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アンコンシャスバイアスを理解して、真のダイバーシティを目指す!

組織開発

2021年9月22日

メンバーと話していても、いまいち何を考えているのかわからない。会議や打ち合わせをしていても、意見がまとまらなかったり、パッとした意見が出てこなかったり…。理由は諸々あるでしょうが、その一つは、もしかするとあなたが持つ“アンコンシャスバイアス”かもしれません。 アンコンシャスバイアスって? アンコンシャスバイアスとは、文字通り「無自覚(アンコンシャス)な偏見(バイアス)」のこと。 育ってきた環境や、経験してきたことなどに照らし合わせて、何かや誰かについて「きっとこうだ」と無意識のうちに判断してしまうのがアンコンシャスバイアスです。これは脳の働きの一種とも言われており、それがゆえに誰しも持っているのが普通とされています。しかし、そのバイアスが強くかかった状態で発言やなんらかの行動をしてしまうと思わぬ形で相手を傷つけてしまう恐れがあります。良好な人間関係を築く上での支障にもなるため、注意が必要です。 あふれかえるアンコンシャスバイアス アンコンシャスバイアスには下記の表のようにさまざまなタイプがあります。 ■人や組織に影響する様々なアンコンシャス・バイアス<対人バイアスの代表例> ステレオタイプ(Stereotype)人の属性や一部の特性をもとに先入観や固定観念で決めつけてしまう例:「あの人は〇〇だから□□だ」正常性バイアス(Normalcy bias)問題が起きても「私は悪くない」と自分に都合のいいように思い込んでしまう例:「私は大丈夫」「私の判断に間違いはない」確証バイアス(Confirmation bias)自分の考えに一致する情報ばかりを探してしまう例:「やっぱりあの人は悪い人だ」「私の判断に間違いはない」権威バイアス(Authority bias)権威のある人の言うことは、間違いないと思い込む例:「あの人が言うなら間違いない」集団同調性バイアス(Majority synching bias)周りと同じように行動してしまう例:「私の意見も同じです」「みんなが〇〇と言っているから」 ■キャリアに影響するアンコンシャス・バイアス<キャリアバイアスの代表例> ハロー効果(Halo Effect) 特定の利点や欠点に目が行き、全体の印象がそれに引きずられてしまう例:「あの人は〇〇があるからOK」「〇〇が無い人は何をやってもダメ」ステレオタイプ脅威(Stereotype threat)自分の「属性」に対する否定的な固定観念が呪縛となる例:「私は女性なので」「ぼくは次男ですから」サンクコスト効果(Sunk cost effect)費やした時間や労力を考えてしまい、やめていいこともやめられなくなる例:「せっかくこれまでやってきたんだし」「いまさらここで変えられない」バラ色の回願(Rosy retrospection)過去を美化してしまい、今を否定してしまう例:「前の方が良かった」「あの頃に戻りたい」インポスター症候群(Imposter syndrome)能力があるにもかかわらず、自分を過小評価してしまう例:「私にはまだムリ」「私には力不足」 出典:『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』(守屋智敬著)巻末付録 わかりやすいのはステレオタイプでしょう。 年齢、性別、人種、学歴、役職といった、その人“属性”で、その人の能力や発言を判断していることはありませんか? 例えば、成長めざましい企業の代表が某国立大学の出身であると、「やっぱり、◯◯大学は違うね」と思ったり、取引先からこちらが勝手に“ローキャリア”という先入観を持っている学歴の人を担当にされたら「重視されていない」と感じたり、逆に若くても役職の高い人だったら「仕事のできる人を当ててくれた」と思ったり。女性社員が細やかな気遣いをしてくれたら「さすが女性」と言ったり、逆に男性が同じことをすると「男性のわりに気がきくな」と言ったり…。挙げていくとキリがありませんが、全て一方的な決めつけ、つまりアンコンシャスバイアスの上に成り立った発言になっています。 ただ、ステレオタイプはわかりやすいだけあって、自分でもすぐ自覚できるものです。セクハラ、パワハラなど「ハラスメント」のガイドラインも気づくきっかけとなっているでしょう。権威バイアスなどもわかりやすいかもしれません。 しかし、周りと同じように行動する集団同調性バイアスや、費やした時間や労力を考えて判断を鈍らせるサンクコスト効果、過去を美化するバラ色の回顧、ましてや自分を過小評価するインポスター症候群などは、それ自体がバイアスであるということすら、思い至らない場合が多いのではないでしょうか。 その行動、ほんとにバイアスがかかっていませんか? アンコンシャスバイアスは無意識なので、普段の何気ない行動に現れます。なかには「よかれ」と思ってとった行動もあります。 例えば、適任だと思っていても小さいお子さんのいる女性には「大変だろう」と出張をお願いしないとか、キャリアに役立つと思っても、「若い子はプライベートを重視するから」と新人に休日にかかる仕事をさせないとか、新しいシステムの導入にあたって「覚えられないだろう」と、年配社員にアシスタントをつけたりとか…。 いずれも「気を遣った」ことで、当人の成長やキャリアを妨げることになり、気を遣われたほうが不満に感じ、気を遣った方は「よかれと思ったのに」とモヤモヤし、結果、関係がギスギスしてしまうという、双方にとって幸せでない状態になってしまいます。先回りしてその機会を奪う必要はありません。 ここで必要なのは、アンコンシャスバイアスの効いた“気遣い”ではなく“対話”なのです。 ダイバーシティとアンコンシャスバイアスの関係 アンコンシャスバイアスは、人間関係や組織、ひいては事業の成長にも影響を与えます。ダイバーシティ(多様性)が事業の成長には不可欠であることは、すでに議論の余地はないかと思いますが、多様性とは、人や制度を揃えればよいという訳ではありません。異なるバックグラウンド、価値観、考え方を理解し、許容してこそ成り立つものです。 では、その相互理解や許容の段階でアンコンシャスバイアスがかかってしまっていたら? 会議などで意見がまとまらないのは、「異なる意見が重要」と思っていても、先にあげたバイアスの「確証バイアス」が働いているからかもしれないし、イノベーティブな意見が出ないのも、「集団同調性バイアス」や「サンクコスト効果」の表れかもしれません。 また人財の有効活用にも、なんらかのアンコンシャスバイアスが働いて、最適化できていない可能性だってあります。 アンコンシャスバイアスはコントロールできる 先にお伝えした通り、アンコンシャスバイアスは脳の働きの一部なのであり、誰しもが持っているものです。実際に、日本労働組合連合が5万人から回答を得たアンケートでは、実に95%以上の人が、何らかのアンコンシャスバイアスを認知している結果となっています。 また、アンコンシャスバイアスが組織改革、特にダイバーシティの実現の鍵となっていることを認識している企業も増えており、その改善に向けての取り組みが行われつつあります。 取り組みの中で多いのは、管理職への研修・ワークショップです。リーダー職からトレーニングを行う理由は、部下が遠慮なく「それってバイアスかかっていませんか?」といった違和感を口に出せる空気感や場をつくること、ひいてはバイアスのないカルチャーを作っていくためです。会社にもたらす影響や期待値が大きい管理職だからこそ、彼らへのアプローチが必要なのです。 アンコンシャスバイアスにかかる研修を提供するチェンジウェーブによると、「バイアスレベルを測定」「自分の偏見を自覚」「コントロールする手法を学ぶ」を繰り返すと、アンコンシャスバイアスを無意識から意識下へ置くことができるようになり、それを習慣化することで、アンコンシャスバイアスをコントロールできるようになるといいます。 まずは自らのアンコンシャスバイアスを知ることから 無意識の領域にあるものを意識下に置くことはかなり困難です。アンコンシャスバイアスを自覚することも、もちろん同様です。 しかし、アンコンシャスバイアスは、定量化できるテストを使って測定することが可能です。ハーバード大の研究から生まれたThe Implicit Association Test (IAT) がポピュラーで、それを応用したテストもいくつかあります。 例を見てみましょう。 「親が単身赴任中」というと、父親を想像する(母親を想像しない)  体力的にハードな仕事を女性に頼むのは可哀そうだと思う  お茶出し、受付対応、事務職、保育士というと、女性を思い浮かべる  DV(ドメスティック・バイオレンス)と聞くと男性が暴力をはたらいていると想像する(女性を想像しない) ※日本労働組合総連合会実施のアンケートより 男女かかわりなく、意欲&能力のあるものを育成・登用すべきであるから、女性だけに特別な育成施策を行うのは良くないと思う。 子どもを持つ女性に残業無し・時短勤務などの配慮をすることは、子どもを持たない女性にとって不公平な話である。 会議などで意見を強く主張する女性は、自己顕示欲が強そうだ。 上のポジションにチャレンジする意思を明確に持たない女性まで育成するのは、コストがもったいないと思う。 ※サイコム・ブレインズ、アンコンシャス・バイアスチェックリストより ちょっとみただけでもハッとする項目があるのではないでしょうか?まずは「自分自身の偏見を知る」ことから始めてみてはいかがでしょうか。 他者と対話することで本当の理解につながる 自らの中にあるアンコンシャスバイアスについて知ることができたら、次は実際にそれを他者と対話してみましょう。研修を活用するのもいいですね。対話の場を持つことでさまざまなアンコンシャスバイアスの事例に触れることができ、それがバイアスのないカルチャーや空気感を作ることにつながります。真のダイバーシティ組織を目指す上で、アンコンシャスバイアスの理解はもはや必要不可欠になっているのです。   桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

