え”なんてあるわけもないんです。しかし、それを求めるプロセスを経ることで”自分だけの答え”、自分らしさや生きがいといえるものに辿り着くのかもしれません。 経営者のみなさんは、全てをお膳立てする必要はありませんが、少なくとも“自分だけの答え”を見つけてアイデンティティ・クライシスを抜け切る道筋はチームメンバーへは示したいものです。そのためには、経営者自身も自律し、自らの幸せに向き合って、進んでいきたい道を皆と共有できるくらいに明確にする必要があるのかもしれませんね。経営者にもコーチングは必要で、特に自身をコーチングするセルフコーチングのスキルは、今後の経営者にマストなスキルになっていくと思います。 編集後記(編集部) 真・善・美。久しく忘れていた言葉ですが、“真”、“善”、“美”のそれぞれの意味と、各々の繋がりを考えた時、起こっていることと、その先への道が見える気がしました。これまで正しさを貫いてきた人々が、他者に対することを含めた意思や行為の基となる価値観、それを超えた感性を見つめ、従っていく時代がきたのだと実感。コロナ禍のおこもり時間も、自分深層探訪に使えるといいですね。

中堅・ベテラン層のアイデンティティ・クライシスを乗り切らせるには?前編

リーダーシップ組織開発

2021年10月31日

働き方改革や旧型経営の破綻、パラレルキャリアの促進などにより、仕事をする上で組織に対する“個”の存在感が増してきています。その傾向がリモートワークが進んだコロナ禍で、“ある現象”を生み、経営者を悩ませているようです。 今回、編集部は当社CEOの桜庭理奈にインタビューを行いました。桜庭はこれまで数社の企業で人事戦略に携わり、現在、多数の大企業・中小企業へ人事の面からサポートを行っています。前編では、桜庭の生い立ちやキャリアの中で経験したアイデンティティ・クライシスを中心に綴っていきます。 35CoCreation合同会社 桜庭理奈 “声なき声”をあげ始めた30〜40代中間管理職 編集部(以下、編):桜庭さんは経営者の方と接する機会が多いですが、その中で最近気になるお話があるそうですね。 35CoCreation合同会社CEO 桜庭理奈(以下、桜庭):そうなんです。立て続けに何人かの経営者から「新しい制度やシステムを導入しようとしても30代〜40代中間管理職が反対して頓挫してしまう」というお話がありました。反対するのは決まって30代(だいたい後半)〜40代のメンバーやチームを持っている中間管理職の方々なんです。 これは、自分たちが違和感を抱く旧型のことをやりたくないということだったり、自分たちが引き継いできた負のレガシーを次代には継ぎたくないという“声なき声”の表れなんだと思います。 コロナ禍で進む、アイデンティティ・クライシス 編:経営者側も“よかれ”と考えて導入する制度やシステムですよね? 桜庭:だから問題なんですよね。先日、大手の外資系製薬系企業がこぞって全国の営業所を閉鎖するとの記事が出ました。コロナ禍でのリモートワークの加速化が大きな要因です。フィジカルな接触を持たない環境は、個々人の自律的働き方や生き方を応援する一面もある一方で、主体的に組織と関わるマインド、モチベーション、スキルなども求められます。 経営側は「自由になっていいよ」というつもりでも、個人側はいきなりそんな環境に放り込まれて、戸惑ったり、不安に感じたり、中には落胆する人もいるでしょう。いわゆるZ世代はいち早く順応できるかもしれませんが、それまで社会規範に従って生きてきた30代〜40代は困惑と同時に、「もっと自分らしく思うがままに生きてもよいのでは?」、「でもそれが本当にいいのだろうか?」、「そもそも自分らしさってなんだろう?」と悩み・揺れているのではないでしょうか。 彼らはいま、頭と心がちぐはぐな状態、つまりアイデンティティ・クライシスに陥っているのだと思います。だからこそ、経営側からこの揺らぎを理解していない制度を提案されて、拒否反応が出てしまっているのが、冒頭での話なのかなと。 幾度のアイデンティティ・クライシスを経て磨かれ続けたキャリアと個性 オンラインにてインタビューを行いました 編:確かに、若い世代の方が自分らしく好きなように生きていて、それをみて30代〜40代は羨望とも焦りとも思える感情を抱いているように感じます。自身でアイデンティティ・クライシスだと気付くのは難しい気もしますが、桜庭さんにもご経験があるのでしょうか? 桜庭:人生の節目節目に何度か経験しています。最初のアイデンティティ・クライシスは小学生の時で中学3年生まで続きました。両親は、「変わり者でいなさい。そうでないと意味がない」と言い、私にかなり奇抜な格好をさせていました。スカートを中学の制服で初めて履いたほどです。一方で学校をはじめとした周囲には「変わった子・はみだしもの」と評価され、いじめられることもあり、家と学校、両者の狭間で苦しい思いをしていました。クライシスというよりはアイデンティティを確立できない、といった感じでしょうか。 編:自我に目覚めていない、もしくはまだ定まっていない子どもならではの歯痒い体験ですね。大人になってからアイデンティティ・クライシスに陥った経験はありましたか? 