マネジメントは「管理」だけでは足りない?コーチングの重要性とスキルについて

2021年9月13日

管理するだけの人になっていませんか? マネジメント(management)は、英単語を直訳すると「管理」や「経営」という意味を持ちます。ですが、マネジメントの始祖ドラッガーの定義では、「組織に成果をあげさせるためのもの」であり、マネージャーは「それに責任を負っている人」のことになります。 昨今では、いわゆる管理業務と呼ばれる仕事はシステムやAIに任せられるようになり、さまざまな業務が手離れしている管理職は多いでしょう。一昔前の管理職は、「何かあったときに部下の責任をとる」、「失態のフォローアップをする」といった役割でしたが、現代においては、それだけでは足りません。なぜなら、それだけでは人も組織も成長することができないからです。 人や業務を管理するだけの管理職はもはや必要とされず、「組織に成果をあげさせるには、人・組織をどう作り上げていくか?」に向き合い続けなければ、管理職としての存在意義がなくなってきました。 なぜマネジメントに「コーチング」が欠かせないのか? 真のマネジメントに有効な手法として近年存在感を増しているのが「コーチング」です。コーチングとは、「目標の場所へ導くこと」を語源としていて、自主性を促し、目標達成に向けて能力を引き出したり、モチベーションを高めたりすることをいいます。 コーチングと比較して語られる手法に「ティーチング」があります。こちらは、文字通り、知識やスキルを“教える”ことが基本となっていて、マネジメントされる側は常に受け身です。10~20年くらい前までの日本企業であれば、ティーチングのマネジメントで上手く組織が回っていました。 しかし、業務が基本プロジェクトベースで進められ、専門性が組織の中でも重視されたり、AIの登場で効率化が進んだりと、働き方や業務内容が変化してきている近年、受け身な仕事を求める人や組織は淘汰されてしまいます。 また、職場で起きる問題も技術的課題ではなく、人や組織を変える必要のある適応課題に重みが出てきているなかで、自主性を促し、能力を引き出せるコーチングは必要不可欠なものとなってきているのです。 コーチングの原則と期待できるものとは? コーチングの基本的手法は、無限の可能性を持った相手(クライアント)の、課題解決のための解を内から引き出すことです。答えは必ずクライアントの中にあるので、コーチングする側が答えに誘導したり、求められているかもわからないアドバイスを与えたりしません。 コーチングには「双方向」、「現在進行形」、「個別対応」という3つの原則があります。 双方向:コーチングとはコミュニケーションスキルの一つでもあるので、双方向なのは当然と思われがちですが、意外と上司の考えを押し付ける一方通行の場合が多いのです。部下の意見をきちんと聞く、聞き出す姿勢が必要です。そうすることで何事も指示待ちだった部下の行動が変わっていきます。 現在進行形:行動変容は1回のコーチングで起こるわけではありません。コーチングを受けた上で起こした行動をフォローするようにコーチングを受け、また行動を起こすといった繰り返しでパフォーマンスは上がっていくのです。 個別対応:コーチングは基本的に1対1で行います。単純に人数だけの問題ではなく、かける言葉やタイミングについても、クライアントによってカスタマイズが必要です。性格や感じ方はもちろん、秘めたる力も人それぞれ違うため、個性を尊重し、寄り添う姿勢が大切です。 この原則に則って、コーチングを受けると、自分の能力が引き出され、自分なりの解が見つかるので、それが行動に変わりやすくなります。一方的に決められてやらされ感のあることは、大人だってモチベーションが続きません。しかし、自分で決めて自主的に動けば、モチベーションも高く保て、成果にも結びつきやすくなります。成果がでると、自己肯定感がもて、自信もつくので、一過性で終わらず個々の成長と、結果的に、組織の成長につながるという正のスパイラルを生むのです。 コーチングに求められるスキルとは? コーチングはもちろん外部のプロコーチにお願いすることも可能です。自分の内なる声を明らかにしていくのに、第三者だから話しやすいといったこともあるかもしれません。しかしながら、コーチとクライアントの間に信頼感関係は必須ですし、上記の3原則を忠実に実行していくのであれば、常に一緒にいるマネージャーほどコーチ役に最適な存在はいません。 コーチングに必要なスキルを身につけ、メンバーのコーチングを行うことで、信頼関係をより深め、メンバーも組織も成長させることができれば、マネージャーとしての本来の責務をはたせることにもなります。 コーチングに必要な基本スキルはいくつかありますが、まず身につけたいのは、以下の3スキルです。 傾聴:単に「聞く」のではなく、文字通り耳を傾けて聴く。言葉だけでなく、仕草や表情、その裏にある感情の動きなどにも配慮して対話する。 承認:成果だけでなく、対話の中で感じられた成長や気づきに対しても、きちんと言葉にして伝える。また、成果が出ていなくても、そのプロセスに目を向ける。 質問:クライアントの思考の幅を広げたり、気づきを促したりできる質問をする。 一見、マネージャーであれば身についているスキルのようでもありますが、本質の部分を勘違いしている人も多いのが現実です。 例えば、「傾聴」とは受け身で相手の話したいことを聞くこと、「承認」とは成果を認め褒めること、「質問」とはある程度予想した答えを引き出すことだと思っていませんか? 「傾聴」は、相手の感情にまで踏み込んでいく能動的なスキルですし、「承認」はそのプロセスにおける成長や能力開発にこそ必要ですし、「質問」は一緒に解を探していく工程を作っていくものなのです。 まずは、誤解のないようにこれらのスキルを身につけられるようにしましょう。 コーチングの落とし穴とは? しかし、コーチングも万能ではありません。クライアントのキャリアや立場によってはティーチングが有効な場合もあります。例えば、絶対的な知識不足の状態では引き出せる解の幅も狭まってしまいますし、成果が出るまでに時間がかかってしまうので、新人教育のようにある程度短期的に知識やスキルをつけないといけない場合や、大勢に同じことを行ってほしい場合などは、ティーチングが必要でしょう。 また、コーチングでは基本的にアドバイスは与えないので、相手の状況によっては別のアプローチのほうが伸びる可能性もあります。 ただ、コーチングがうまくいかない理由として、コーチとクライアントの相性が重要と以前は言われていましたが、研究や分析が進んだ現在では、コーチにきちんとしたスキルが備わっていれば相性は関係ないと言われています。言い換えれば、コーチにスキルがないとコーチングは機能しないのです。 セルフコーチングでトレーニング コーチとしてのスキルを高めるために有効なのが、自分で自分をコーチングするセルフコーチングです。きちんとコーチングの基本を抑え、目標設定もした上で実施できれば、自分自身の課題やそれに対する解決策も明確になり、成長速度を高めることができます。加えて、クライアント側の気持ちもわかるようになるので、メンバーをコーチングする際にも役立つはずです。 まずは、コーチングの基本を学び、一度実際に受けてみて、セルフコーチングでスキルを磨いてみるといいのではないでしょうか。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

人事評価制度見直しの前に考えるべき3つの重要な質問

組織開発

2021年8月17日

本記事は、KEIEISHA TERRACE連載:戦略HRBPから見た、人・組織・事業・経営の現在&これから 第4回 「焼け石に水」な制度改変に終止符を打つ-体感型の人事評価制度を作るには、より転載を行っております。* 年の瀬の時期は、企業によっては期が変わるタイミングでもありますね。それと同時に、評価制度、評価項目、評価システムの見直しに取り組んでいる企業もあると思います。最近特に「形骸化してしまっている評価制度を改訂したいのだが、何を軸に見直しをしていいか迷ってしまう」というご相談をいただきます。その中でよく耳にする声として、以下のような代表的なものがあります。 従来の経営からトップダウンでのカスケード型(上から下へ連なって展開する型)の目標設定が時代に合っているのか分からない 今まで各部門に裁量を任せすぎていて、今更全社で一丸となって統率の手綱を引くような印象を与えることで、チームの士気を下げるような制度は作りたくない 部門の統廃合で、一人ひとりが自己完結する裁量を持たせたのは良いが、個人商店化してしまってチーム感を失った組織に課題を感じる。チームとの連携をもっと促進するような評価項目をどのように盛り込んだらよいか 数値目標だけに焦点を当てすぎた目標設定と評価で良いのか。何を達成するかも大切だが、同じくらいどのように達成するかの行動も評価しなくて良いのか 評価制度のどこを変えたいか、の前に、評価制度で何を成し遂げたいのか意図を明確にする 先述の相談内容を耳にして、私が最初にお伺いするのは2つの問いかけです。 評価制度をどのように変えるかどうかの話の前に、そもそもなぜ見直しをするのかの経営の意図は何か そこに寄り添った制度を実装すると、どのようなチームメンバーの行動が変容することを期待するのか、という明確なビジョンを持っているか 評価制度を何らかの形で変更したいという共通認識があるのであれば、つまりそれは、何らかの理由でその制度が機能不全を起こしていることを、皆さんが多かれ少なかれ違和感を持って感じているからではないでしょうか。まずは、その違和感について、きちんと話し合っていますか。多くの場合形骸化しやすい評価制度の特徴として、経営のメッセージや事業成長指針の方向性と分断されている、別個の評価のためだけの仕組みが出来上がっていることが挙げられます。結果として、組織やチームの中に目的意識を持って日々の仕事に向き合うという意識や視点が生まれず、ましてや自分事として主体的にエネルギーを投入して取り組む気力も起こらない。 つまるところ、「評価制度=形だけ・口だけの誰かが決めた言葉を羅列する年の行事」と認知されている。悲しいけれど、生々しい声をチームメンバーから聴くことになります。そのような生々しい声を聴くことを続けないためには、評価制度のあちらこちらのピースを部分的に改良する前に、経営を担うリーダーや人事を担うマネジャーやHRプロフェッショナルの皆さんには、以下の問いかけを自分たちに向けてしてみていただきたいのです、 私たちは、社会に対してどのような善を成し遂げる企業でありたいのか。その企業ミッション(存在意義)を明文化しているか。 そのミッションを組織の背骨と据えた時、経営を担うリーダーは、どの目的地を目指して旅路を歩めばよいかを繰り返しメッセージとしてチームに伝えているか。 また、目的地にただ辿り着けば良いだけではなく、旅路を歩む上で共通の約束事(行動指針、バリュー、コンプライアンス、インテグリティ、ガイドライン)を明文化することで、企業のフィロソフィー(哲学)を体現するチームメンバーの成長を促しているか。 上記の問いかけをしながら経営陣や人事を担うメンバーで対話を納得するまで深く議論することが、まず最初の第一歩です。この3つに皆が自信を持って共通言語化できたのであれば、次のステップに進みましょう。 それは、3つの「適」の視点から、制度というそれだけでは無機質な仕組みを、血の通った組織のDNAとして、実装することです。 「適材」-いかに素晴らしい制度でも、生かすも殺すもマネジャー/リーダーの資質次第である ミッション、ビジョン、ゴール、フィロソフィーが明文化されたのであれば、それを日々の対話の中で実装させられるかどうかは、ピープルマネジャー(チームを持つマネジャー)の力量にかかっています。制度設計と同じくらいか、それ以上に大切な投資は、血の通ったDNAを強力なプロモーターとして推進してくれるチームリーダーやマネジャーの人材育成です。また、そのようなチームを預かる要職ポジションには、先のフィロソフィーを体現しているロールモデルである人材の戦略的な育成、選出、配置を行うことです。時にはこの要職に適していない人材もいますが、それはその人材がこのポジションに適していなかっただけで、他に適した人材がいれば、バトンタッチも視野に入れて人材配置を行います。 「適所」-「人」と「成長」に焦点をあてた対話を通してポジションへのフィット感を評価する 人事評価の目的は、年初に決めたタスクが予定通りできているかを確認、管理することだと思っていませんか。プロジェクトのタスク管理であれば、ガントチャートを使って、チーム間で更新して共有すれば済むはずです。人事評価は、あくまでも「人」と「成長」に焦点を当てた目的意識を持った対話を促進する一つのツールです。自分が見えていないブラインドスポット(盲点)を、周りやマネジャーからの根拠のあるアセスメント(評価)を受け取ることによって、自分の認知の幅を広げていくことで、成長する手助けをしてくれるツールです。そのような対話の中で、自分自身のその職責や職務、ポジションへのフィット感についても見直す良い機会となります。人事評価という一つのきっかけによって、自分を多角的に認知することで、今後成長する方向性やキャリアの方向性について棚卸しする機会にも恵まれます。 「適時」-評価は1年に一回すればよい儀式ではない。フィードバックには賞味期限がある 人事評価はあくまでも、「成長」に焦点をあてた目的意識を持った対話を促進するツールだ、というお話をしました。そのためには根拠のあるアセスメント(評価)やフィードバックが、成長には必須ということでした。ただし、フィードバックの賞味期限は思っている以上に短いものなのです。エビングハウスの忘却曲線によると、人間の脳は20分後には42%を忘却し、1時間後には56%を忘却し、1日後には74%を忘却し、1か月後には79%を忘却すると言われています。よもすれば、明日には7割近くを忘れてしまっているということですね。人事制度を血の通ったものにするには欠かせない対話、その対話に欠かせないフィードバックは、気づいてからすぐに相手に伝えなければ、賞味期限はすぐ切れてしまいます。 ましてや、半年、1年に1回の評価面談や振り返りまで、その期間すべてのフィードバックをどれだけ溜め込んで相手に伝えても、とっくに賞味期限の切れた実感のわかない指摘を延々と伝えられる受け取り側の、納得感のなさとフレストレーションは小さくないでしょう。また、伝える側も実感が失われてしまった言葉に説得力を持たせるために苦慮しながら伝えるのも、辛いことでしょう。人事制度のローンチ時には、是非フィードバックの賞味期限を意識した対話の大切さについても周知、教育をしていくと効果的です。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。 *転載元記事: 「焼け石に水」な制度改変に終止符を打つ-体感型の人事評価制度を作るには| KEIEISHA TERRACE