桜庭:何度かありますね。初めて就職した会社では、ありものを着せられる居心地の悪さを感じながらの仕事でした。留学帰りの12月という中途半端な時期に就職活動をしたので、その時に残っていた求人から応募し仕事に就いたのですが、なかなかうまくいかなくて…。「自分のやりたいことはなんだろう?」と模索しつつ、一方で経験のなさからの引け目もあり、結局9ヶ月ほどで辞めてしまったんです。 次に入った外資は、面接で社名を間違えていても「面白いから入れちゃえば?」というくらい“個”を認めてくれる会社でした。職場で自己を見出しつつ、個としてできることと、組織で成し遂げることがあるのが良いんだと感じられて、そのバランスも身につけることができたと思います。しかし、リーマンショックという避けられない時代の波の中で、“組織の我”が強くなっていくのを目の当たりにして、「有事の時こそ個を大切にすべきなのに」と、再びアイデンティティ・クライシスに陥ってしまったんです。 半ば会社に幻滅しながら、次のキャリアを考えた時、この会社で担っていた人財トレーニングを通じて感じた“入り口から出口までを見続けることの大切さ”を思い、人事に振り切ることにしました。というのも、研修で接している時は素晴らしい人でも、部下や周囲からの評価はとんでもない人が結構いたんです。何が起こっているんだろう?と思いますよね。良くも悪くも人事は人の人生を左右する部分がありますから、人に寄り添う必要があることも人事に興味を持った理由のひとつです。 その後、希望通り人事のポジションに就くことができたのですが、またまたアイデンティティ・クライシスがやってくるんですよ。採用と育成人事の後に、組織を作っていく人事部長になったんですが、組織を作りながら個に向かい合うと、経営側の思惑を押し付けたくなる衝動に駆られてしまって。綺麗事ばかりではないなと、個として組織に関わっていた時と視点が変わりました。とはいえ、経営メンバーでありつつ、メンバーの近くにいたい、嫌われたくないと、組織と個の間を振り子のように揺れ動いていました。しかし、揺れ動いたからこそ、どちらに振り切ってもダメだとわかったし、個と組織を繋げる方法や、そのためのコミュニケーションの取り方がわかったと思います。 自分らしさを取り戻すとき 編:キャリアアップしさまざまな体験をされましたね。自分に正直に行動されていたように感じます。 桜庭:そうですね。ただ、この段階でもまだ「自分らしくいられているな」という感覚にはなれずにいましたね。ちなみに、その会社も外資で本社が国外にあったんですが、日本ならではの真理を見ていないものばかりで、ストレスが蓄積していました。どういった感覚や戦略でそのリージョンでビジネスを展開しているのか不明だったことや、多様性を謳うわりには、トップにアジア人を置いていないのも腑に落ちませんでした。そこで、次のステップとしてドイツ系の保険会社で人事にチャレンジしてみることにしました。 そこでは初の日本人社長と本社の橋渡しを2年ほど勤め、のちに戦略人事、後継者育成をミッションとしてシンガポールへ赴任しました。家族に転職してまで付いてきてもらったシンガポールでしたが、そこでは徐々に働く環境への疑問が湧いてきました。例えば、「なぜ9時から働いているの?」とか、「オフィスで働くのは誰のため?」とか。そこでは頑なに“リモートワークではなくWork From Home(在宅勤務)”と念を押されていたのですが、そこにも筋の通らないことへの気持ち悪さを感じました。国籍が混ざり合った職場環境でも、こうなのか、と違和感を感じました。 そこからは価値観の転換が一気に進んだ気がします。「本当に大切にすべき家族を愛しつつも、どこか関係が希薄になってしまっている」、「働くことで自分を確立しようとひた走ってきたけれど、それだけで人は幸せになれるのか」と、自分の中に価値観の回帰現象が起きて、自分を育ててもらった日本へ帰ることを決意したんです。どこかに置いてきていた“愛情深い”という自分らしさを取り戻せた経験でした。 日本に帰ってからは、偶然にも2社目に働いていた会社に再び入ることになりました。組織の我が強くなり、虚しさすら覚えて辞めたかつての会社でしたが、いざ戻ってみると、組織と個の関わりがまったく逆転していました。個を大切にしながら組織としてのミッションをいかに成し遂げるかに真剣に向き合っていたんです。もう、感動しましたね。業績はどん底でしたが、それが「生き残る」という共通の目的で団結する原動力になっていました。 編集後記(編集部) 以前登壇されたイベントを拝聴し、「丁寧に言葉を紡ぐ方」との印象が桜庭さんにはありました。今回も、ご自身のキャリアについて赤裸々ながら、言葉のもつ力を感じられるようお話されていたと感じます。アイデンティティ・クライシスを幾度となく経験されていたことは意外でしたが、一見、抗い難い流れに乗っているようで、実際はご自身の心に正直に、自分なりの軸を確立していかれたのだなと思いました。機会があれば、心の葛藤の仔細を伺ってみたいです! アイデンティティクライシス後編では、コロナ禍で進むアイデンティティ・クライシスとその原因&脱出方法についてお伝えします。