自走するチーム、サーバントリーダーシップとは

組織開発

2021年7月20日

職場での責任が増し、リーダーシップを発揮してメンバーを引っ張っていかなくては!と思って頑張っていても、「何か空回りしている」「メンバーの覇気がない」などと感じたことはありませんか? もしかすると、それは引っ張っていくのではなく、支えていくリーダーシップ、“サーバントリーダーシップ”が求められている兆しかもしれません。 まずはおさらい“サーバントリーダーシップ”って? 数年前からしきりに聞かれるようになった“サーバントリーダーシップ”。 サーバントとは直訳すると「使用人」「奉仕」といった意味です。実際にサーバントリーダーには奉仕の精神が必要だといわれていますが、具体的にはどういったリーダーシップなのでしょうか? サーバントリーダーシップは1970年にアメリカのロバート・K・グリーンリーフが提唱したリーダー論で、「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考えに基づいています。 ただ、グリーンリーフによるサーバントリーダー論は、理論から導かれたものではなく、長年のマネジメント研究から直感的に導かれたものだそうで、彼以降も後進によって理論化されていきました。 その一人、ラリー・スピアーズによって、サーバントリーダーの以下のような10の属性が提唱されています。 傾聴(Listening)相手が望んでいることを聞き、どうすれば役に立てるかを考える。共感(Empathy)相手の立場に立って相手の気持ちを理解する。癒し(Healing)相手の心を無傷の状態にして、本来の力を取り戻させる。気づき(Awareness)鋭敏な知覚により、物事をありのままに見る。納得(Persuasion)権限に依らず、服従を強要しない。相手に納得を促すことができる。概念化(Conceptualization)大きな夢やビジョナリーなコンセプトを持ち、それを相手に伝えることができる。先見力、予見力(Foresight)現在と過去の出来事を照らし合わせ、そこから将来を予想できる。執事役(Stewardship)自分の利益よりも相手の利益を考えて行動できる。人々の成長に関わる(The growth of people)仲間の成長を促すことに深くコミットしている。コミュニティづくり(Building community)愛情で満ちていて、人々が大きく成長できるコミュニティを創り出す。 それぞれの内容に関しては、NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会が提示していますので、参照してみてください。また同協会では、サーバントリーダーが大切にする5つのバリューも以下のように提示しています。 個人を尊重する 導く サーブする 人の持てる力を引き出す 個人の成長へとつなげる 10の属性と、5つのバリューで、サーバントリーダーに求められるものが何となくお分かりいただけたでしょうか? では、実際にはどのようにサーバントリーダーシップは発揮されているのか、実例を見ていきましょう。 「社長だからと偉ぶれない時代」サイバーエージェント・藤田晋氏 サイバーエージェント社長の藤田晋氏は、サーバントリーダーシップを実行している一人です。サーバントリーダーシップに関して、さまざまな取材に応えたり、講演に登壇したりしています。 ある番組で藤田氏は、「SNSやインターネットの影響で、役職の権威によって下をついてこさせることが難しい時代になった」と答えています。一昔前は、社長といえば部下がひれ伏すような“お偉いさん”という感じだったのが、ネットなどの発言で考えていることが分かってしまって、そんなに大したものではないとバレるようになってしまった、と。 課長、部長といった役職が特権階級で、社長からの情報がそこで止まっていたのが、藤田氏自身、今ではSNS上で、新入社員とも会話をしているそうです。 その上で、藤田氏はサーバントリーダーシップを取っていて、「社員が働きやすい環境」や「成長しやすい環境」、「モチベーションが上がるような仕掛けとか仕組み」を心がけているそう。「リーダーシップを一言でいうと?」という問いに対しても「貢献」と答えていました。 その理念に基づいているのか、サイバーエージェントの社内制度には、リフレッシュ休暇やマッサージ室から、予防接種、部活動まで充実した「働きやすい環境」を整える福利厚生(もちろん、テレワーク環境の設備も!)をはじめとして、「成長しやすい環境」としての、次世代を担う人材発掘・育成を目的とした施策、若手社員がオーナーシップを持ち会社の未来を考えるプロジェクト、内定者でも挑戦できる新規事業創出プロジェクトなど、「モチベーションがあがる仕掛け」として、各種アワードなどが用意されています。 特にIT業界は設備投資より人財に投資する側面が強いこともあるでしょうが、制度のひとつひとつが、「その人の能力を最大限に引き出すには」にフォーカスされているように思われます。 人の成長=会社の成長。社長はじめリーダーはその成長を支えるサーバントなのです。 目指すは「究極のフラット」星野リゾート・星野佳路氏 コロナ禍で旅行業界が大打撃を受けている中、2021年から22年にかけて計9軒の新規開業を行うという星野リゾート。その代表・星野佳路氏も実践しているサーバントリーダーシップについて各所で話されています。 星野リゾートの前身「星野旅館」を継いだ際、「働き手がいない」という問題に直面し、「リゾートの運営の達人になる」というビジョンを立て、それを改名と将来像を明確に語ることで、スタッフに共感してもらうようにしたそう。しかし、共感度が高いスタッフほど現実とのギャップを感じ会社から離れていってしまう現実を味わったといいます。 そこで大切にしたのが、リゾートとしての施設の魅力を引き出すのと同じくらい、社員の魅力を引き出すこと。 基本的な考えは「習いたいと思う時に習いたいものを習わせる」だそうで、本人のキャリア目標や、成長していきたい気持ちをサポートすることを重視し、経営側で勝手に決めない、自分の将来を自分でコントロールできることを大事にしているそうです。 入社してもらうのに苦労した時期があったからこそ、入社したスタッフには長くいてほしいとの思いが強くあり、スタッフ一人ひとりの価値観と、その変化に合わせて支援をしていきたいという思いで接しているのだとか。 また、社員のモチベーションを保つためにコミュニケーションを大事にしていて、「議論のテーブルでは、誰でも対等な関係で話せる会社」を目指し実践しているそう。役職の重みで発言の力が増すのではなく、話の中身だけでものを考えられる、議論中は誰が社長で誰が部下なのか分からないような「究極なフラット」が理想です。 公式サイトの採用ページのメッセージにはニーチェの言葉が引用されていて「高い所へは他人にはこばれてはならない。人の背中や頭に乗ってはならない」と記されています。 自分の行きたい場所へ行くには、自分の足と頭をつかって行きつかなければならない。上司など他人の言うがままではいけない、そのための支援は惜しまないといったメッセージなのでしょう。 組織の規模に関わらず実践できることとは? サイバーエージェントも星野リゾートも、今や大きな企業ですが、サーバントリーダーシップは、組織の規模に関係なく有効なものです。 両者に共通するのは、役職に関わらず「コミュニケーション」を大事にしていることです。藤田氏は新入社員ともSNSで話すといいますし、星野氏も誰でも対等に話せる環境を重視しています。 これは、サーバントリーダーシップ10の属性の「傾聴」に当てはまるでしょう。単に“聴く”だけでなく、その中で相手が望むこと、それを実現するために役立てることを汲み取っていくのです。 また、未来を読み、ビジョンを明確にして示せること、メンバーの成長にとことん関わることも、共通項としてあげられると思います。 ただ、注意しなければならないのは「メンバーの言うがまま」するのではないということです。 星野氏が「ビジョンを現実に合わせてはいけない」と話すように、サーバントリーダーシップとは対話でビジョンを描くことはあっても、その採決をメンバーに一任しているわけではありせん。 時代に合わせたリーダーシップで部下の行動も変わる! 新型コロナウイルスの世界的な流行など、時代はまさに予測不能、VUCAです。急激に変化するビジネスの世界では組織の多様性が求められ、リーダーの意識改革も欠かせません。部下のパーソナリティや能力に合わせたマネジメントが求められるのです。 サーバントリーダーの育成を学校のビジョンとして掲げている青山学院大学の塩谷直也教授は、「人が変わるのに努力はいらない。誰かが本当に自分を認めてくれた時に、人は変わる」と言っています。リーダーが部下の話に耳を傾け、能力や価値観を受け止めることで、部下の心に火を灯していく。リーダーのこうした行動が多様性に富んだ強いチームや組織を作っていくのはないでしょうか。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

日本における障害者雇用:合理的配慮の事例とリモートワークの可能性

HR・人事知識

2021年7月20日

厚生労働省の調査によれば、2020年6月1日時点の民間企業における雇用障害者数は57万8,292人で、前年比の3.2%増、実雇用率も2.15%で前年比の0.04ポイント増となりました。このように、雇用者数は過去最高を更新しましたが、一方でその伸び率は鈍化傾向に。法定雇用率の達成率は48.6%と半数にも満たない状況です。 ますます求められる障害者雇用 そんな中、今年(2021年)3月に民間企業の法定雇用率が2.2%から2.3%へ引き上げられました。例えば、従業員が44人の企業はこれまで雇用義務がありませんでしたが、今後は障害者を一人以上雇う必要があります。また、すでに雇用している企業でもその人数を増やす必要性もでてきています。 障害者は「身体障害者」「知的障害者」「精神障害者(発達障害を含む)」に分けられますが、いずれの障害についても、雇用側は「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」といった課題点を挙げています。まずはイメージを持つためにも、「障害者差別解消法」によって求められるようになった「合理的配慮」について、採用・雇用の実例をみてみましょう。 身体障害者の雇用と合理的配慮 障害者の中でもっとも雇用人数が多いのは身体障害者で、視覚障害、聴覚言語障害、肢体不自由、内部障害、重複障害などの障害を持つ人です。 【身体障害者の雇用における合理的配慮の事例】 <採用時> 音声ソフトや点字を採用試験に活用した(視覚障害) 面接には手話通訳員を委嘱した(聴覚障害) ラッシュ時を避けた面接時間にした(肢体不自由) 面接会場の机の位置などに配慮、会場を1階にしてすべての試験を1会場に集約した(肢体不自由) など。 <雇用後> 危険箇所にはぶつかっても怪我をしないような工夫をした(視覚障害) 災害時に備え、避難時の手話ができるよう全社で研修を行った(聴覚障害) 就業中も休憩中も車椅子だと床ずれができるので、横になれる簡易ベッドを設置した(肢体不自由) 透析スケジュールを把握し、処置後は大きな負担がかからないよう業務量を調整した(内部障害) 身体的な障害なので、物理的な配慮を行っているところが多いようです。雇用上の課題も「職場の安全面の配慮が適切にできるか」という点を挙げている事業者が他の障害者を雇う場合より多くなっています。 【身体障害者の雇用における合理的配慮の具体例】 <カーペットの色で通路を示した不動産関係会社>*参照元 1 している障害者の視野が狭く、物や同僚の椅子などにつまずくことが多かった。テープで境界をつくるなどの工夫をしていたが、分かりにくく、事業所の引越しに伴い、カーペットの色を一部変更して通路とそれ以外のエリアのコントラストをはっきりさせた。色を決めるときは、障害者本人に確認してもらい決めた。以降、同僚も物の置ける範囲や、椅子の飛び出しなどに容易に気づけるようになった 知的障害者の雇用と合理的配慮 知的障害者の方には、「話している言葉は理解できるが、文章での理解は苦手」、またはその逆で、「相手の言っていることは理解できるが、自分の気持ちを表現するのが苦手」など、さまざまな方がいます。また、一定の時間に出勤することが困難であったり、体調に波があることや通院・服薬が必要なこともあります。 【知的障害者の雇用と合理的配慮の事例】 <採用時> 面接官との意思疎通に支障が生じないように就労支援機関の職員などの同席を認めた 本人だけでなく、保護や就労支援機関の担当も一緒に職場見学や勤務内容の説明を行ったなど。 <雇用後> 本人の習熟度などを確認しながら徐々に増やしていった 図などを活用した業務マニュアルを作成した 本人対し、会社や社会のマナー及びルール、通勤災害や労務災害予防の勉強会を開催した 知的障害者に対しては、障害者のメンタルに対する配慮が多くみられます。また、知的障害者の苦手なことに配慮された取り組みも多くの企業で行われています。 「採用時に適正、能力を十分把握できるか」が他と比べると、雇用上の課題として多く挙げられています。 【知的障害者の雇用における合理的配慮の具体例】 <障害者主体で問題点を改善したゴム製品の製造業企業>*参照元 2 障害者が60%という職場で、健常者主体の職場改善では障害者にとって使いやすいとはいえず、その経験から障害者主体で、「危ない」「やりにくい」「悩む」などの問題点を見つけ、改善する活動を行なっている。問題マップと改善マップをなど作り、オリジナルのピクトグラムを使って、分かりやすくしている。目指しているのは「障害者が悩まない作業、疲れない作業」。 精神障害者の雇用と合理的配慮 精神障害には統合失調症、そううつ(気分障害)病、てんかんなどがあり、発達障害には自閉症・アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害などがあります。それぞれ特性や症状が異なるため、雇用者はそれらを事前に知っておくといいでしょう。 【精神障害者の雇用と合理的配慮の事例】 <採用時> 面接官との意思疎通に支障が生じないように就労支援機関の職員などの同席を認めた 本人だけでなく、保護や就労支援機関の担当も一緒に職場見学や勤務内容の説明を行ったなど。 <雇用後> 本人の習熟度などを確認しながら徐々に増やしていった 図などを活用した業務マニュアルを作成した 本人に対し、会社や社会のマナー及びルール、通勤災害や労務災害予防の勉強会を開催した 知的障害者に対しては、障害者のメンタルに対する配慮が多くみられます。また、知的障害者の苦手なことに配慮された取り組みも多くの企業で行われています。 「採用時に適正、能力を十分把握できるか」が他と比べると、雇用上の課題として多く挙げられています。 【精神障害者の雇用と合理的配慮の具体例】 <親会社の仕事を切り出してITスキルの高い障害者を雇用したIT関連会社>*参照元 3 情報通信業に精神障害者が従事している率は高くない。しかし、実は職場環境に適応できずITスキルの高い障害者が定着していない場合もあったため、執務室を作る、パーテーションを設けるといった環境を整えることで、次代を担う人材として、精神障害者を育成している。 【精神障害者の雇用と合理的配慮の具体例2】 <福祉的な受け入れではなく”戦力”としての採用を行なった建設会社>*参照元 4 採用前の実習などを通して、障害者の意欲と、会社側の求めるものとのギャップを軽減していった。障害者用として特別な仕事を用意せず、アセスメントを重視、その上で業務分担を行なった。核となる日常業務にその他の業務を組み合わせる、個々で仕事に専念させるといった定着のための工夫もさまざま行なった。 合理的配慮はどこまで? どの障害者に対しても、例として紹介した配慮をはじめ、体調への配慮はもとより、対応専任者や臨床心理士をおく、ジョブコーチを活用するなど、さまざまな合理的配慮が提供されています。 しかし、それにも限界はあります。 例えば、テナントとして入っているビルがまったくバリアフリー対応をしていないとして、車椅子の人が不自由なく働ける設備を自前で整えるには、莫大な費用がかかってしまい、とても現実的ではありませんよね。 合理的配慮は「民間事業者は提供に努める」とされてはいるものの、過重な負担の場合は断ることもでき、罰則もありません。基本的には、障害者から「こうしてほしい」「こんなことが難しい」と申し出があったことについて協議し、お互いに合意した上で行っていきます。障害者のプライバシーへの配慮も重視しなければならないので、同僚に対して障害についてどの程度知らせていくかなども含めて、しっかりと話し合うことが必要ではないでしょうか。 リモートワークで障害者雇用は進むか コロナ禍で急速に広がったリモートワーク。コロナ収束後も、主な働き方の一つとして定着するといわれています。 特に在宅ワークであれば、普段生活している場所で働くことになるので、身体的にもメンタル的にも過ごしやすく、通勤自体がが苦痛だった人にとっては、願ったりかなったりかもしれません。 雇う側にとっても、リモートワークは環境を整えるのための費用を減らすことできますし、遠隔地に住む方々の雇用も可能になるため、より広く採用活動ができることもメリットになるでしょう。 しかし、例えば知的障害者の約4割は生産工程の職業に就いていて、その多くは工場などの現場での作業なので、リモートへの変換は難しいかもしれません。 また、対面であれば気づけた体調面やメンタル面のちょっとした変化に気づけず、ストレスを溜めさせてしまうことにもなります。 会社内で行う仕事と同じように、業務の切り出しを行って、リモートで採用するメリット・デメリットを考慮しながら進めていけば、新たな障害者雇用のスタイルになりうるでしょう。 合理的配慮は“雇用”だけの問題ではない 障害者差別解消法は、「共生世界」を目指したもので、障害者に対する合理的配慮の提供は、なにも雇用する企業・事業所だけに求められていることではありません。 生活のあらゆる場面で、障害がある、ないに関わらず、人間同士がふれあい、互いに”らしさ”を認め合い、共に生きていく。この考えを普段から皆がもっていれば、「障害者雇用!どうすれば?」と尻込みする必要はないのかもしれませんね。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

「働きがい」のある会社ってどんな会社?働きやすさとやりがいの秘訣

組織開発

2021年6月30日

「働きがい」のある会社ってどんな会社? 「働きがい」と聞いて頭に浮かぶことはどういったことでしょうか? 「社会や会社に役に立っている」「自分の望む生活を手に入れられている」など、人それぞれにイメージは違っているでしょう。 また、「働きがいのある会社」と聞いて、思い当たる会社はどこですか? 自分の会社は浮かんだでしょうか。 エントリーのあった会社をさまざまな観点で評価し「働きがいのある会社ランキング」を毎年発表しているGPTW(Great Place to Work)は、働きがいのある会社を、「働きやすさ+やりがいの両方が備わっている組織」と定義しています。 また国際経済労働研究所では、社会心理学の観点から「働きがい」をワーク・モチベーション(仕事に対する動機づけ)と定義し、働く環境が整備されたからといって働きがいが向上するとは限らないといっています。 つまり「働きがい」には、外環境も内からでる動機付けも必要であるということのようです。 なぜ「働きやすさ」も「やりがい」も必要か? この「働きやすさ」や「やりがい」についてよくわかる理論が、ハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論)です。 アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグが提唱した説で、仕事に対する満足と不満足を引き起こす要因に関する理論です。 この理論によれば、仕事に対する満足度は、ある要因が満たされると上がり、不足すると下がるということではなく、満足する要因と、不満足になる要因は別物なのだそうです。 不満足となる要因は「衛生因子」といわれ、その名の通り、予防的な役割を持つものの、労働への動機付けにとって積極的な効果はなく「経営と管理」「監督技術」「給与」「対人関係」「作業条件」 など職務環境が要因です。外在的報酬(外発的モチベーション)ともいわれ、GPTWがいうところの「働きやすさ」にあたります。 一方で、満足する要因は「動機付け因子」といわれ、直接的に人間を労働に動機付ける役割を果たし、「達成」「承認」「仕事自体」「責任」「成長」などの職務内容が要因です。内在的報酬 (内発的モチベーション)ともいわれ、こちらは「やりがい」にあたります。 下の図をみてください。 例えば、「達成」は満足に40%も寄与しますが、10%の不満足しか招きません。達成感を得られなかったとしても、不満足にはならないということです。 逆に、「会社の方針と管理」は35%以上の不満足を招きますが、10%ほども満足の動機付けにはなりません。つまり、会社の方針を共有した場合、不満足は解消されますが、仕事のやる気にまでは繋がらないということです。 そして、この内発的・外発的モチベーションには価値観も影響してきます。 内発的モチベーション寄りの価値観の人は、仕事そのものに関心が強く、自由裁量や責任を求めます。一方で、外発的モチベーション寄りの価値観の人は、給与など仕事以外に関心が強く、仕事はあくまで生活や趣味といった他のもののための手段であり、できる限り単純で楽な仕事を求めます。 内的・外的どちらも、欠けると離職に繋がりますが、どちらを重要視するかは、部下の価値観によってくるので、イキイキ働いてもらうには、彼らの価値観を知っておく必要があります。 不満足解消のため「働きやすさ」を整える 「働きやすさ」である不満足の要因は、マズローの欲求5段階説の「生理的欲求」「安全・安定欲求」、そして「社会的欲求」の一部を満たすものだと言われています。 具体的には、前項の図にあるように「会社の方針・管理」「監督」「監督者(上司)との関係」「労働条件」「給与」「同僚との関係」「個人生活」などがあります。 「働きやすさ」を整えるには、例えば 「会社の方針」を明確に示し共有するために、経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)をつくり浸透させる 綺麗でリフレッシュもできる、「会社に行きたくなる」オフィス環境を作る 給与を同業他社と比較して適正なものにする 個人生活を圧迫しないよう、労働時間と業務量を適正にする 休暇を取りやすくする 言いたいことを言える風通しの良い社内雰囲気を醸成する 360度評価など、社内の人間関係を良くする制度を導入するなどなど。 制度や数字といった、比較的目に見えてわかりやすい施策で整えることが可能です。ただ、これらは不満足の解消になるだけなので、やりすぎる必要はありません。たとえ会社が社員に対して至れり尽くせりだったとしても、やる気には繋がらないのです。 満足感増幅のため「やりがい」を整える 一方、「やりがい」である動機付けの要因は、マズローの欲求5段階説でいうと「社会的欲求」の一部と、「承認欲求」「自己実現の欲求」を満たすものです。 前出の図で見ると、「達成」「承認」「仕事そのもの」「責任」「昇進」「成長」といった要因になります。これらは得てして目に見えないものですが、可視化できるよう施策を打つことはできます。 例えば 明確で測定可能な目標を設定する 「〜アワード」など表彰される機会をつくる 成果に対して、昇給だけでなく、昇進という形で権限を拡大する 裁量の幅や規模を拡大する 本人の意向に沿った研修プログラムなどに参加させるなどです。 最近、「頑張って資料作っても、褒めてくれるのは飼ってる猫ぐらいで…」と悲哀漂うCMが印象的だった、某社が展開するサービスは、社内での個々人の貢献を可視化して、互いに褒めあおうというもの。”褒める”ことをシステム化かつ日常化するのも、承認欲求を満たして「やりがい」を高める施策のひとつとして有効かもしれません。 テレワークでも“やりがい”を引き出す、持続させる方法とは? GPTWが発表した2021年度版「働きがいのある会社ランキング」において、小規模(25〜99人)部門で1位に輝いたフラッグシップオーケストラは、コロナ対応が高く評価されての受賞となりました。 その施策の中身とは、「オンライン朝礼」。在宅勤務で互いに顔をあわせることが減ったため、全社員を対象にオンライン朝礼を実施。立候補制したメンバーから近況などの共有をしたり、役員の一言があったりする場となったそうです。立候補制とはいえ、皆さん一様に積極的で活気溢れる朝礼となり、また、役員とメンバーとのコミュニケーション頻度が上がり、社員全員が同じ目標に向かっているといいます。 リモートワークだと、自分の仕事も他人の仕事も見えなくなってしまいがちですが、それを共有することで、お互いの状況、貢献などを確認できます。また、経営層との目線合わせができることで、安心感にもつながるでしょう。まさに「やりがい」と「働きやすさ」を備えた施策です。 テレワークでもちょっとした工夫で「働きがい」を担保できる好例ではないでしょうか。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