アンコンシャスバイアスを理解して、真のダイバーシティを目指す!

組織開発

2021年9月22日

メンバーと話していても、いまいち何を考えているのかわからない。会議や打ち合わせをしていても、意見がまとまらなかったり、パッとした意見が出てこなかったり…。理由は諸々あるでしょうが、その一つは、もしかするとあなたが持つ“アンコンシャスバイアス”かもしれません。 アンコンシャスバイアスって? アンコンシャスバイアスとは、文字通り「無自覚(アンコンシャス)な偏見(バイアス)」のこと。 育ってきた環境や、経験してきたことなどに照らし合わせて、何かや誰かについて「きっとこうだ」と無意識のうちに判断してしまうのがアンコンシャスバイアスです。これは脳の働きの一種とも言われており、それがゆえに誰しも持っているのが普通とされています。しかし、そのバイアスが強くかかった状態で発言やなんらかの行動をしてしまうと思わぬ形で相手を傷つけてしまう恐れがあります。良好な人間関係を築く上での支障にもなるため、注意が必要です。 あふれかえるアンコンシャスバイアス アンコンシャスバイアスには下記の表のようにさまざまなタイプがあります。 ■人や組織に影響する様々なアンコンシャス・バイアス<対人バイアスの代表例> ステレオタイプ(Stereotype)人の属性や一部の特性をもとに先入観や固定観念で決めつけてしまう例:「あの人は〇〇だから□□だ」正常性バイアス(Normalcy bias)問題が起きても「私は悪くない」と自分に都合のいいように思い込んでしまう例:「私は大丈夫」「私の判断に間違いはない」確証バイアス(Confirmation bias)自分の考えに一致する情報ばかりを探してしまう例:「やっぱりあの人は悪い人だ」「私の判断に間違いはない」権威バイアス(Authority bias)権威のある人の言うことは、間違いないと思い込む例:「あの人が言うなら間違いない」集団同調性バイアス(Majority synching bias)周りと同じように行動してしまう例:「私の意見も同じです」「みんなが〇〇と言っているから」 ■キャリアに影響するアンコンシャス・バイアス<キャリアバイアスの代表例> ハロー効果(Halo Effect) 特定の利点や欠点に目が行き、全体の印象がそれに引きずられてしまう例:「あの人は〇〇があるからOK」「〇〇が無い人は何をやってもダメ」ステレオタイプ脅威(Stereotype threat)自分の「属性」に対する否定的な固定観念が呪縛となる例:「私は女性なので」「ぼくは次男ですから」サンクコスト効果(Sunk cost effect)費やした時間や労力を考えてしまい、やめていいこともやめられなくなる例:「せっかくこれまでやってきたんだし」「いまさらここで変えられない」バラ色の回願(Rosy retrospection)過去を美化してしまい、今を否定してしまう例:「前の方が良かった」「あの頃に戻りたい」インポスター症候群(Imposter syndrome)能力があるにもかかわらず、自分を過小評価してしまう例:「私にはまだムリ」「私には力不足」 出典:『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』(守屋智敬著)巻末付録 わかりやすいのはステレオタイプでしょう。 年齢、性別、人種、学歴、役職といった、その人“属性”で、その人の能力や発言を判断していることはありませんか? 例えば、成長めざましい企業の代表が某国立大学の出身であると、「やっぱり、◯◯大学は違うね」と思ったり、取引先からこちらが勝手に“ローキャリア”という先入観を持っている学歴の人を担当にされたら「重視されていない」と感じたり、逆に若くても役職の高い人だったら「仕事のできる人を当ててくれた」と思ったり。女性社員が細やかな気遣いをしてくれたら「さすが女性」と言ったり、逆に男性が同じことをすると「男性のわりに気がきくな」と言ったり…。挙げていくとキリがありませんが、全て一方的な決めつけ、つまりアンコンシャスバイアスの上に成り立った発言になっています。 ただ、ステレオタイプはわかりやすいだけあって、自分でもすぐ自覚できるものです。セクハラ、パワハラなど「ハラスメント」のガイドラインも気づくきっかけとなっているでしょう。権威バイアスなどもわかりやすいかもしれません。 しかし、周りと同じように行動する集団同調性バイアスや、費やした時間や労力を考えて判断を鈍らせるサンクコスト効果、過去を美化するバラ色の回顧、ましてや自分を過小評価するインポスター症候群などは、それ自体がバイアスであるということすら、思い至らない場合が多いのではないでしょうか。 その行動、ほんとにバイアスがかかっていませんか? アンコンシャスバイアスは無意識なので、普段の何気ない行動に現れます。なかには「よかれ」と思ってとった行動もあります。 