予測不能な VUCA 時代に必要なキャリアの描き方

2021年6月11日

一社で長く働くことが「正解」でも「当たり前」でもなくなった今、キャリアの描き方は多種多様になりました。岐路に立つ機会が多い時代だからこそ、「何を基準に、どう人生を泳いだらいいのか」が分からないビジネスパーソンも多いのでは? ソフトバンクで採用・人材開発統括部 統括部長を務める足立竜治さんは「迷ったら大変なほう」「なんとかなる精神」で歩んできたそうです。足立さん流「キャリアの波に乗るコツ」をお伝えします。 人事を目指してきたわけではない “偶然キャリア” 35 CoCreation合同会社CEO 桜庭 理奈(以下、桜庭):足立さんはソフトバンクで、人事の役職を歴任されてきました。もともと人事を目指してきたのですか? ソフトバンク 採用・人材開発統括部 統括部長 足立竜治さん:いえ、まったく違うのです。私のような人間が今の立場にあるのは、恐縮するばかりです。運やご縁に恵まれて今があると思っています。 学生時代に志したのはパイロットでした。ところが、就職氷河期で、航空各社の採用は凍結。しかたがないので1年間、カナダで過ごしました。今振り返れば、ギャップイヤーだったのだと思います。 桜庭:良い経験だったのですね。 足立:なにより、多様な価値観に触れたのが貴重な学びで。自分と他人では、ものの見方が違うのは当たり前。そう捉えるようになったのは大きかったですね。 桜庭:きっと自然と身につけられたのですね。帰国後はパイロット選考に? 足立:はい。ですが、最終面接の一つ手前、健康診断で不合格になってしまって。パイロット一本で考えていましたから、当然他の選択肢はありません。どうしようかと思いましたが、通信業界が伸びるのではと、国際通信の会社で営業職に就きました。 ところが入社した年、会社が買収されるのです。私が配属された支店では、国際通信の出身は私一人。他店の先輩に電話で聞きながら、なんとかお客さまと接していました。このとき、お客さまの声を真に聞くように努力したのは、キャリアとして大事だったと思います。 桜庭:大変な中に、学びがあったのですね。 足立:そうです。その後、会社がソリューションエンジニアの育成を始めたので、私も手を挙げてゼロから学びました。当時は、一生の仕事にするつもりだったんです。ところが数年後、声がかかります。「1年間のレンタル移籍で人事に行ってほしい」と。1年だったはずなんですけどね、もう15年が経ちました(笑)。つくづく偶然に導かれるキャリア…“偶キャリ”だと思います。 自由演技できるロジカルな世界 人事の面白さに目覚める 桜庭:人事に偶然たどり着いて15年。足立さんにとって人事は面白いお仕事ですか? 足立:こんなに面白いものはありません。異動から半年経った頃に気づいたのです。自由演技できるロジカルな世界だと。仮説を立て、正解らしいものを信じ、形にしていく。エンジニアや営業とは違う、答えのない面白さです。 桜庭:答えがないからこそ、ロジックを用意して臨めば、余白は無限大だと思ったのですね。「自由演技でロジカル」なお仕事で、何が印象に残っていますか? 足立:新規事業の提案制度です。同様の制度があるリクルート出身の上司からヒントをもらって、取り組みました。最終的には好評でしたが、かなり試行錯誤しまして。その過程は「人事とはこうあるべき」という凝り固まった意識を解放する経験だったと思います。 桜庭:凝り固まった意識を解放する。大切なメッセージです。 足立:最初は、会議室で話してもアイデアが出なくて。当時の本社は浜離宮庭園の隣にあったので、煮詰まったら、みんなで庭園に行ったんです。浜離宮の頭文字から「H会議室」と呼んで(笑)。意外と良いんですよね。 桜庭:わかります。凝り固まった意識を変えるための習慣がある気がします。足立さんも身につけていそうです。 足立:偉そうなことは言えないですが、私は自信がないので、自分の考えが絶対だと思わないのです。客観的に見るように心がけています。これはエンジニアのときの上司の影響でもあります。「仕事は『やって終わり』ではない。その完成度を客観的に確認して、初めて完結するんだ」と言われ続けていたので。 桜庭:一歩引いて大きな視野で捉える習慣が、今も活かされているのですね。 キャリアの岐路に立つとき、「迷ったら大変なほう」 桜庭:足立さんは人事の中でも様々なキャリアを踏んでいますよね? 足立:今年度から採用と人材開発の責任者になり、給与を除く人事の全分野を経験したことになります。初めは制度人事で、3社統合でソフトバンクが拡大した当時、制度統合や文化合わせをしていました。その後、スプリント買収にあたり新設されたグローバル人事の部長として3年間。その後、HRBP(HRビジネスパートナー)を5年間やってきました。 桜庭:岐路に立つときに、足立さんは何を考えますか? 足立:私がいつも決めているのは「迷ったら大変なほうを選ぶ」。「大変なほう」とは、「努力しないと届かないほう」です。根がズボラなんですよね。だから、自分を叱咤激励するためにも、大変なほうを。振り返ったときに充実感がありますしね。 桜庭:自分が伸びていくほうなんですね。これまでのキャリアを振り返って、足立さんはご自身をどういう方だと思いますか? 足立:私は自由人だと思います。 桜庭:自由人とは……? 足立:能天気かもしれませんが、なしたいと思えばなせる、と信じているんです。言い換えれば、ケセラセラの精神。自分も周りの方々も可能性は無限大で、必ずなんとかなります。そう思う雰囲気は周りに伝わっているように感じます。チームメンバーにも「やってみよう」と思ってもらえているのではないかと。自分で言うのは恥ずかしいですけど、「足立さんと働くと楽しい」と言ってもらえることが多くて。 桜庭:素晴らしいですね! 「なんとかなる」と思うのは、根拠があるのですか? 足立:特にないんですけど(笑)。ただ、自分は運がいいんです。小さい頃から「なんかツイてるな〜」と思っていました。そう思っているだけで、良い方に転がっていくのではないかなと信じているんです。 不確実な時代に、“なんとかなる”精神で自分の豊かさを広げる 桜庭:なるほど。それが足立さんの秘訣なんですね。一方で、「なんとかなる!」と思えない人もいると思います。そういう方にアドバイスするとしたら、足立さんは何を伝えますか? 足立:私なんかが恐縮ですけど、お話させていただくとしたら……。小さなことを成し遂げるのは、第一歩になるのではないですか? 何かひとつのことを一心に突き詰めてみるのはどうでしょうか。目の前のことを一つひとつ成し遂げると、次のご縁は生まれてきますから。 桜庭:スモールステップで自信をつける、と。 足立:そうです。どんなに時代が変わっても、人間は、人と人との関係で生きています。仕事は信頼関係です。信頼は一足飛びに生まれませんから、一つひとつやり遂げることから。古臭いですけどね。 桜庭:いえ、今は、基本的なことに戻るのが大事な時代だと思います。最後に、足立さん流、人生を泳ぐコツを教えてください。 足立:私自身、この先のシニア時代にどう生きようかと考えているのですが、人生100年時代には、世の中に価値を提供し続ける自信が必要だと思います。そのためには、成長し続ける意志を、いくつになっても持ち続けるのが大事ではないでしょうか。周りの先輩方を見ても、そうだと思います。 あとは、ライフとワークどちらも同じくらい楽しむことですね。仕事の環境はどうなるかわからないですし、流されるしかない部分もあります。でも、せっかくの人生、豊かにしないと楽しくありませんから。ライフとワークのバランスをとりながら生きると、VUCAの時代は波に乗りやすいのではないでしょうか。 桜庭:成長にワクワクすること、仕事だけでなく自分自身の豊かさを広げていくこと。新しい時代では、自分の魅力を開発し続けるのが必要なのかなと感じました。 足立:おっしゃるとおりですね。それは循環すると思います。私はトライアスロンをやっていますが、会社とは別のコミュニティに属すると、双方向に影響があると実感しています。 桜庭:生きやすくなる気がしますね。私も同感です。今日はありがとうございました。 編集後記(桜庭) 足立さんとはあるパネルディスカッションで、登壇者としてご一緒させていただきました。その時から、「この方は運に味方されるチャーム(魅力)を持ち合わせた方だな」という印象を持っていましたが、今回のインタビューで改めて確信に変わりました。特に根がズボラなので、だからこそ自分を叱咤激励するためにも、大変な方を選んで突き進むというのは、清々しいお言葉でした。不確実性が高まる時代だからこそ、思考だけで解決するのではなく、まだ決まっていない「余白」を「なんとかなる」精神で楽しんでしまう足立さんの姿勢に、自然と笑顔がこぼれました。決められていないからこそ、自分に選択する余白があるということを教えていただきました。