例えば、適任だと思っていても小さいお子さんのいる女性には「大変だろう」と出張をお願いしないとか、キャリアに役立つと思っても、「若い子はプライベートを重視するから」と新人に休日にかかる仕事をさせないとか、新しいシステムの導入にあたって「覚えられないだろう」と、年配社員にアシスタントをつけたりとか…。 いずれも「気を遣った」ことで、当人の成長やキャリアを妨げることになり、気を遣われたほうが不満に感じ、気を遣った方は「よかれと思ったのに」とモヤモヤし、結果、関係がギスギスしてしまうという、双方にとって幸せでない状態になってしまいます。先回りしてその機会を奪う必要はありません。 ここで必要なのは、アンコンシャスバイアスの効いた“気遣い”ではなく“対話”なのです。 ダイバーシティとアンコンシャスバイアスの関係 アンコンシャスバイアスは、人間関係や組織、ひいては事業の成長にも影響を与えます。ダイバーシティ(多様性)が事業の成長には不可欠であることは、すでに議論の余地はないかと思いますが、多様性とは、人や制度を揃えればよいという訳ではありません。異なるバックグラウンド、価値観、考え方を理解し、許容してこそ成り立つものです。 では、その相互理解や許容の段階でアンコンシャスバイアスがかかってしまっていたら? 会議などで意見がまとまらないのは、「異なる意見が重要」と思っていても、先にあげたバイアスの「確証バイアス」が働いているからかもしれないし、イノベーティブな意見が出ないのも、「集団同調性バイアス」や「サンクコスト効果」の表れかもしれません。 また人財の有効活用にも、なんらかのアンコンシャスバイアスが働いて、最適化できていない可能性だってあります。 アンコンシャスバイアスはコントロールできる 先にお伝えした通り、アンコンシャスバイアスは脳の働きの一部なのであり、誰しもが持っているものです。実際に、日本労働組合連合が5万人から回答を得たアンケートでは、実に95%以上の人が、何らかのアンコンシャスバイアスを認知している結果となっています。 また、アンコンシャスバイアスが組織改革、特にダイバーシティの実現の鍵となっていることを認識している企業も増えており、その改善に向けての取り組みが行われつつあります。 取り組みの中で多いのは、管理職への研修・ワークショップです。リーダー職からトレーニングを行う理由は、部下が遠慮なく「それってバイアスかかっていませんか?」といった違和感を口に出せる空気感や場をつくること、ひいてはバイアスのないカルチャーを作っていくためです。会社にもたらす影響や期待値が大きい管理職だからこそ、彼らへのアプローチが必要なのです。 アンコンシャスバイアスにかかる研修を提供するチェンジウェーブによると、「バイアスレベルを測定」「自分の偏見を自覚」「コントロールする手法を学ぶ」を繰り返すと、アンコンシャスバイアスを無意識から意識下へ置くことができるようになり、それを習慣化することで、アンコンシャスバイアスをコントロールできるようになるといいます。 まずは自らのアンコンシャスバイアスを知ることから 無意識の領域にあるものを意識下に置くことはかなり困難です。アンコンシャスバイアスを自覚することも、もちろん同様です。 しかし、アンコンシャスバイアスは、定量化できるテストを使って測定することが可能です。ハーバード大の研究から生まれたThe Implicit Association Test (IAT) がポピュラーで、それを応用したテストもいくつかあります。 例を見てみましょう。 「親が単身赴任中」というと、父親を想像する(母親を想像しない)  体力的にハードな仕事を女性に頼むのは可哀そうだと思う  お茶出し、受付対応、事務職、保育士というと、女性を思い浮かべる  DV(ドメスティック・バイオレンス)と聞くと男性が暴力をはたらいていると想像する(女性を想像しない) ※日本労働組合総連合会実施のアンケートより 男女かかわりなく、意欲&能力のあるものを育成・登用すべきであるから、女性だけに特別な育成施策を行うのは良くないと思う。 子どもを持つ女性に残業無し・時短勤務などの配慮をすることは、子どもを持たない女性にとって不公平な話である。 会議などで意見を強く主張する女性は、自己顕示欲が強そうだ。 上のポジションにチャレンジする意思を明確に持たない女性まで育成するのは、コストがもったいないと思う。 ※サイコム・ブレインズ、アンコンシャス・バイアスチェックリストより ちょっとみただけでもハッとする項目があるのではないでしょうか?まずは「自分自身の偏見を知る」ことから始めてみてはいかがでしょうか。 他者と対話することで本当の理解につながる 自らの中にあるアンコンシャスバイアスについて知ることができたら、次は実際にそれを他者と対話してみましょう。研修を活用するのもいいですね。対話の場を持つことでさまざまなアンコンシャスバイアスの事例に触れることができ、それがバイアスのないカルチャーや空気感を作ることにつながります。真のダイバーシティ組織を目指す上で、アンコンシャスバイアスの理解はもはや必要不可欠になっているのです。   桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