HRの変革が事業を伸ばす! 本質を問う力とグローバル人事の挑戦

組織開発

2021年4月26日

事業の成長に貢献するHRとは――。 ビジネスにおいてHRが果たす役割に期待が高まっています。さまざまなHR手法が取り入れられるようになりましたが、日本電気株式会社(NEC)でグローバル人事部長を務める工藤 司さんが投げかけるのは、手法論以前に「本質を問うこと」の大切さです。 事業成長に真に貢献できるHRになるには、どのような思考法や行動が求められるのでしょうか。グローバルなチャレンジを続ける工藤さんに聞きました。 バウンダリレスオーガニゼーション(境界なき組織)をめざすNECのHR変革 35CoCreation合同会社CEO桜庭 理奈(以下、桜庭):今日のお話を楽しみにしていました。私を前職のGEヘルスケアに採用してくださったのが、当時、同社の人事部長だった工藤さんでしたね。その後、工藤さんはコニカミノルタを経て、2019年にNECに加わりましたが、グローバル人事部長としてどのようなことから着手されたのでしょうか? NECグローバル人事部長工藤 司さん(以下、工藤):まずは事業と組織の課題・機会がどこにあるのか見つけるために、世界中の拠点を訪問し、社員の話を聞くことから始めました。経営陣から若い層まで、入社2ヶ月で世界中の社員200人は会ったと思います。 すると、どのリージョンでも、同じことを言われたんです。「日本の本社はブラックボックス。何をやっているかわからない」と。その上、「本社は、ある日突然『新しい施策です』とガチガチに仕上げたものを投げてくる」。各国のNECに勤める人も、各々の分野のプロフェッショナルです。当然、こう思いますよね。「自分たちも十分に経験があるのに、なぜ議論にいれてくれないのだろう」と。 桜庭:なるほど、よくわかります。 工藤:海外ビジネスに携わっている3万人の社員のうち、日本の本社にいるのはたったの600人です。日本から海外に駐在する人も300人に過ぎません。それなのに、全体の3%にすぎない日本人だけで作った施策をリージョンに展開し、「この施策はうちでは使えないよ」と言われる。その繰り返しだったわけです。 桜庭:それを変えていこうとしているのですね。 工藤:はい。先ほどの世界中の社員の声は一見すると苦情のように聞こえますが、突き詰めて考えると、海外ビジネスに携わる社員3万人の力がフル活用されていないということです。彼らの力をグローバル全体で結集すればビジネスはもっと成長するはずです。 だからこそ目指すのは国や法人の枠を超えて世界全体を一つの組織と見なして行動する横断的なチーム「バウンダリレスオーガニゼーション」。まずは人事部の組織改革から始めました。 地域ごとの人事を担う「リージョン」、事業部と連携し成長を最大化する「ビジネスパートナーチーム」、HR各専門領域の施策(例:組織・人材開発プログラムなど)を全世界横断でリードする「COE(Center of Excellence)」の3つのチームに再編成しています。この3つのチームで連携してグローバルな人事戦略を作り上げました。 本社機能は日本になくても構いません。COEでは、組織人材開発のリーダーとしてイギリスでオーストラリア人を採用。HRシステムのリーダーもイギリス、報酬のリーダーはオランダにいます。 桜庭:すばらしいですね。ポジションに合う人を探しにいく、本当の意味での「適材適所」では。 工藤:そうですね。社内ではあえて「適『所』適『材』」と言っています。ビジネスに必要なポジション(「所」)をまず考え、もっとも適した人「材」はだれかを考えるのです。これまでの日本企業は、いる人材に合う組織を作ろうとしてきましたが、その逆。この考え方を自分のグローバルHRチームに当てはめた時に、私が期待したCOEの役割を果たせる人材は日本にはいなかったので海外で採用したという経緯です。日本が本社なのだから本社機能であるCOEは日本になければいけないという既成概念を変える必要があります。 事業成長へ導く変革に不可欠なのは「本質を問う力」 桜庭:力強く取り組んでいる様子がうかがえますが、社員のマインドセットを変え、HR変革を進めるのは簡単なことではありません。どのように社内の理解を広めていったのでしょう? 工藤:例えばダイバーシティに取り組むのは、世の中の流れだからではありません。事業の成長につながるからです。ビジネスモデルや外部環境の変化を踏まえ、社員の声やデータをもとに、変革が必要な理由をストーリーとして伝えていきました。すると理解者は増えていきます。 桜庭:「Why」を伝えていくのですね。 工藤:HRのメンバーにも、Whyをしっかりと議論するよう伝えています。「How」、つまりオペレーションの話はその後です。組織変更にしても、「ビジネスの目的を達成できる組織とは?」といった議論を省略しては、本質からずれた意味のない施策になってしまいます。 桜庭:とても共感します。工藤さんはこれまでのキャリアで、本質を問う力を身に着けてこられたのだと思います。 工藤:振り返ってみると、自分がこれまで出会った尊敬するグローバルリーダーは誰もがこう言うんです。「クドウ、その人事施策でビジネスは成長するのか?」と。非常にシンプルですが深い問いです。様々なHR手法を取り入れる以前に、自らに問い続けることが大切ですね。 本質を問う力の鍛え方 ビジネス戦略と人事施策のつながりを可視化 桜庭:それはよい問いですね。企業である以上、ビジネスの成長は外せません。 工藤:HRに求められる能力は、今、変わってきていると思います。従来の日本企業は、雇用の流動性が低く年功序列型。HRに期待されたのは、安定的な制度運用でした。ゼロベースから発想する経験をしていない人が多いと思います。それなのに、最近になって突然HRもビジネスパートナーとしてビジネスへ貢献せよと急に求められる。酷ですよね。 桜庭:なるほど。企業の成長においてHRが担う役割が大きくなっている今、HRはレベルアップしなければなりませんね。工藤さんのような本質を問う力は、どのようにすれば鍛えられると思いますか? 工藤:私のチームで行ったのは、ビジネス戦略と人事施策を可視化するトレーニングです。それぞれの担当事業について、ビジネス戦略を箇条書きで紙に書き出してもらいます。その上で、戦略の実現にどのような組織・人材上の課題があるか、その解決にはどんな人事施策が有効かを書いていきます。 ところが、出来上がったものを事業部長に見せに行かせると、たいてい合っていないのですよ。そこで、戦略や課題を部長からあらためて聞くわけです。これを繰り返すと、ビジネスリーダーが組織を見る視点を自分のものにできます。同時に、リーダーに新しい見方を提供できることも体感するでしょう。 桜庭:大事な視点ですね。HRは組織や制度という箱を作るだけでなく、そこに魂を込めなければビジネスに貢献できませんから。 工藤:最近では日本のHRビジネスパートナー全員を対象として「HRBP Re-skilling Camp」という6ヶ月間の研修プログラムも全社で新たに導入しました。HRに大きな変革が求められる大転換期に「変わらないとダメだ」と号令をかけるだけではなく、HRBPとして身に付けるべき新たな知識・スキルの習得やコンピテンシーの向上を会社としても強力に支援し始めています。 また、本質を問うべきという点に話を戻すと、これは日本企業のHRだけの話ではなく外資系企業のHRも同じです。特に米国系企業は本社が強くトップダウンの傾向にあるため、日本で働くHRの人たちは本社が作った仕組みの上で本質を突き詰めて考える機会が少ないかもしれません。本社施策を受け入れるだけではなく、日本市場のビジネス成長に有効か、グローバル全体としてどうあるべきかを本社と議論する姿勢が必要だと思いますね。日本は、グローバルに活躍できるHR人材が世界的に見ても圧倒的に少ないです。これは言葉の問題だけではないです。本質を問う訓練を続けていくと、アジア・パシフィックや米国本社のポジションを取れるようになると思います。 自分自身が境界を超え、事業成長に貢献するHRへ 桜庭:今、重要な気づきをいただいたと思います。事業成長に貢献できるHRになるには、まず自分自身が少しチャレンジして、現在地から境界を超えていくのが大事なのではないでしょうか。ただ、超えてみたくても超えられない人もいると思います。そういう人にはどんな言葉をかけますか? 工藤:なんでしょうね……。失うものはないと思いますよ。失敗を失敗と思わず、重要な気づきを得る機会だったと思えば。あとは、自分の理想とそのためになすべきことを冷静に見つめ直し、行動すること。夢や目標はワクワクするものですが、現実を冷静に見るとゴールが遠すぎて諦めたい気持ちになるかもしれません。一足飛びに夢や目標にたどり着ける人なんてほとんどいないんですから、まずは自分にできることからやってみることです、どんなに小さい一歩であっても。その一歩一歩の積み重ねが成長であり、途中で新しいことを見つけるかもしれない。自分の境界から一歩踏み出すことで、成功しても失敗しても必ずその人の成長の糧になると思います。 桜庭:工藤さんはグローバルな環境で働いてきましたが、日本人がグローバル人事として活躍する上では、言葉の壁もあります。 工藤:そうですね。でも、会議で一度でも発言すると決めて、続けていくと、次第に気持ちがほぐれてくると思います。私自身もそうでした。境界を超えるには、コンフォートゾーンを抜け出し、新しい環境に身を置く努力をし続けることではないかなと思います。 桜庭:素敵ですね。一歩踏み出す勇気だと思います。工藤さんがNECのHR変革に取り組まれてもうすぐ2年です。今、そしてこれからをどのようにご覧になっていますか。 工藤:社内からはおおむねポジティブに捉えられていると思います。特に海外はそうです。NECの真のグローバルカンパニーに向けた挑戦はこれから3年かかるのか、5年かかるのか、もっとかかるかもしれません。HRとして絶対に外さないのは、事業の成長に貢献するという軸。成長に至るアプローチ自体は、事業環境の変化に合わせて変えながら、挑戦し続けたいと思っています。 桜庭:素晴らしいチャレンジですね。「Why」を突き詰めた上で走り出すと、何年かかっても軸がぶれないのだと思いました。本日はありがとうございました。 編集後記(桜庭) 私が出会ったHRプロフェッショナルの中でも、群を抜いてビジネスインパクトを最大限に出すことに真摯に向き合い、結果を出すことにフォーカスしている方が、工藤さんです。それでいて非常に謙虚で、常にエンパシー(共感)や人間がエモーショナルな存在であることを忘れないバランス感覚に、改めて感銘を受けました。常に変化する環境の中で、人の集合体である大きな組織をリーダーとして牽引していく姿と、一人ひとりの人に向き合う姿と、ディスカッションの粒度の幅がとても広い方だな、と感じました。コロナ禍という不確定要素が多い市況下において、大変勇気をいただきました。