マネジメントは「管理」だけでは足りない?コーチングの重要性とスキルについて

2021年9月13日

管理するだけの人になっていませんか? マネジメント(management)は、英単語を直訳すると「管理」や「経営」という意味を持ちます。ですが、マネジメントの始祖ドラッガーの定義では、「組織に成果をあげさせるためのもの」であり、マネージャーは「それに責任を負っている人」のことになります。 昨今では、いわゆる管理業務と呼ばれる仕事はシステムやAIに任せられるようになり、さまざまな業務が手離れしている管理職は多いでしょう。一昔前の管理職は、「何かあったときに部下の責任をとる」、「失態のフォローアップをする」といった役割でしたが、現代においては、それだけでは足りません。なぜなら、それだけでは人も組織も成長することができないからです。 人や業務を管理するだけの管理職はもはや必要とされず、「組織に成果をあげさせるには、人・組織をどう作り上げていくか?」に向き合い続けなければ、管理職としての存在意義がなくなってきました。 なぜマネジメントに「コーチング」が欠かせないのか? 真のマネジメントに有効な手法として近年存在感を増しているのが「コーチング」です。コーチングとは、「目標の場所へ導くこと」を語源としていて、自主性を促し、目標達成に向けて能力を引き出したり、モチベーションを高めたりすることをいいます。 コーチングと比較して語られる手法に「ティーチング」があります。こちらは、文字通り、知識やスキルを“教える”ことが基本となっていて、マネジメントされる側は常に受け身です。10~20年くらい前までの日本企業であれば、ティーチングのマネジメントで上手く組織が回っていました。 しかし、業務が基本プロジェクトベースで進められ、専門性が組織の中でも重視されたり、AIの登場で効率化が進んだりと、働き方や業務内容が変化してきている近年、受け身な仕事を求める人や組織は淘汰されてしまいます。 また、職場で起きる問題も技術的課題ではなく、人や組織を変える必要のある適応課題に重みが出てきているなかで、自主性を促し、能力を引き出せるコーチングは必要不可欠なものとなってきているのです。 コーチングの原則と期待できるものとは? コーチングの基本的手法は、無限の可能性を持った相手(クライアント)の、課題解決のための解を内から引き出すことです。答えは必ずクライアントの中にあるので、コーチングする側が答えに誘導したり、求められているかもわからないアドバイスを与えたりしません。 コーチングには「双方向」、「現在進行形」、「個別対応」という3つの原則があります。 双方向:コーチングとはコミュニケーションスキルの一つでもあるので、双方向なのは当然と思われがちですが、意外と上司の考えを押し付ける一方通行の場合が多いのです。部下の意見をきちんと聞く、聞き出す姿勢が必要です。そうすることで何事も指示待ちだった部下の行動が変わっていきます。 現在進行形:行動変容は1回のコーチングで起こるわけではありません。コーチングを受けた上で起こした行動をフォローするようにコーチングを受け、また行動を起こすといった繰り返しでパフォーマンスは上がっていくのです。 個別対応:コーチングは基本的に1対1で行います。単純に人数だけの問題ではなく、かける言葉やタイミングについても、クライアントによってカスタマイズが必要です。性格や感じ方はもちろん、秘めたる力も人それぞれ違うため、個性を尊重し、寄り添う姿勢が大切です。 この原則に則って、コーチングを受けると、自分の能力が引き出され、自分なりの解が見つかるので、それが行動に変わりやすくなります。一方的に決められてやらされ感のあることは、大人だってモチベーションが続きません。しかし、自分で決めて自主的に動けば、モチベーションも高く保て、成果にも結びつきやすくなります。成果がでると、自己肯定感がもて、自信もつくので、一過性で終わらず個々の成長と、結果的に、組織の成長につながるという正のスパイラルを生むのです。 コーチングに求められるスキルとは? コーチングはもちろん外部のプロコーチにお願いすることも可能です。自分の内なる声を明らかにしていくのに、第三者だから話しやすいといったこともあるかもしれません。しかしながら、コーチとクライアントの間に信頼感関係は必須ですし、上記の3原則を忠実に実行していくのであれば、常に一緒にいるマネージャーほどコーチ役に最適な存在はいません。 コーチングに必要なスキルを身につけ、メンバーのコーチングを行うことで、信頼関係をより深め、メンバーも組織も成長させることができれば、マネージャーとしての本来の責務をはたせることにもなります。 コーチングに必要な基本スキルはいくつかありますが、まず身につけたいのは、以下の3スキルです。 傾聴:単に「聞く」のではなく、文字通り耳を傾けて聴く。言葉だけでなく、仕草や表情、その裏にある感情の動きなどにも配慮して対話する。 承認:成果だけでなく、対話の中で感じられた成長や気づきに対しても、きちんと言葉にして伝える。また、成果が出ていなくても、そのプロセスに目を向ける。 質問:クライアントの思考の幅を広げたり、気づきを促したりできる質問をする。 一見、マネージャーであれば身についているスキルのようでもありますが、本質の部分を勘違いしている人も多いのが現実です。 例えば、「傾聴」とは受け身で相手の話したいことを聞くこと、「承認」とは成果を認め褒めること、「質問」とはある程度予想した答えを引き出すことだと思っていませんか? 「傾聴」は、相手の感情にまで踏み込んでいく能動的なスキルですし、「承認」はそのプロセスにおける成長や能力開発にこそ必要ですし、「質問」は一緒に解を探していく工程を作っていくものなのです。 まずは、誤解のないようにこれらのスキルを身につけられるようにしましょう。 コーチングの落とし穴とは? しかし、コーチングも万能ではありません。クライアントのキャリアや立場によってはティーチングが有効な場合もあります。例えば、絶対的な知識不足の状態では引き出せる解の幅も狭まってしまいますし、成果が出るまでに時間がかかってしまうので、新人教育のようにある程度短期的に知識やスキルをつけないといけない場合や、大勢に同じことを行ってほしい場合などは、ティーチングが必要でしょう。 また、コーチングでは基本的にアドバイスは与えないので、相手の状況によっては別のアプローチのほうが伸びる可能性もあります。 ただ、コーチングがうまくいかない理由として、コーチとクライアントの相性が重要と以前は言われていましたが、研究や分析が進んだ現在では、コーチにきちんとしたスキルが備わっていれば相性は関係ないと言われています。言い換えれば、コーチにスキルがないとコーチングは機能しないのです。 セルフコーチングでトレーニング コーチとしてのスキルを高めるために有効なのが、自分で自分をコーチングするセルフコーチングです。きちんとコーチングの基本を抑え、目標設定もした上で実施できれば、自分自身の課題やそれに対する解決策も明確になり、成長速度を高めることができます。加えて、クライアント側の気持ちもわかるようになるので、メンバーをコーチングする際にも役立つはずです。 まずは、コーチングの基本を学び、一度実際に受けてみて、セルフコーチングでスキルを磨いてみるといいのではないでしょうか。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。