組織開発|成長する事業に欠かせない「グロースチーム」の存在と役割 - 35 CoCreation (サンゴ コ・クリエーション)コラム

成長する事業に欠かせない「グロースチーム」の存在と役割

組織開発

2021年4月12日

プロジェクトをはじめたものの、何だかうまくいかない……。そのお悩みは、社内人材で構成された「グロースチーム」が解決してくれるかもしれません。 そこで今回は、Facebook社の目標を達成させた「グロースチーム」の存在と活用方法についてご紹介します。 企業が「グロースチーム」をつくるべき理由 グロースチームとは、事業単位ではなく、細かな目標達成に向かって、各分野に長けた人材が集結し、協働するチームのことをいいます。 従来各事業分野ごとに分けられた部署で仕事をするスタイルグロースチームプロジェクトの成功を目的に、多様なスキルを持った人々が連携する組織 最近は、業務委託など社外人材を活用する企業もあるようです。しかし、より迅速で的確な企業の成長を実現するためには、社内の人材でグロースチームを結成することが理想的とされています。 「グロースハック」から見る「グロースチーム」の必要性 グロースという言葉から、「グロースハック」を連想する方も少なくないでしょう。グロースハックとは、自社の製品価値や市場ニーズを正しく把握するためのデータ分析やユーザーの行動分析を行い、実験的アプローチをハイスピードで実装、検証、改善することで事業を急成長させるマーケティング手法です。 そこでは、エンジニアだけでなく、マーケディング部門やプロダクト部門などとの部門横断的な連携=グロースチームが必要とされています。バランスの良い業務を行うためにも、企業がグロースチームをつくる意義はますます高まりそうです。 Facebook社が誇る「グロースチーム」の存在 グロースチームを取り入れた成功例として、SNS界で確固たる存在感を放つ「Facebook社」があります。毎月のアクティブユーザーを10億人以上にまで増やしたFacebook社の成功の秘訣は、グロースチームが掲げた目標と達成によって成し遂げられたといっても過言ではありません。 そこで、グロースチームのモデルケースとしてFacebook社を詳しく見ていきましょう。 ミッションを達成するために構成されたFacebook社のグロースチーム Facebook社のグロースチームは、専門知識を持つ部署単位で作業をするのではありません。新規ユーザー獲得という目標を達成するために、次のようなフロー別にそれぞれがチームを組み、役割を遂行したといいます。 ◆ビッグデータの分析 グロースチームのなかでも、最も重要な役割を持つとされているのが、「ビッグデータの分析」。具体的には、次のようなプロセスを繰り返すことで、成功を導いたといわれています。 ユーザー数を伸ばすための仮説を考える 仮説を検証するために、ログデータを集めてプログラムをつくる 集まったデータを分析する 分析結果に応じて、変更やテストを行い、テスト結果を測定する ◆新規顧客の獲得 Facebook社のグロースチームでは、インターネットマーケティングに特化した人材が、次のような施策を使って、新規顧客の獲得(ダイレクト・アクイジション)を実現したといいます。 SEO:検索エンジンで、発信した情報が上位に表示されるための施策 PPC:クリック課金型広告(リスティング広告)を活用した施策 Eメールマーケティング:関連情報が記載されたEメールをユーザーに配信する施策 ◆製品開発 Facebook社のグロースチームでは、新規ユーザーの行動に応じた製品開発を行ってきました。具体的に構築したのが、次のような点です。 ログアウト状態でも、一種の広告ページとして表示されるFacebookページ 新規ユーザー獲得に関するフロー 新規ユーザーの登録フロー Facebookの内での通知・広告 その他:ユーザー数の増加に関連するすべての施策 ◆組織で共有する価値観の確立 Facebook社内には、次のような2つのタイプのチームが存在するといいます。 データドリブンなチーム:数値化できる基準を目標にする データドリブンではないチーム:成果に向けた、行動の価値を測る これら2つのタイプの間に入り、問題解決や考え方を調整するのも、グロースチームの大事な役割とされています。 ◆人材採用 会社が成長することで、転職希望者も増加します。そのためユーザーの増加という目標を達成するためにも、優秀な人材を採用するための専門グロースチームの活躍が必要となったのです。 事業目標に向けた施策を社内のチームのみで遂行しているのもFacebook社の特徴ですが、これも優秀な人材を採用することが大事なミッションだからこそ。外部人材を加えずに迅速な施策を行った結果、事業目標が達成されたのです。 【企業の成長のために】グロースチームの役割構成 Facebook社と同様に、目標達成に向けたグロースチームを結成する際、どのような人材で構成するとよいのでしょうか。おすすめの役割別に、それぞれの特徴をご紹介します。 ◆グロースリードグロースチームの目標とスケジュールを設定、管理する。◆プロダクトマネージャープロダクトの責任者。グロースチームの人材構成の決定も担う。◆エンジニアエンジニア目線のアイデアから、機能の構築を行う。◆マーケティングスペシャリストエンジニアと協働しながら、目標達成に向けたアイデアをマーケティングで形にする。SEO、SNSなど、専門分野別にアサインする。◆アナリスト顧客データの収集や分析を行う。◆プロダクトデザイナーユーザーの心理や行動を想定しながら、ユーザーが操作しやすいプロセスを構築する。 このようにグロースチームは、細かな役割を持ったメンバーで構成されることが理想的です。ただし、プロジェクトの規模や予算、もしくは人材のスキルによって、いくつかの役割を兼務することもあります。こうした構成によって、よりコアな需要まで手が届き、プロダクトが成功へと導かれるのではないでしょうか。 企業を支えるのは、目標とやるべきことを共有するグロースチーム Facebook社だけでなく、世界、そして日本国内外でも多く取り入れられている「グロースチーム」。一人ひとりのスキルが重要視される現代において、チームが一丸となって目標に向かう姿勢が必要と考えられています。 そして共通する目標に向かって進むためにも、一人ひとりが点と点の仕事をしていてはいけません。協力と情報共有を徹底したグロースチームが、成長する企業にとって欠かせない存在となることでしょう。 桜庭 理奈 2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。